年収2億超えの女子大生アスリートは業界の救世主なのか。
Culture 2023.02.11
文/さかいもゆる
アメリカでいま、男性たちを熱狂させる体操選手が注目を集めている。彼女の名前はオリビア・ダン。ルイジアナ州立大学の体操選手で、インスタグラムやTikTokなどのソーシャル・メディアで1000万人以上のフォロワーを獲得し、アメリカン・イーグルをはじめとする有名ブランドとのNIL契約により、20歳にして推定年収は3億円超え。NCAA(全米大学体育協会)のアスリートの最も稼ぐ選手、第6位だ。NILとは、NCAAが認めた知名度(Name)、イメージ(Image)、肖像(Likeness)で収入を得る行為のこと。
オリビアはリヴィという愛称でSNSにビキニや挑発的なポーズのセクシーなセルフィーを投稿することで男性ファンたちを惹きつけ、彼女が出場する大会には、まるでアイドルのライブかのように、手書きのメッセージボードを持った、彼女と同世代の男性たちが押しかける。
1月6日に彼女が所属するルイジアナ州立大学が相手チームに敗れた際には、オリビアが欠場したにも関わらず、ボードを掲げたファンがスタジアムの外に集まり、競技の間ずっと「僕たちはリヴィが欲しい」と叫び続け、相手側の悪口を言うなど失礼な態度を取っていた。この群衆から逃れるために大学はチームの乗るバスを移動させなければならず、その後の会議ではセキュリティ対策を強化することを決定したという。熱狂して叫ぶファンたちは暴動を起こしかねない勢いで、ちょっと異様な光景だ。
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「年収1億円以上稼ぐようになれて感謝している」
This is actually so scary and disturbing and cringey. I’m embarrassed for them… pic.twitter.com/h23bBdBQ9B
— Samantha Peszek (@samanthapeszek) January 8, 2023
ファンがスタジアムの外に集まり、競技の間ずっと「僕たちはリヴィが欲しい」と叫び続けた。
オリビア自身も、出演したTV番組『Today』で、「今までも私のサポーターたちが大学を応援しに来てくれることはあったけれど、今回はちょっと行きすぎていました」とコメント。Twitterで、ファンたちに彼女のチームメイトに敬意を払ってくれるよう依頼した。
「みなさんの愛とサポートに常に感謝し続けます。ですが、私に会いに来てくれる時には、ほかの体操選手やコミュニティに、私たちがやるべきことに集中できるよう、配慮してくださることをお願いします」
オリビアは番組内で「年収1億円以上を稼ぐようになれて感謝しています。大学生がそんなチャンスを手に入れられたのは、すごいことだと思います」と語っているが、色気を武器にNIL契約で稼ぐ、彼女のような女子大生アスリートを彼女を批判する声もある。
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「差別的な考えを助長する」という声も…。
スタンフォード大学の女子バスケットボールのコーチであるタラ・ヴァンダービアも、米ニューヨーク・タイムズ誌のインタビューで、オリヴィアをはじめとするソーシャル・メディアの人気商法で稼ぐ女性選手たちを、女性アスリートの「後退」として批判。「このような活動は、古くからある性差別的な考えを助長するものになる」と訴えている。
同誌のコラムニスト、カート・ストレーターは、「この件に関して、人種問題を無視することはできない。彼女たちの中で最も商業的に成功している女性のほとんどは白人だ。ジェンダーも無視できない。トップの稼ぎ手の中に、同性愛者であることを公認している者はほぼ存在しなく、彼女たちの多くは、男性の視線に応えるような挑発的なセルフィーを投稿している」と指摘。
確かに彼女たちのSNSは男性に媚びるような服装やポーズのものが多く、アメリカ人男性が思い描く、セクシーな女性像そのもののよう。男性目線で選ばれたモデルたちのみを出場させたショーで有名になった下着ブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」が批判され衰退した現代において、時代に逆行するかのような現象がアスリート界で起きているのは興味深いことだ。
東京五輪では体操女子のドイツ・チームが、従来のレオタードの代わりに足首まで肌を覆った「ユニタード」を着用したのも記憶に新しい。あれは女性アスリートが性的視線に晒される不安を感じることなく、競技に集中するために選択されたものだったはず。
性的なオブジェクトとして自らの肉体を曝け出すオリヴィアたちは、女子大生アスリート界の救世主となれるのだろうか。
text: Moyuru Sakai