ハリー王子夫妻が立ち上げた数々の立派なプロジェクト、実際どこまで進んでいるの?
Culture 2022.01.20
2019年からふたりは王室から距離を置きはじめ、経済的自立を模索するようになった。その後、数多くのプロジェクトをふたりは立ち上げてきたが、現状はどうなっているのだろう?
2021年9月23日、ニューヨークで一番の高さを誇る「ワンワールド展望台」を訪れたメーガン夫人とハリー王子。photo: Getty Images
2020年1月8日のことだった。ハリー王子とメーガン夫人は突然、「王室での積極的な役割を希望しない」旨を発表し、経済的自立を目指すことを宣言する。こうして夫妻は王室からの資金援助を失った。そもそも王室を代表して公式行事へ出席し、人々と握手し、子どもたちに微笑みかけ、図書館の開館式などへの出席することと引き換えに資金援助されるものだからだ。ふたりの王室離脱宣言は、メーガン夫人がイギリス王室で居心地の悪さを感じており、人間関係が悪化したことが根底にあった。
ふたりが巻き起こした混乱には金銭問題が絡む。生後8カ月の息子アーチーを連れてカナダのバンクーバー島に引っ越したサセックス公爵ことハリー王子夫妻の警護費用は、イギリス連邦の一員であるカナダが負担した。しかしながらその後向かった米国は費用を出さなかった。ふたりは2020年3月にカリフォルニア州に移住し、7月には同州モンテシートに豪華な別荘を購入している。2021年2月15日、オプラ・ウィンフリーによる夫妻のインタビューで、ハリー王子は経済状況についてかなり詳しく語った。それによれば故ダイアナ妃の遺産がなければ移住は叶わなかった、王室からは一切の援助を切られたそうだ。「我々は母が残したお金で生活しています。それがなければ、離脱は不可能だったでしょう。だから、いま思えば、まるで母がこのことを予感していたかのようです」
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アーチウェル財団
コロナワクチンの公平な分配を求めるグローバルシチズンライブコンサートでのハリー王子とメーガン夫人。(ニューヨーク、2021年9月25日) photo: Gotham/WireImage/Getty
要するに、ハリー王子とメーガン夫人は自分たちで稼がなければならなくなった。大丈夫、ふたりには計画がある。2020年4月6日、彼らは「思いやりを行動に」をモットーとするチャリティ財団「アーチウェル」(息子のファーストネームを連想させる「アーチ」は、ギリシャ語で「行動の源」という意味でもある)の設立を発表した。同財団の計画は多岐に渡る。夫妻が3月に作成した書類を入手したテレグラフ紙が報道したところによると、チャリティー活動、ボランティアサービス、本格的ウェブサイトおよび「教育的な内容」のポッドキャストや書籍、映画などを予定しているそうだ。
2020年10月のアーチウェル財団の正式ローンチ(手続きの不備でローンチが遅れた)に先立ち、夫妻はNetflixと契約を結んだことを発表した。「テレビドラマや(中略)映画、ドキュメンタリー、子供向け番組の制作」を目的とした契約の推定金額は9900万ドルという破格の内容だった。その3ヵ月後にはSpotifyとも契約し、「世界中の聴衆を高揚させ、楽しませる」という壮大なコンテンツシリーズを制作することを発表した。アーチウェル財団にはふたつの関連組織があり、映像はアーチウェル・プロダクション、音響はアーチウェル・オーディオが担当することになっている。しかしながらいまのところめぼしいプログラムが完成していない。
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NetflixとSpotify
メーガン夫人がNetflixで女優業を再開することは期待しないように。エルトン・ジョンの夫であるデヴィッド・ファーニッシュと組んでメーガン夫人が制作するNetflix番組はアニメシリーズ『Pearl』だ。12歳の少女が、歴史の女性の偉人たちにインスピレーションを受けるストーリーとのこと。企画は2020年7月に発表されたが、完成までにはまだ時間がかかるようだ。ハリー王子の方は2020年4月からドキュメンタリーシリーズに取り掛かっている。『Heart Of Invictus』という番組で、2014年にハリー王子が始めた、負傷軍人によるパラスポーツ大会「インヴィクタス・ゲーム」にスポットを当てている。「2020年にハーグで開催される同大会に向けて出場者が怪我からの回復を目指す希望に満ちたストーリー」だったが、コロナの影響で同大会は2度延期された末、2022年4月16日から22日にかけて開催される予定だ。番組を配信するのならばこの時期が賢明かと思われる。
Spotifyに関しては、2020年12月29日にハリー王子夫妻によるクリスマス記念ポッドキャスト33分間が配信された。アーチーが初めて喋った言葉に感動できる他、エルトン・ジョンやテニスプレーヤーの大坂なおみ、作家のディーパック・チョプラなどの著名人が、コロナに揺れた一年を振り返っている。しかしながら2021年のクリスマスの配信はなく、Spotifyの「Archewell Audio」ページは残念ながら空のままだ。
