「旅情」を届けてくれる、ルイ・ヴィトンのビジュアルブック。

Culture 2021.11.02

本を手に取って手触りを確かめながら、ページをめくる。言葉ではなくイメージが連なる本を通して、心躍る空想を膨らませる。ビジュアルブックを通して、本という紙のプロダクトとの付き合い方を探ろう。


ルイ・ヴィトンは 1854年にトランクメーカーとして創業した。ゆえに、「旅」はメゾンのコアバリューとなっている。無類の旅好き、というわけではなかったが、コロナ禍で年2回必ず敢行していたパリコレクション取材がぷっつりとなくなり、「時として、同じ場所に住み続けると視野が狭くなることがある」というメゾンの言葉が身に染みるようになってきた。日本にいてもインターネットを介して世界中の情報をリアルタイムで得ることは可能だが、見知らぬ街のムードを味わいながらぶらぶら寄り道していい気分になったり、さんざん迷って体力を消耗したり、思わぬハプニングに遭遇してあれこれ画策することはない。勝手知ったる地で同じようなルートを行き来し、想定内の暮らしをしていると、確かに考え方の広がりがなくなってしまうような気になる。 

愛書家であった創業者の孫、ガストンにちなんで1990年代にスタートしたルイ・ヴィトンの出版物の中には、いまの世の中にぴったりの、旅をテーマにした3つの代表的なコレクションがある。いちばん知られているのはきっと世界都市を網羅する『シティ・ガイド』だろう。しかし、通常の旅行ガイドだと思って手に取ると少し戸惑う。

レストランやホテル、ショップ、カルチャースポットなどが多数紹介されているものの、基本的に文字情報のみ。各々の外観・内観のビジュアルは一切掲載されておらず、私たちは長めの文面から想像を膨らませるほかないのだ。ガイドというよりは、メゾンの審美眼や、都市をより深く理解するための読み物なのである。いまなら、なじみのある都市の巻を読んでみるのもいいかもしれない。お気に入りの場所がどのように表現されているのか確かめながら思い出に浸れるし、知らなかったスポットでも説明を読んでいると何となく推測できる。

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『CITY GUIDE TOKYO』 City Guide
独自の目線で各都市の魅力を紹介するシティガイド。ジャーナリスト、アーティスト、文学者など、さまざまな職業の人々が、5ツ星ホテル、ブティック、レストラン、小さなビストロ、アンティークショップ、ミュージアムなど選りぐったアドレスを紹介。その都市に縁のある特別ゲスト が、おすすめスポットをシェアするコラムも掲載されてお り、旅を満喫するヒントが得られる。10月中旬には内容を一新した『シティ・ガイド東京』が発売。¥3,740

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『トラベル・ブック』はアーティストたちが訪れた都市をデッサン、彩色画、コラージュ、コンテンポラリーアート、漫画で表現していて、アートを眺める感覚で楽しめる。知っている都市だと巻末の説明と見比べながら、ここをこんな風に解釈したのか、とにやっとしてしまうことも。今年11月に発売予定の新刊はフランス語圏の漫画バンド・デシネ作家による「火星」だという。自由に身動きが取れなくなっている私たちにとっては、知らない都市も火星も同じ距離感になってしまっているような。いつか行ってみたい、と思いながら、アーティストたちの想像力を借りて仮の旅ができる本だ。

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『TRAVEL BOOK MARS』 Travel Book
新進気鋭のアーティストが、イラストやドローイングやグラフィックなどバラエティに富んだ手法で、旅先の風景を情緒豊かに描き出すトラベルブック。特徴的なのは、アーティストが過去に訪れたことのない場所を旅すること。そのため着眼点がユニークで、新しい出合いや、驚きに満ちている。11月に発売される新刊の旅先は火星。イラストレーターであるフランソワ・スクイテンと、作家のシルヴァン・テッソンが空想の旅へと誘う。¥5,610

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『 ファッション・アイ』という写真集もある。こちらは都市の風景が写真で切り取られているから最も具体的かもしれない。しかし、そこに収められているのはあくまでもその都市でフォトグラファーが心を掴まれた瞬間の被写体で、必ずしも観光名所が写っているわけではないし、その場の全容や人々の素性がわかるわけでもない。一冊通して、何となくこんな都市なのかな、とぼんやりと思い浮かべるだけ。やはりページを繰るたびに想像力が必要となる。

目的地のないいまの私たちが求めているのは情報ではなく、旅情のようなもの。現地を映し出す映像を見てもいいが、こんな時だからこそ想像する余白があるルイ・ヴィトンの本を開いて期待を膨らませるのも手だ。自由に世界旅行できる日がやって来たら、さまざまなライター、アーティスト、フォトグラファーの視点との出合いが都市の新たな一面を見つける手助けになるだろう。それに、フラットな画面を眺めるだけの作業より、 美しい装丁やレイアウト、紙質を確かめる一つひとつの体験は心に響くし、記憶に残る。ルイ・ヴィトンはデジタル化にも力を入れていて、たとえば『シティ・ガイド』のアプリは地図上のスポットをクリックすると説明が出てきてとても便利だが、 その一方で、情報や利便性とは別のベクトルで約20年以上をかけて紡いできた書物というプロダクトの存在意義を疑うことはない。  メゾンは次のように語っている。
「書籍は感動とインスピレーションのオブジェとして存続することでしょう」

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『FASHION EYE SAO-PÃULO』
Fashion Eye
ファッションフォトグラファーたちの目を通して見た世界各都市の風景、その国に暮らす人々など、個人的な視点から見た旅情をユニークなビジョンで切り取るファッション・ アイ。写真とともに、フォトグラファーのインタビューや旅のエッセイが収録されている。ブラジルの若手フォトグラファー、アレクサンドル・フルコランが切り取ったサンパウロ、イギリス人フォトグラファー、セシル・ビートンのアーカイブ写真が捉えたヴェネツィアが、新刊として加わった。¥6,270

 

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『FASHION EYE VENICE』
Fashion Eye
ファッションフォトグラファーたちの目を通して見た世界各都市の風景、その国に暮らす人々など、個人的な視点から見た旅情をユニークなビジョンで切り取るファッション・ アイ。写真とともに、フォトグラファーのインタビューや旅のエッセイが収録されている。ブラジルの若手フォトグラ ファー、アレクサンドル・フルコランが切り取ったサンパウロ、イギリス人フォトグラファー、セシル・ビートンのアーカイブ写真が捉えたヴェネツィアが、新刊として加わった。¥6,270

 

栗山愛以
コムデギャルソンのPRを経てファッションライターに。2014 年より毎季パリコレを取材していた。mada meFIGARO.jpで日々の出来事をファッション目線で綴るブログと、世界のスナップを紹介する「Snap of the Week」を連載中。

 

*「フィガロジャポン」2021年11月号より抜粋

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