映画『半世界』のいい男たち、取材現場から。稲垣吾郎の存在感。

Culture 2019.01.19

2019年2月15日より公開される映画『半世界』。本作に出演する、稲垣吾郎さん、長谷川博己さん、渋川清彦さん、阪本順治監督の、いい男たち4人にフィガロジャポン本誌3月号掲載記事のため取材した際の舞台裏を紹介。互いの印象も個別インタビューで語ってくれた素敵な男たち、初回は主演の稲垣吾郎さんが登場です！

2018年10月30日。
この日は朝から仕事が入っていたという稲垣吾郎さんは、午後1時に六本木のスタジオに現れた。ちょっぴり疲れた表情で。
取材が行われた日は東京国際映画祭での『半世界』上映日。舞台挨拶を挟んで六本木近辺のスタジオで数本の取材を受けるという、ハードスケジュールだ。

スタイリストの方と相談して稲垣さんに纏っていただいたのはグッチの服。いまもっとも注目されているブランドを着て、ただし明るい笑顔ではなく、繊細な表情でカメラの前に立っていただきたい、というリクエストをこちらからした。カメラマンはあえて、あまり稲垣さんに話しかけないように撮影を進めていった。それゆえ、スタジオではシャッター音が大きく感じられたかもしれない。
今回は、稲垣さん、長谷川さん、渋川さん、阪本監督、4人全員を、フィルムで撮影すると決めた。撮影直後のインタビューで稲垣さんが話してくれた、「阪本組はクラシックな映画撮影方法で撮った、それがかえって新鮮だった」、という言葉とちょっとシンクロするかもしれない。

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稲垣さんは、阪本監督の『半世界』を「光を捉えることに時間をきちんとかけた、美しい映像だと思った」と言った。そして、その部分にも特に注目してほしい、と付け加えた。

演じた炭焼きを生業とする役、絋に関して稲垣さんは、「自意識があまり強くない役は初めてかもしれないです。平野啓一郎さんと『ゴロウデラックス』でお話した際に、僕に合う役柄としてスイスの時計職人と。職人、という意味では、今回の絋役はそれと近いなと思いました」

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作品の中の、妻役初乃の池脇千鶴さんとは連れ添った夫婦としてのラブシーンもあった。そこについて尋ねると、「いまの僕にはああいう女性が合うのかも。いまを考えると、30代の自分より、いまの自分のほうが好きです。でも、30代があってこその“いま”ならそれもいい」

『半世界』の中で泣かずにはいられないシーンがある。ネタばれになってしまうのでここでは多くは書けないけれど……。
「あのシーンは演技力より、運動神経を使いました。池脇さんが本当に入り込んだ演技で。あんなにいい演技されているのに僕のせいでNG出すわけにはいかない。同じシーンで、長谷川博己さんの『すまん』という声がジーンときた。演じ手というよりも、観客の気持ちになってしまいましたね」

稲垣さんは、言葉を持っている人だ、と感じた。それは帰り道に、インタビュアーもまったく同感だと。「自分の本当の姿ってわからないですよ、14歳の時から芸能界にいるから。でも、現在の自分ありように、疑問はありません」と、語ってくれた稲垣さん。「わからない」という言葉を、日本のトップスターがまっすぐに語ってくれる、それは揺るぎない軸を持っているからこそだと思った。そして、そう語れてしまう稲垣さんのけれんみのなさに、人としての強さを感じた。