女子も大好き! バンクシー。 ポップな可愛いさの裏にある、バンクシーのメッセージとは?

Culture 2020.05.05

バンクシーとは何者なのか? 彼に直接インタビューをした経験を持つライターの鈴木沓子に謎多き覆面アーティストについて質問をぶつけてみた。

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KOM_I
コムアイ / ミュージシャン

 

1992年、神奈川県育ち。水曜日のカンパネラ、YAKUSHIMA TREASUREのボーカルとして国内外を回り、その土地や人々と呼応したパフォーマンスを行う。好きな音楽は世界の古典音楽とテクノとドローン。趣味は各地に受け継がれる祭祀や儀礼を見に行くこと。

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TOKO SUZUKI
鈴木沓子 / ライター・翻訳者

 

滅多に取材を受けることのないバンクシーにロンドンで直接インタビューをした経験を持ち、『Banksy's Bristol:HOME SWEET HOME』(作品社)などバンクシー関連の書籍を多く翻訳するほか、数々のメディアで論考やレビューを執筆。

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ロンドンのサウスバンクにあるウォータールー・ブリッジのたもとに描かれた、バンクシーの作品の中でも最も有名な『風船と少女』(2004年)。

バンクシーのアートを間近で体感することで、ストリートアートの刺激的な魅力を再確認したコムアイ。展覧会をきっかけに、バンクシーというアーティストのことをもっと深く知りたくなった彼女は、バンクシーの活動を初期から見守ってきたライターの鈴木沓子に率直な疑問を投げかけた。

コムアイ:バンクシーといえばネズミのモチーフが有名ですが、そもそもなんでネズミなんですか?

鈴木沓子(以下、鈴木):ネズミといってもペットにするようなマウスではなく、病原菌をまき散らす害獣ドブネズミ(ラット)のほうなんですよね。バンクシーは「自分にも夢がある。それは社会で負け犬扱いされている奴らが、ともに立ち上がること」と語っています。

コムアイ:グラフィティアーティストである自分たちのイメージと重ね合わせているんですかね。

鈴木:自分たちだけじゃなく、社会で弱い立場にある人たち全体じゃないかな。英国は階級社会で、苦しい生活から抜け出せない労働者階級や移民が少なくありません。バンクシーは「もし君が、誰からも愛されず、汚くて取るに足らない人間だとしたら、ラットは究極のお手本だ」とも言っています。

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昨年、小池百合子都知事がツイートして話題となった、日の出駅付近の防潮扉に描かれたラット。本物だとすると、バンクシーが2002年に来日した際に残していったものと推測される。

コムアイ:バンクシーの作品が高値で落札されたというニュースをよく目にしますが、そのお金はバンクシー本人には入らないんですよね?

鈴木:英国では作品の転売ごとに“印税”が入る制度もありますが、約1~4%程度。非公認の展覧会やグッズ販売も、本人に収益は入りません。

コムアイ:では、活動資金はどうやって確保しているんですか? 企業からのスポンサードも受けていませんよね。

鈴木:バンクシーは自費で活動しています。有名になったいまも、「俺の作品を見るために金を払う必要はないよ」と言ってストリートで活動しているので、資金をどう捻出しているのか気になりますが、詳しい方法は明かされていません。とはいえ、作品の販売を完全に否定している訳でもないんですよね。稼ぐための作品制作や、表現の規制があるような資金提供は受けず、バランスを取っているといえるでしょう。

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経営難に陥っていた青少年施設を救済するため描かれた『モバイル・ラバーズ』(2014年)。バンクシーは施設の運営者に手紙を送り、作品の所有権が施設にあることを保証した。

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キャンバスは街中にある。

コムアイ:サザビーズでの“シュレッダー事件”もそうでしたが、本人はあくまでオークションにアンチなスタンスを取っていますよね。

鈴木:アートは転売して儲けるための金融商品ではないし、一部の特権階級の人たちだけのものじゃない、というスタンスは変わっていませんね。一方で、自分の作品が高額取引される状況や、その発信力を利用して、社会的な活動に繋げることも少なくありません。バンクシーは“世界で一番危険な壁”と呼ばれるパレスチナの分離壁に作品を描いていますが、それは現場の悲惨な状況を世界中に知ってほしいという切実な願いがあるからこそ。つまり、美しい作品を描いて後世に残したいとはさらさら思っていないんですよね。むしろ、作品を描くことで、社会そのものが美しいと思える場所になればと願っていると思います。

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バンクシーが活動の初期に自らのポートレートとして使用した、猿のマスクを被り、手にスプレー缶を握る男の写真。本当に本人が写っているのか、真偽は明かされていない。

コムアイ:そういう社会的なメッセージ性の強さがあるからこそ、彼のアートはみんなの心に突き刺さるんですね。

鈴木:難解な現代アートと違って、ぱっと観てわかりやすいので、一般の人も参加できることが大きいと思う。子どもからお年寄りまでみんなで同じテレビ番組を見る時代ではなくなったいま、年代、性別、人種を問わず、多くの人が参加して共有できるプラットフォームを築いているような気がします。

コムアイ:とはいえ、以前はグラフィティって、もっとコアなファンにしか理解できないようなアンダーグラウンドなカルチャーでしたよね。それをなんの予備知識もない人たちも受け入れられるような、文字通りのパブリックアートにまで押し上げているのがすごい。私も街中でゲリラのパフォーマンスをすることがあるのですが、私のことにまったく興味がない人たちと無理やりコミュニケートすることで、そこに想定外の摩擦が生まれる感じが大好きなんです。数年前に私が出演させていただいた広告が、JR渋谷駅の構内に掲出された時も、無性にその上に落書きがしたくなってしまったので、頼み込んでステンシルアートを描かせてもらいました。それもやっぱり、パブリックなスペースで、知らない人と摩擦を起こしながらコミュニケートしたかったから。

鈴木:それ、すごい! 駅の構内で落書きって、ほぼグラフィティじゃないですか(笑)。見慣れた風景がアートによって一転するハプニングに居合わせたら、凝り固まった頭の風通しがよくなりそう。まさに、観る人とコミュニケートできる一回限りの作品ですね。バンクシーのアートにも「もっと日常を遊ぼうよ」というシンプルなメッセージも込められていると感じています。

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JR渋谷駅の構内に掲出 された、自身が出演する広告の上に自らステンシルアートをボムするコムアイ。「落書きしたい……」とツイッターでつぶやいたことがきっかけで実現した。

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女子も大好き! バンクシー 。

photos : TAKANORI OKUWAKI (UM、PORTRAIT), réalisation : SHINGO SANO, バンクシー公式ページ

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