ドキュメンタリー映画で世界のいまを考える。#04 音楽と政治の関係に心奪われる、ドキュメンタリー3選。

Culture 2020.04.02

映像の力と圧倒的な情報量で私たちの好奇心を大いに刺激するドキュメンタリー映画。この春、特に充実するラインナップのなかからおすすめを選び、併せて観たい作品も紹介します。第4回のテーマは、ときに複雑でときに幸福な、音楽と政治の関係。


選・文/森直人(映画評論家)

40年前のイギリス社会を動かした、音楽のパワー。

『白い暴動』

この『白い暴動』(原題:White Riot)というタイトルを聞けば、ロックファンならすぐ超有名パンクバンドの名曲が頭に鳴り響くだろう。そう、ザ・クラッシュのUKシングルデビュー曲だ(日本ではファーストアルバム『The Clash』の邦題もコレ)。ただし本作は彼らを主役にした音楽ドキュメンタリーではない。1970年代後半のイギリス、不況の深刻化とともに民衆の不安が募り、鬱積のはけ口として人種差別や排外主義が高まっていった。それに音楽やアートの力で抵抗を示した組織「ロック・アゲインスト・レイシズム」(RAR)の活動の記録である。

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RARを立ち上げた中心人物のレッド・ソーンダズ。彼らは暴力ではなく、音楽や文化が持つメッセージの力で差別への抗議活動を展開した。

極右団体のナショナル・フロント(国民戦線)の勢力が増す状況のなか、RARは少人数のインディペンデント組織ながら、雑誌を自費出版し、10万人が参加した大規模なデモを起こし、野外フェスを催した。そのライブに参加したのがトム・ロビンソン・バンドであり、ザ・クラッシュだ。この映画には当時パンク(&レゲエ)シーンにいたバンドが数々登場するが、とりわけファンには右派が多かったシャム69のボーカリスト、ジミー・パーシーがRARに関わるなかで立ち位置を決めていく様が興味深い。

音楽と政治は常に微妙で複雑な関係にある。たとえばアメリカのウッドストックとベトナム反戦運動、ニューソウルと公民権運動は密接だった。いっぽうで音楽の持つ抽象性や情動性は誤読やミスリードも生みやすい。ドナルド・トランプが選挙戦にローリング・ストーンズの曲を利用したような……。このドキュメンタリーでは、あのエリック・クラプトンやデヴィッド・ボウイが過去に差別発言を行っていた事実にショックを受ける人も多いかもしれない。

それでも音楽には、文化には社会を動かす力がある。本作が映し出す40年以上前のイギリスで起こっていることは、ブレグジット(EU離脱問題)に揺れる現在の同国、並びに不寛容や憎悪があふれる世界状況にやたら似ている。RARの勇気と誠実さから、いま“自分ができること”のヒントを探りたい。

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国民戦線を支持するスキンヘッズと呼ばれる若者たち。逼迫する経済や社会のなか、未来の見えない彼らの不満の矛先は、移民たちに向かった。photograph by Syd Shelton

『白い暴動』予告編。

新作映画
『白い暴動』
●監督/ルビカ・シャー
●出演/レッド・ソーンダズ、ロジャー・ハドル、ケイト・ウェブ、ザ・クラッシュほか
●原題/White Riot
●2019年、イギリス映画
●84分
●配給/ツイン
●4/3(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて公開
http://whiteriot-movie.com

※映画館の営業状況は、各館発信の情報をご確認ください。

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併せて観たい作品①:『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』(2016年)

破天荒なバンドが、北朝鮮でロックを奏でたら。

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「世界一過激なバンド」と言われるライバッハも、北朝鮮政府の“マイペース”な対応にたじたじ。この国は最も成功しているユートピアかもしれない、とのバンドメンバーの発言も。© SundanceNOW.com/Everett Collection/amanaimages

カルト的人気を誇るスロベニア(旧ユーゴスラビア)の名物ロックバンド、ライバッハ。全員ナチス風の制服に身を包み(ナチスを題材としたSFコメディ映画『アイアン・スカイ』の音楽も手がけた)、強烈な風刺とジョークを効かせたパフォーマンスを繰り広げる異色集団。そんな彼らが2015年、なんと北朝鮮のコンサートに招かれた。同国を公式に訪れた初の海外ミュージシャンの奇妙な一週間。これは人を食った過激な芸風で知られるライバッハのまさかの「空転」の記録である。この映画に証言者として登場する哲学者ジジェクはライバッハの巧妙な戦略性を賞揚するが、実際は北朝鮮のゴリゴリな支配システムに逆にロックされてしまう。「政治 vs 音楽」というテーマを巡って、いろんな可能性と限界性を身も蓋もなく突きつけるブラックコメディ的怪作だ。

旧作映画
『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』
●監督/ウギス・オルテ、モルテン・トローヴィク
●出演/ミラン・フラス、ヤネズ・ガブリッチェ、ルカ・ヤムニク、ロク・ロパティッチほか
●原題/Liberation Day
●2016年、ラトビア・ノルウェー・スロベニア映画
●100分

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併せて観たい作品②:『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』(2017年)

踊り出したくなる音楽で魅了した、あのバンドに再会する。

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ギタリストでシンガーのエリアデス・オチョアは「音楽は僕の身体を流れる血液さ」と語る。BVSCのツアーは終わっても、彼らは生きている限り美しいキューバ音楽を演奏し続ける。© Broad Green Pictures/Everett Collection/amanaimages

キューバのベテランミュージシャンたちが集結した至宝のグループ、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(BVSC)。ライ・クーダーがプロデュースしたアルバムはグラミー賞を受賞し、1999年にはヴィム・ヴェンダース監督のドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』も大ヒットを飛ばした。

本作はそれから18年、活動休止を決めた彼らの“アディオス(さよなら)”ツアーを中心に追ったもの。本作ではキューバ音楽の背景を詳しく語り、16世紀にアフリカから到着した奴隷たちがいかに独自の音楽を生み出したか――その流れの到達点にBVSCの偉業を位置づける。2016年にバラク・オバマはアメリカ大統領として約90年ぶりのキューバ訪問を行い、BVSCはホワイトハウスに招かれて特別ライブ公演を果たした。苦難の歴史を乗り越えた音楽と政治の幸福な瞬間がここに映っている。

旧作映画
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
●監督/ルーシー・ウォーカー
●出演/オマーラ・ポルトゥオンド、マヌエル・“エル・グアヒーロ”・ミラバール、バルバリート・トーレス、エリアデス・オチョアほか
●原題/Buena Vista Social Club: Adios
●2017年、イギリス映画
●110分

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texte : NAOTO MORI

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