ふたりの行動とつい比べてしまうのが、同じく第二の人生をスタートさせたもう一組の有名カップル、バラクとミシェル・オバマだ。ふたりはホワイトハウスを去って2年後の2019年、NetflixとSpotify向けの番組を制作していることを発表した。ハリー王子夫妻よりも1年先行していることを差し引いても、すでに3つのビデオ番組(「アメリカン・ファクトリー:オバマ前大統領と語る」、「マイ・ストーリー」、「ワッフルとモチ」)と2つのポッドキャスト(「Renegades:Born In The USA」と「The Michelle Obama Podcast」)を制作している。ハリー王子夫妻のペースがかなり遅いため、とりわけNetflix側で投資に見合うだけのリターンがまだ得られていないことにやや神経質になっているのでは、とささやかれている。
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思いやりを行動に
アーチェウェル財団では、第三の柱としてフィランソロピー活動を展開している。財団の公式サイトに掲載されているたくさんのロゴを見る限り、アスペン研究所のようなシンクタンク(ハリーは同シンクタンクのデマ情報に関するリスク委員会メンバー)、あるいは幾つかのNGO団体、例えば自然災害時の食糧難解消に取り組むワールド・グローバル・キッチンや、夫妻と共にコロナワクチンの公平な分配を求める活動を展開するグローバルシチズンなど、さまざまな組織と連携しているようだ。
こうした組織との連携は主にプレスリリースの発表、あるいは会議やラウンドテーブルディスカッションでのスピーチという形で行われる。ふたりの名前があればどんな大義名分でも注目が集まること必須だが、その対価が支払われているかどうかは不明だ。いずれにせよふたりの活動はアーチウェルのインスタグラムで投稿される。このアカウントはふたりの近況を伝える場ともなっており、娘リリベットの誕生も新年の挨拶も、個人的な計画のお知らせもここに投稿されている。
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単独のプロジェクト
ふたりにはそれぞれ単独でのプロジェクトもある。ハリー王子は、オプラ・ウィンフリーと共同で、メンタルヘルスに関するドキュメンタリー・シリーズ「あなたに見えない、私のこと」を制作した。企画は2019年3月に発表され、その後コロナの影響で配信が延期されたものの、2021年5月にApple TV+で配信された(Netflixはどう思っただろうか)。メンタルヘルスはハリー王子がこだわるテーマの一つで、番組以外にもベター・アップというプロフェッショナル・コーチングを専門とする米国の新興企業で「チーフ・インパクト・オフィサー」、通称CHIMPOを務めている。この役職はシリコンバレーでは一般的になりつつあり、メンタルヘルス、サステナビリティ、企業が社会に与える影響を担当する。ハリー王子の推定年俸は100万ドルで、職務としては2021年12月7日に開催されたラウンドテーブルディスカッションなどに参加することだ。このディスカッションでハリー王子は従業員に対し、仕事が精神的につらいようなら退職したほうがいいと発言し、物議をかもした。そしてもう一つの単独プロジェクト、それはハリー王子の回顧録。これまでの36年間における「いい時と悪い時、過ち、学んだこと」を執筆した本は2022年末にペンギンランダムハウスから出版される予定だ。
一方、メーガン夫人も執筆業に乗り出した。2021年6月8日に、夫や子供たちとの暮らしの中から着想を得た絵本「The Bench」を出版。発売直後はアマゾンのベストセラー入りしたものの、デイリー・メール紙によればイギリスでは3,200冊余りしか売れなかったそうだ(デイリー・メール紙のこの記事に対してメーガン夫人は提訴し、ほぼ2021年中続いた訴訟に勝った)。この他、有給育児休暇を支持、10月に米議会に公開書簡を送っている。そのなかでメーガン夫人は娘が生まれてハリー王子と共に娘の世話に大変だった、しかし多くの親と違って、「最初の数ヶ月を赤ちゃんと過ごすか、仕事に戻るかという厳しい現実の選択に迫られずに済んだ」と書いている。デイリー・メール紙によると、ふたりは2021年6月4日にリリベットが誕生してから20週間の育児休暇を取った。しかし、実際には夏ごろから2人ともメディア出演やチャリティ活動を再開していたことが、アーチウェルのインスタグラム投稿から明らかになっている。
とどのつまり、メーガン夫人とハリー王子は忙しいのだ。ふたりがいくら稼いでいるのかは不明だが、遅れている企画があるのは、多分コロナの影響と、ふたりの幼児の世話に忙しいからだろう。いずれにせよ、メーガン夫人が米議会への公開書簡で認めたように、ふたりは世の中の一般家庭と同じような暮らしをしているわけではない。ふたりはまだ、自分達の持てる手段と、思い描くイメージや目標、願望とのバランスがまだとれていないのかもしれない。思いやりを行動にと呼びかけるふたりのこと、2022年は(実際に)行動を起こす年となるのだろうか?
text: Pascaline Potdevin (madame.lefigaro.fr)