「フランスで日本酒がブーム」ってホント? ソムリエたちが認める日本酒の魅力とは。

Culture 2023.03.13

世界が憧れる美食の国、フランス。いまフランスで日本酒がブームになりつつあるという。その牽引役となった、フランス人とフランス市場に向けた日本酒、本格焼酎、泡盛のコンクール「Kura Master」のイベントを取材した。

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2月のある日、フランスからKura Masterの審査員たちが来日。出品された日本酒、本格焼酎、泡盛をビュッフェと共にテイスティングする交流会が行われた。

元ドン・ペリニヨンの醸造責任者リシャール・ジョフロワがアッサンブラージュ(=いくつかの原酒をブレンドする、シャンパーニュでよく行われる技法)を用いて作り出す「IWA 5」が話題になり、またアメリカではロバート・デ・ニーロが共同経営者として名を連ねるレストラン「NOBU」で新潟県佐渡市の「北雪」が取り扱われるなど、日本酒の魅力はいまや世界中の酒好きを魅了してやまない。

「2017年、日本酒の魅力をより深く探るべく、フランスのトップソムリエを集めた『Kura Master』が始まりました」と語るのは、日本酒コンクールの副審査委員長を務めるパズ・ルヴァンソン。3つ星「アンヌ・ソフィー・ピック」レストラングループのシェフソムリエであり、2014年にアルゼンチン最優秀ソムリエ、2015年にはアメリカ最優秀ソムリエ、2016年には「ベストソムリエ・オブ・ザ・ワールド」で4位に輝いた実力派だ。

「このコンテストを始めて7年になりますが、パリの酒販店でも日本酒のボトルを見かけるようになりました。ワークショップやテイスティングイベントも数多く開催してきましたし、認知度はかなり高まってきていると考えています」

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ルヴァンソンの言葉からも伺えるように、フランスでの日本酒の需要は右肩上がり。下のグラフにも現れている通り、コロナ禍を経て2021年には輸出額、輸出量ともに過去最高を更新した。

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財務省貿易統計【HSコード220600200(清酒)】を基にジェトロ・パリ事務所作成

各国で日本酒を対象にしたコンクールが盛んになってきたが、Kura Masterの最大のポイントは「食と飲み物の相性」に重点を置いていること。審査員には名だたるホテルやレストランのトップソムリエ、シェフ、酒販店、料理学校の責任者などさまざまな飲食に携わるプロフェッショナルたちが集結。「純米酒」「純米大吟醸酒」「サケ スパークリング」「クラシック酛」「古酒」の5部門にエントリーされた日本酒を、ワイングラスを使用してブラインドテイスティングで審査する。2023年は過去最高のエントリー数を更新し、340の蔵元から1092銘柄の日本酒が出品され、審査に挑む。

「アンヌ・ソフィー・ピックのグループでは5年前から全てのレストランで日本酒のペアリングを行なっています。まるで白ワインのような、酸味の強い日本酒があることはもちろん知っていますが、その味わいにこだわることはありません。むしろ、それぞれの日本酒の個性にピッタリ当てはまるフレンチの料理が本当に存在するのです。たとえば、スズキのポワレにキャビアを添えたスペシャリテには必ず日本酒をお薦めしていて、味わったお客様は確実に日本酒のファンになります」

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アルゼンチン、アメリカを経てフランスのレストラングループを統括するシャフソムリエとして活躍するルヴァンソン。

そう語るルヴァンソンの店では、すべての日本酒をバイザグラスで提供しているのだという。

「ボトルで買うには、フランスではちょっと値段も高いですし、またラベルに書かれている日本語も読めないので、敷居が高いですよね。そこでソムリエの出番です。最適な温度で、最適な食材とのペアリングとともにお客様に提案する。お客様は、日本酒を通して日本文化、そして日本そのものを旅する気分を味わいます。そのためには、ソムリエも日本酒について学ばねばなりません」

