ウクライナ侵攻が続くなかでの、モード界の苦悩。
Culture 2022.03.04
ランウェイからSNS発信まで、紛争に直面したファッション界のエコシステム全体が、どう振る舞えばいいのかという問題に直面している。
ミラノ・ファッションウィーク中、ウクライナ支援を表明する人々。(ミラノ、2022年2月25日)photo: Imaxtree
2022年2月25日のミラノ。ファッションウィークは2日前から始まっていた。トッズ、ミッソーニ、グッチなどのブランドのファッションショーやプレゼンテーション、商談などでぎっしり埋まった日程を、ファッション関係者が日々猛烈な勢いでこなしていく。
しかしながら25日の朝、年に2回のイベントのために遠路はるばるやってきた人々は事態の急変にとまどっていた。前夜の2月24日夜にロシアのプーチン大統領がウクライナへ侵攻したのだ。戦争の勃発により深刻さを増すニュースと、華やかな外見のショーとの間には、くらくらするほどのギャップがあった。
ジャーナリストのソフィー・フォンタネルは真っ黒な画像をインスタグラムに投稿するとこんなキャプションを添えた。「一人の男の決断が地を揺るがしている時に、ミラノで美しいものを見ている不条理。それを“peace and fools(平和と愚か者たち)”と呼ぶ」。デザイナーではジョルジオ・アルマーニがいち早く反応し、「現在進行中の悲劇に巻き込まれた人々への敬意から」無音のショーを行った。
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支援の動きと沈黙
その後、ファッション界は主にインスタグラムを通じて声を上げた。グッチのアーティスティック・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレは、ジャンニ・ロダーリの詩の一節を投稿した。「絶対にやってはいけないことがある。昼でも、夜でも、海でも、陸でも。たとえば戦争とか」
ケリンググループは真っ白な画像を投稿し、平和の象徴、小さな鳩のアイコンを添えた。
バレンシアガのアーティスティック・ディレクター、デムナ・ヴァザリアは同ブランドのアカウントからすべての画像を削除し、同じ小さな鳩だけを残した。デムナ・ヴァザリアはジョージア出身で、1990年代に戦乱の故郷から逃れた経験をしている。自分のアカウントでストーリーを投稿したほか、ウクライナの国旗色を投稿して「Stay strong(強くあれ)」という言葉、そしてウクライナ支援に関する情報サイトへのリンクを掲載した。
同時に、沈黙を続けるファッション業界への批判も生まれている。ミラノへコレクションを発表しに来ていたウクライナのアウターウェアブランド「Ienki Ienki(イエンキイエンキ)」の創業者、ディーマ・イヴェンコは、「正直、ここでは誰も気にしていない。他にもウクライナ人が来ていて集まったりしているけれど、ファッションウィークでは外から遮断されたカプセルの中にいるみたいだ」と「GQ」誌にやりきれない思いを語っている。
数日後の2月28日、パリ・ファッションウィークが始まった。イギリス人ジャーナリストのスージー・メンケスは、「Off-White(オフホワイト)」のショーに熱狂する観客に困惑し、「いたたまれない気分になった」とインスタグラムに投稿した。
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#prayforukraine
トップモデルの間にもウクライナ支援の輪が広がった。アルゼンチン出身のミカ・アルガナラスは、ウクライナ侵攻が始まった直後から「同じ大陸で戦争が起こっていることを知りながら」ランウェイを歩くことに違和感を覚えていたという。そこでインスタグラムにストーリーを投稿し、ファッションウィークで得たギャラの一部をウクライナ支援団体に寄付することにした。
この取り組みに賛同したヴィットリア・チェレッティ、ベラ・ハディッド、カイア・ガーバーといった他のトップモデルも応援メッセージを投稿した(カイア・ガーバーは特にユニセフへの寄付を呼びかけた)。また、ファッション系検索エンジンの「タグウォーク」は、生活必需品の寄付の呼びかけを開始した。
SNSでは各自が思い思いに発言し、支援の取り組みが行われる合間に、コレクションの画像も投稿されている。華やかなファッションウィークと募金や支援への呼びかけという対照的な投稿が混在する結果、上っ面のアクティビズムを批判するコメントも見られた。ファッション業界はファッションウィークとヨーロッパを揺るがす紛争の狭間で、どう振る舞ったり発言すればいいのかに苦悩している。
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ショーの意義
パリはファッションウィークの初日からもっと上手に立ち回ろうと試みた。オートクチュール・ファッション連盟のラルフ・トレダノ会長が2月28日に声明を発表し、パリ・ファッションウィークの関係者に国際状況を考慮するよう呼びかけた。「創造活動はどんな状況であれ、自由の原則に基づいて行われるものです。ファッションの役割は、社会における個人と集団の解放に貢献することです。(連盟からは)これからのショーの期間をこの暗い時代にふさわしい態度で臨むようにみなさんにお願いいたします」
「Show must go on(ショーは行われなくてはならない)」にせよ、危機の時代におけるファッションの役割を考察した上でショーを行ったのは「Botter(ボッター)」のデザイナーであるリジー・ヘレブラーとルシュミー・ボッターだ。二人はショーの意義をこんなふうに記した。「このような侵害が常態化した時代に、ファッションなんて無駄と思われがちです。(中略) そんなことはありません。今日、私たちは創造性がこれまで以上に必要とされ、(中略)未来をともに作ることに役立つと信じています」
text: Mitia Bernetel、Marion Dupuis (madame.lefigaro.fr)