テキスタイルからデザインする丁寧なものづくりをモットーに「特別な日常服」を提案し、国内外で高い評価を得ているブランド、ミナ ペルホネン。デザイナーの皆川明は、1995年「せめて100年続くブランドに」と願ってブランドを立ち上げた。その100年のうちの、ちょうど四分の一にあたる25周年をもうすぐ迎えようとするいま、ミナ ペルホネンと皆川明のものづくりを「つづく」というキーワードで繋ぐ展覧会が、東京都現代美術館で開催されている。
展覧会のはじまりは「実」の部屋から。オリジナルテキスタイル「タンバリン」が、服からインテリアまで形を変えて長く親しまれている様子が観て取れる。
展示室は、「実」「森」「風」「芽」「種」「根」「土」「空」という8つの部屋に分かれ、「実」の部屋では、いまやブランドのアイコンともなったテキスタイル「タンバリン」の誕生を工場の生産風景から展示。その布が服からバッグ、家具へと形を変えながらいまも継続して作られている過程を紹介している。
歴代のコレクションが並ぶ「森」の部屋は、特別な洋品店のような雰囲気も。
「森」の部屋では、歴代のコレクションアーカイブから選び抜いたワンピースやトップ&ボトムスのコーディネートが、文字どおり「服の森」となって私たちを包み込む。
続く「芽」や「種」の部屋では、テキスタイル案の芽吹きとなったスケッチや、さまざまなアーティストとコラボレートした作品の源を。「根」の部屋では、皆川個人の仕事にスポットを当て、朝日新聞のコラム「日曜に想う」のために2016年から描き下ろしている挿画や、日本経済新聞に掲載された川上弘美による連載小説のための挿画を一望することができる。
「芽」の部屋では、生地のためのデザイン画を紹介。手描きの線や色の重なりのあるプリント用原画、ステッチの立体感まで想起させる刺繍用図案は、国内有数の生地工場へと手渡されテキスタイルとなる。
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そして、何よりも心を打つのは、展覧会が終わりに差しかかる「土」の部屋に展示された15点の服たち。ここでは、ミナ ペルホネンの服とその持ち主との関係に焦点を当て、個人が所有する服を、彼らが語るその服にまつわるエピソードとともに紹介している。「このワンピースを手に取ると愛猫と過ごした遠く20年前の夏の日に戻ることができる」と綴る人もいれば、「袖を通した瞬間、この服と過ごす自分の姿が見えたような気がした」と語る人もいる。そこには、幸せな物語や胸がキュンとするエピソードがあるのだけれど、それこそが、服と人、あるいは、ものと人の自然なかかわり方といえるのかもしれない。
時の経過にも色褪せない服を追求してきたミナ ペルホネンが、購入者たちに手渡してきた個人の服を、それにまつわる彼らのエピソードとともに展示する「土」の部屋。
皆川明は、日頃から「人はものを物質ではなく感情でとらえている」と考え、何年もかけて人の人生に寄り添い、ともに時を重ね、使い手の人生の一部となっていくような服を作りたいと歩み続けてきたのだが、この「土」の部屋では、ファッションにおける素材やデザインというものが、どのように「人の記憶」に変化しうるのか、それを現実のこととして確認することができるのだ。そうした意味でこの展示室の存在は、観る人に「ものとは何か」「愛着を持って使い続けることとは?」といったさまざまなことを投げかける。
「種」の部屋には、国内外のクリエイターやアーティストとの協働事業の紹介の奥に、皆川が構想する簡素で心地よい宿、実物大の「shell house」。
テキスタイルをデザインするところから始まったミナ ペルホネンは、服作りで余った布をパッチワークして「piece,」というバッグのシリーズに仕立て、最後まで使い切ることや、経年により擦り切れた時にも下から別の色が顔を出すテキスタイル「dop」を開発するなど、変化の著しいファッション業界において流されることなく、いやむしろ着々と、サステイナブルなものづくりの種を蒔き、それを木へ、森へと育んできた。
1999年にはオリジナルデザインの家具、08年には食器のコレクションも発表。テキスタイルの「dop」は、マルニ木工のヒロシマやアルテックの家具にも使われ、多くの人の住空間に長く愛用したくなるものを届けている。また近年、皆川はホテル開発のプロジェクトなどホスピタリティを基盤にした分野にも活躍の場を広げている。
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皆川がデザインの領域を超え、なぜそうした試みに取り組むのか、その理由は「種」の部屋の奥に展示された「shell house」によって知ることができるだろう。建築家・中村好文設計の「shell house」は、皆川が将来の夢として構想しているという簡素で心地よい宿であり、構造体が内壁を兼ねている貝殻のような形の小さな建造物だ。皆川は「自然界の法則と身体の居心地が共生する場を想い」この建物を考えたという。
自然と人がそれぞれにあるべき姿を保ちながら、共生していくこと。それは、一見難しそうに見えて、これからの時代に特に求められていることともいえる。「人はものを感情としてとらえている」と信じればこそ、この世の中に残していくべきものはおのずと見えてくる。そう教えられるような、気持ちのいい空間だ。
ミナ ペルホネンのデザイナー、皆川明(中央)。
展覧会のオープニングに際し、皆川はこう語った。「これだけのいろいろな展示をしてもなお、人が一生で表現できることは、とても少ないのだなということを感じました。と同時に、それくらい、人にはもっとできることがあるのだとも思いました。変化のある世の中だからこそ、人が心に残しておきたいものを大切にすること、そして人の力を大事にしなければならない時代が続くのだということを、この展覧会をとおして感じていただけたらと思います」
皆川いわく「100年を1日とすると、25周年のいまは、まだ早朝の6時くらい」。これからますますものづくりに励んでいきたいと力強く語った。
展覧会を鑑賞する私たちは、いま、人生の何時頃にいて、これまで何をつづけ、これから何をつづけていくことができるだろう。そんなことを考えながら会場を後にすることができたなら、明日からつづく毎日がちょっと楽しみになる。そんな展覧会である。
会期中、皆川明とグラフィックデザインを手がけた葛西薫や、写真家・在本彌生、糸井重里など各界で活躍するクリエイターやアーティストとのトークをはじめ、さまざまなイベントが開催される予定。詳しくは、展覧会特設サイトにて。

『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』
期間:開催中〜2020年2月16日(日)
会場:東京都現代美術館 企画展示室3F
東京都江東区三好4-1-1
開)10:00〜18:00
休)月(20年1月13日は開館)、19年12月28日(土)〜2020年1月1日(水)、1月14日(火)
tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入場料金:一般¥1,500
https://mina-tsuzuku.jp
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ライター/ 編集者
子育てをきっかけにふつうのごはんを美味しく見せてくれる手仕事のうつわにのめり込んだら、テーブルの上でうつわ作家たちがおしゃべりしているようで賑やかで。献立の悩みもワンオペ家事の苦労もどこへやら、毎日が明るくなった。「おしゃべりなうつわ」は、私を支えるうちのうつわの記録です。著書『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)
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