KYOTOGRAPHIE 2023 11th Edition "纏う"という行為に宿る、 時代を超えた幸せな力。
Culture 2023.04.27
京都を舞台に開催される国際的な写真祭KYOTOGRAPHIE。初開催から11周年を迎えた今年のテーマは、BORDER=境界線。今回の展覧会に出展した6人の女性アーティストにインタビュー、彼女たちが向き合う“境界線”とその表現に迫る。
Yuriko Takagi
photography: Sadaho Naito
高木由利子と田根剛が初めて語り合ったのは2016年のこと。トークイベントで対談相手を誰にするか尋ねられた高木は「まったく知らない人を」と答え、田根との対面となった。以来、イベント等での対談の機会が続き、田根のパリのアトリエを高木が訪ねるなどの交流も重ねられてきたが、プロジェクトをともに行うのは今回が初めて。40年に及ぶ高木作品から厳選した作品を、田根による会場構成で展示する。会場は重要文化財であり、世界遺産でもある歴史ある建物だ。
内容は大きく2種類ある。ひとつは民族衣装を着た世界の人々の姿を捉えた作品。民族衣装を着用する人々が減るなかで日常的にそれらを纏う人々を記録したいと、30年ほど前から撮影を始めた。もうひとつはディオールのために撮り下ろした新作や、ポール・スミス、イッセイミヤケ、ヨウジヤマモト、ジョン・ガリアーノといったハイブランドのために、80年代から今日まで高木が撮影してきたモード写真だ。
『ISSEY MIYAKE, 1986 A/W』1986年
『PARALLEL WORLD』という展覧会名だが、「ふたつを比較するというのとは真逆の考え」と高木は語る。ふたつの境界線は混じり合い、溶け合うかのごとく揺らぎ、「衣服」や「写真」について静かに我々に問いかけてくる
高木 衣服のポジティブな力を伝えたいんです。民族衣装は文化や人のアイデンティティの表れであり、デザイナーの創造力は私たちに夢を与えてくれる。また、衣服は第二の皮膚として私たちの心に影響を及ぼす存在です。衣服を纏うという行為は、何を着たら幸せになるかという「幸せ論」だと私はいつも考えているんです。
田根 17世紀に建てられた歴史的な出来事が積み重なっている場で、作品をどう紹介していくか。西洋的な照明の光でなく、自然光の陰影で作品を浮かび上がらせる、そのことが高木作品に通じると感じました。高木さんの作品は時間軸を超越した存在で、「物質性」と「テクスチャー」の魅力に満ちています。高木さんがカメラという機械で光を定着させて何かを伝え、残そうとしているところに共感を覚えますし、僕の建築と共通するものがあることを感じてきました。
『Maria Grazia Chiuri for Cristian Dior, HAUTE COUTURE SS 2021』2021年 ©Yuriko Takagi/DIOR
高木 私も、田根さんも、テクスチャーが好きなんです(笑)。今回は会場の空間に触れることができない。今年の1月に田根さんと二条城を訪ねた際に、壁に触れることすら禁じられていて、できないことが9割以上もある厳格な場であることを実感しました。そのような空間の中での展示ではテクスチャーを特に重視したいと思いました。
田根 300年以上もの時間が二条城には流れているので、現代的なものの表現を置くと違和感が生じてしまう。テクスチャーを歴史的なものに寄せることで、違和感を払拭したいと考えました。
『COMME des GARÇONS 1995-96 A/W』1995年
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写真が指でスクロールされてしまう現代で、立ち止まり、じっくりと向き合ってほしい。
『Threads of Beauty, India, 2004』2004年
高木 何かが際立つ、という表現は私も好きではありません。それとは真逆で、違和感を消すようにして全体の調和を重視しています。さらに今回、私が田根さんと考えたのは、すべての作品の見え方が異なるように作品を展示することです。
田根 トラディションとクリエイションが共存する地球のすべてを、その場に足を運んで捉えてきた「ひとりの女性の視点」を通した世界を表現したい、と思いました。写真の向こうにある何か、を枠として、二条城そのものが写真作品を見せるフレームとなることを考えました。日本の建築は幾何学の世界なので、数学的な造形であり、音楽的とも表現できます。今回はこうした空間に宿る時間性や質感の感覚を引き伸ばし、落ち着かせていくような静寂の空間を考えました。
『Threads of Beauty, China, 2002』2002年
高木 雑味がなくなる瞬間とは、まるで神社に入った時のような、スッとする瞬間ですね。皆がすさまじいスピードで画面をスクロールしながら刺激的な写真を見る時代ですが、ここでは静かに写真と向き合ってもらえることを願っています。写真は真実を写すと書きますが、ないものを足したり、あるものを引くのは私にとっての写真ではありません。そうした写真の根底も感じてもらえればうれしいです。いま、写真といえばフィルムではなくデータになっていますが、デジタルだからこそできることがあると思っていて。今回、オリジナルプリントを展示すると同時に、写真を和紙やコットン、漆喰など、さまざまな素材にプリントするという試みも行いました。今日もこれから、作業場でコテを持って自分で漆喰を塗りに行きます。ハイテクノロジーとアナログ的手法を交差させて新しい表現を生み出すことも、いまの時代だからこそできる醍醐味のひとつだと思っています。
『Threads of Beauty, India, 2004』2004年 ©Yuriko Takagi
高木由利子
1951年、東京都生まれ。武蔵野美術大学でグラフィックデザインを学び、後に英国のトレント・ポリテクニックでファッションを学ぶ。5月28日まで、東京都現代美術館『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展で高木が撮り下ろした新作が展示中。
田根 剛
1979年、東京都生まれ。2017年、「ATTA-Atelier Tsuyoshi Tane Architects」を設立、パリを拠点に活動。場所の記憶から建築を作る「Archeology of the Future」をコンセプトに、世界各地でプロジェクトが進行中。主な作品に「エストニア国立博物館」「弘前れんが倉庫美術館」など。
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『PARALLEL WORLD』
Presented by DIOR
二条城 二の丸御殿 台所
京都府京都市中京区二条城町541
入場無料
*「フィガロジャポン」2023年6月号より抜粋
text: Noriko Kawakami