想像の彼方へ、本の世界から旅をする フォトグラファー在本彌生が、「旅」をテーマに選んだ6冊。

Culture 2022.01.18

ブックディレクターと写真家、活字と写真で世界を“巡る”ふたりが、「旅」をテーマに選んだのは、ページをめくるたびに新たな発見をもたらしてくれる、味わい深い12冊。多彩な生き方を実感できるユニークなコミュニティから時の重なりが育んだ、世界と日本の知られざる民俗の探訪まで、旅の視点はさまざまだ。旅することはもちろん、移動でさえままならないこんな時だからこそ、想像の翼を広げてまだ見ぬ世界を旅してみよう。


選者
在本彌生
Yayoi Arimoto /客室乗務員として外資系航空会社に勤務している時に写真と出合い、フォトグラファーに転身。以来、 被写体を求めて世界中を旅しながら、雑誌、カタログなど多彩なメディアで活動する。撮影・著書に、『CALICOのインド 手仕事布案内』『熊を彫る人』(ともに小学館刊)など。

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『EYE LOVE YOU 』 Ed van der Elsken撮影
Lecturis刊 € 41

時代の生命力を感じる写真集。
オランダ生まれの写真家、エド・ファン・デア・ エルスケンは筋金入りの旅人だった。旅することと撮ることがぴったり寄り添うような生活から生まれた写真集で、1970年代の世界の人間たちを愛ある視線で捉えている。この本に登場する人々は何と滑稽でひたむきな のだろう、生きる力に満ちあふれている。スキャンダラスな写真も度々登場するがそれが世の常というもの、美醜明暗混在のてんこ盛りだから世界はおもしろい。外の世界に自分の身を置き、 感じることで鍛えられる感性は絶対にあると教えてくれる一冊。

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『ふたつの海のあいだで』
カルミネ・アバーテ著 関口英子訳 新潮社刊 ¥2,090

ふたつの海と複雑な感情、厚い友情の物語。
中世の頃、アルバニアからオスマントルコの侵略を逃れ、イタリアのカラブリア州やシチリア島に植民した「アルバレッシュ」というコミュニティの存在を知った。作者のアバーテ(彼自身もアルバレッシュ)は、 一貫して移民性を含んだ作品を発表しているが、本書は物語の生々しさに息を呑む場面多数、地域の中で展開する人々の感情の複雑さ、 国を超えた男同士の友情が印象的。たくさんの顔を持つイタリアの、 向こう側に広がる地域性、民族性に触れることのできる一冊。

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『沖縄文化論 忘れられた日本』
岡本太郎著 中央公論新社刊 ¥755

岡本太郎の視点で辿る沖縄。
ヨーロッパでの青春時代を経て日本で芸術家として活動するなか、1960年代後半に、失われつつあった「土着の有り様」を求めて沖縄を巡った岡本太郎。本書では沖縄本島、八重山諸島、離島での祭事にも触れている。目の前の事象をエモーショナルに感じながら、冷静にそれらを分析している。「一番感心するのは自然環境や風土から自ず と育まれて成り立ったもの」という視点に共感し、同時に彼の眼で沖縄を再確認したくなる。氏の撮影した写真も素晴らしい。

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『アイヌ人物誌』
松浦武四郎著 更科源蔵・吉田 豊訳 平凡社刊  版元品切れ

自然とともに生きる人々のお話。
アイヌの人々のかつての暮らしぶりや風習に関心を持ち辿り着いた一冊。彼らの、自然に寄り添いながら生きる姿勢(中には驚くべき猛者の快挙も!)が細かく聞き取られ、綴られている。 この本が書かれた時代から随分環境は変わって いるが、アイヌの人々とともに何年もかけて蝦 夷地を巡った松浦武四郎にしか残せなかったであろう、貴重な記録。読み進めるにつれ、アイヌの民俗、北海道の自然、地名にいたるまで、さらに興味を深めることになるだろう。

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『ロンドン・ジャングルブック』
バッジュ・シャーム画 スラニー京子訳 三輪舎刊 ¥2,800

ゴンド族作家による、愉快なロンドン探訪。

南インド・チェンナイの出版社タラブックスは、ゴンド族が描く作品を採用した絵本を出版する。ゴンドアートは絵本を通して世界の人に知られるところとなり、画家のバッジュ・シャームはロンドンのインド料理店の壁画を描きに行く旅に出る。初めて村を出てロンドンの街を探訪するのだからおもしろくないわけがない。現代人らしい知識の凸凹感に笑わされたり、己の鈍感ぶりに気付かされたり。彼の視点を携えて街を歩けば、見るものすべてが新鮮だ。

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『コルシア書店の仲間たち』
須賀敦子著 文藝春秋刊 ¥583

著者が過ごした60年代のミラノに誘われる。
60年代のミラノに暮らした須賀敦子が長い時を経て、当時を回想する形で「コルシア書店」で関わった人々、時代のムードを鮮やかに描く。静かで緻密、巧みな言葉選びのうえで紡がれた文章。舞台は一軒の書店だが、そこに出入りする 人々のさまざまな人生を垣間見て、著者のミラノ時代を伴走したような気持ちになる。著者の文章を追っていると、しばしば思う。「本当に心が動いたことを表現する言葉とは、静かで染み渡るように読み手の胸に残るのだ」、と 。

●1ドル=約110円、1ユーロ=約130円、1ポンド=約152円(2021年9月現在)

*「フィガロジャポン」2021年11月号より抜粋

illustration: Miso Okada text: Yayoi Arimoto editing: Ryoko Kuraishi

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