フランスで日本食レストラン「Azuki」のマネージャーを務め、酒ソムリエの資格も持つ審査員のダヴィド・ベルナールは、会場でとても興味深い話をしてくれた。

「もちろん味わいはとても大切です。甘さ、辛さ、香り……。でもそれ以上に大切なのは、その日本酒がどんなテロワールで生まれ、どんな蔵元で育まれてきたのかという“ストーリー”なのです」

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日本食レストランのマネージャーであるベルナールは、酒ソムリエの資格のほか、柚酒「魔女のため息」のアンバサダーを務めるなど日本の酒文化を深く理解しようと務める。

「当初は“日本酒”なんて誰も知らなかった。Kura Masterの品評会やセミナーで、多くのソムリエたちが日本酒の魅力を知り、そしてそれをお客様に広めていきました。2年前には“古酒”や“にごり酒”のセミナーを受けて『こんなものがあるのか!』と驚き、すぐに店に置くようになりました。我々の仕事は、まだその魅力を知らない人に、日本酒の持つ物語を伝えていくことなのです」

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また、Kura Masterでは2021年から本格焼酎・泡盛のコンクールも開催するようになった。3回目の開催となったこの部門について、委員長であるフランスバーマン協会副会長のクリストフ・ダヴォワンヌはこう語る。

「フランスでは焼酎はほとんど知られていません。私も、以前に日本で初めて飲んだ時は『日本のウォッカみたいなものだよ』と言われ、『強い酒だな』という印象しかありませんでした。ところが、Kura Masterの審査に集まった各蔵のハイクラスな一杯を味わってみたら、その華やかさと多様さに驚かされたのです」

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フランスバーマン協会の副会長を務めるダヴォワンヌ。自身も M.O.F(国家最優秀職人章)を保持する実力派バーマンとして腕をふるう。

日本では男性的、酒好きのための酒、愛飲者の年齢層が高め……といったイメージも纏いがちな焼酎や泡盛だが、ダヴォワンヌは笑いながら言う。

「焼酎の歴史は500年以上だと聞いていますが、フランス人にとってはまったく新しい飲み物。つまり、どのように楽しむかを自由なイメージで広げていけるのです。先日、イベントで麦焼酎を使ったカクテルを提供したところ、『このフレーバーはなんだ!』とお客様たちは大興奮。フランス人は好奇心旺盛なので、原料も味わいもじつにさまざまなこのスピリッツに魅了されるはずだと確信しています」

パリの老舗「ハリーズ・ニューヨーク・バー」に立つ、2020年最優秀バーマン賞を受賞したアンジェロ・ロッシも、焼酎の味わいに太鼓判を押す。

「華やかな香りと、いろいろな素材からくる味わいの違いがとても興味深いですね。今日試飲した『ねっか』の米焼酎は、バランスの取れた味わいながら、余韻がスッと消えていく気持ちよさ、フルーティーなテイストがとてもよかったです。これから沖縄、九州の蔵元の視察にもいく予定なので、どんなふうに作られているのかを知るのがまた楽しみです」

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ヘミングウェイも通ったことで知られる名店「ハリーズ・ニューヨーク・バー」。若くしてこの老舗のカウンターに立っているのが、気鋭のアンジェロ・ロッシだ。

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「日本酒は和食に合わせるもの、という概念を変えつつあるのが、このKura Masterです」

そう語るのは同協会名誉会長で、以前は外務省で各国の大使を務めた経験ももつ門司健次郎。

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外務省で文化交流を進めてきた門司。今年1月には新書『日本酒外交酒サムライ外交官、世界を行く』を上梓した。

「日本酒が日本各地で作られているということは、さまざまな地域性を持つ多様な酒があるということ。その多様性は、ワインに近いものがあると感じています」

各地の気候に合わせて作られてきた日本酒は、世界のさまざまな料理に合わせられる可能性がある。門司はそう信じているのだという。

「フレンチに合う日本酒があり、美食の国フランスのプロフェッショナルを感動させています。日本酒は世界に誇れる酒なのだと思っています」

 

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