【立田敦子のカンヌ映画祭2025 #7】「ある視点」部門「監督週間」など、サイドバーでは新進監督たちが受賞!
Culture 2025.05.25
閉会式を前に、メイン・コンペティション以外の部門が続々と発表になっている。
新進気鋭の監督作やユニークな視点の作品が集まる「ある視点」部門。20本の作品のうち9本が新人監督の作品というフレッシュな顔ぶれが揃ったが、最高賞の「ある視点」大賞はディエゴ・セスペデス監督の『The Mysterious Gaze of the Flamingo』が受賞した。トランスジェンダーのパフォーマー、フラミンゴに育てられた少女の視点から、偏見と戦うクィアコミュニティを描いた作品だ。審査員長であるイギリス出身の映画監督・脚本家・撮影監督、モリー・マニング・ウォーカー(『HOW TO HAVE SEX』)は、「キャラクターたちを見ていて、心が喜びで満たされました。生々しく、力強く、それでいてファニーでワイルド」と作品を讃えた。チリ映画として、またチリ人監督として同賞の受賞は初の快挙!

併設された独立部門でも、さまざまな文化を背景とする多様な視点と革新性のある作品が受賞している。「監督週間」は、映画作家の発掘と支援を目的とした部門だ。最高賞に当たる観客賞は、イラン出身のハサン・ハディ監督の『The President's Cake』(イラク・アメリカ・カタール)が受賞した。 1990年代のイラクを舞台に、学校でケーキを作る担当になった9歳の少女が材料を買いにいく間に起こるさまざまな出来事を描いた作品だ。イラク映画として初めて「監督週間」の観客賞を受賞した。

2作目までの新人監督を対象とする「批評家週間」は、新しい才能を発掘・支援することを目的とした部門だ。最高賞であるグランプリを受賞したのは、タイのラチャプーム・ブンブンチャチョーク監督による『A Useful Ghost(Un Fantôme Utile)』。ユーモアと感動を織り交ぜたコメディドラマだが、タイ映画として初のグランプリ受賞となり注目を浴びた。
また、LGBTQIA+をテーマにした作品を対象とする独立賞の「クィア・パルム」賞(今年の審査員長はフランスのベテラン監督クリストフ・オノレ)は、コンペティション部門で上映されたアフシア・エルジ監督の『La Petite Dernière(英題:The Little Sister)』が受賞した。パリを舞台に、アルジェリア移民の娘がアイデンティティと家族の期待の間で葛藤する姿を描いた成長物語だ。エルジ監督は、『クスクス粒の秘密』(2007年)の演技でベネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞している俳優で、本作で初のカンヌコンペデビューを飾った。女性監督の活躍が目覚ましいフランス映画界だが、こちらも今後の活躍に期待したい逸材だ。

国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI)は、それぞれのセクションから3作品が受賞した。コンペティション部門からはブラジルのクレベル・メンドサ・フィリオ監督の『The Secret Agent』が選出。1977年の軍事体制下で体制に反発し、追われる身となった技術者の男の逃亡を描くスリラー。

「ある視点」部門からは、俳優ハリス・ディキンソンの初の長編監督作『Urhin』が選ばれた。ロンドンで自己破滅的な行動をとるホームレスの男の葛藤を描く人間ドラマ。

「批評家週間」、「監督週間」という併設部門からは、「批評家週間」のクロージング作品として上映された瀬戸桃子監督の長編アニメーション『Dandelion's Odyssey』が選出された。『Dandelion's Odyssey』は、核戦争後の世界で、宇宙に放たれたタンポポの種子の旅路を描くセリフのない詩的で実験的なアニメ。フランスとベルギーの共同製作で、今後は6月のアヌシー映画祭など国際的な映画祭でも上映予定だ。

映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。
text: Atsuko Tatsuta editing: Momoko Suzuki