SNSの恐ろしさを目の当たりに? この秋必見の映画3選。
Culture 2021.10.19
気付けば今年も後半戦、映画館も盛況だ。いまこそ劇場で観たい3作を厳選! 感染症対策をしっかりして、スクリーンの迫力を再び感じよう。
巨匠の友愛の情の厚さと、友を招き寄せる包容力。
『HHH: 侯孝賢 デジタルリマスター版』
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1980年代半ばより「台湾ニューシネマ」が国際映画祭を席巻。その最重要人物ホウ・シャオシェン監督の人柄に、互いの無名時代から友情を育んだアジア映画通のフランスの俊才アサイヤスが肉薄する。自伝的な幼少期スケッチ『童年往事 時の流れ』から、87年まで続く戦後戒厳令下のタブーにも果敢に斬り込んだ大家族叙事詩『悲情城市』へと、ゆるやかに流転する時間をたどり直す旅。傑作群ゆかりの地を訪ねる道々、土地土地のごちそうやお茶で異邦の旅人はホウ監督から手厚くもてなされる。この親密な「歓待」の磁力が優れた仲間を引き寄せ、映画作りを唯一無二のものにするのだろう。驚きと悦楽感に満ちたドキュメンタリー。
監督/オリヴィエ・アサイヤス
1997年、フランス・台湾映画 92分
配給/オリオフィルムズ
9月25日より、新宿K’s cinemaほか全国にて順次公開
https://hhh-movie.com
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
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家族の晩ごはんから弾かれる、はぐれ者ふたりの愛の宴。
『ディナー・イン・アメリカ』
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ネブラスカ州の最低賃金が上がり、ペットショップで働くパティは店長にお払い箱にされる。アメリカのローカルタウンでいじめっ子の格好の餌食になりそうな彼女が、出会い頭にお尋ね者サイモンを自宅にかくまう。実は彼こそパティが密かに偏愛するパンクバンドの覆面ロッカー、というできすぎた設定は、パティには伏せられたまま物語半ばで明かされる。巧みな構成。以降、劣等感だらけの愛すべきメガネの田舎娘と、音楽への潔癖さゆえ万年金欠の嘘つき野郎の冴えない日々が、「音楽の恋人」同士の「人生最高の日」に一変する。ダーティワード満載の映画から至純の歌が生まれ落ち、パンクのスピリットが受け継がれてゆく。
監督・脚本・編集/アダム・レーマイヤー
2020年、アメリカ映画 106分
配給/ハーク
9月24日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
https://hark3.com/dinner
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モラルなきネット怪物を、神と崇めるSNS狂想曲。
『メインストリーム』
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コメディバーの女性バーテンダー、20代のフランキーはインターネットに趣味の動画を上げることで少女期以来の空虚感や承認欲求を埋め合わせている。ある日、ロサンゼルスの街角で被りものを纏って説法する青年と出会う。おふざけに毒舌を混ぜ込んだ彼の即興話術を動画にしてアップロードしたところ、再生数が急上昇。正体不明の代理人が近寄るや速攻、収益化の方向へ。ソフィア・コッポラの姪ジアは、拍手と炎上の乱気流に飲まれた狂騒コメディにこれを仕立てる。イカれた世間を笑い飛ばすはずが、我が身に毒が回っちゃう。皮肉を利かせてSNS依存の時代と戯れつつ、映画の側に立つジアはその危うさを早わざで撃ち抜く。
監督・脚本/ジア・コッポラ
2021年、アメリカ映画 94分
配給/ハピネットファントム・スタジオ
10月8日より、新宿ピカデリーほか全国にて公開
https://happinet-phantom.com/mainstream
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
*「フィガロジャポン」2021年11月号より抜粋
text: Takashi Goto