全米ベストセラーのロードノベルほか、いま読みたい4冊。
Culture 2023.11.12
女友だちの心地よさが沁みる、江國香織が描く人生の秋。
『シェニール織とか黄肉のメロンとか』
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作家で母とふたり暮らしの民子。ロンドンから早期退職で帰国した理枝は2度の離婚を経験している。2児の母の早希は認知症で施設にいる義母の面会に。大学時代からの友人だった3人も50代。若い頃は生き方が異なると疎遠になりがちだが、この年代になれば、女友だちの心地よさが身に沁みる。人生の秋を生きる女たちの日常を江國香織ならではの滋味あふれる眼差しで描き出し、私は私の人生を生きればいいと胸がいっぱいになる。
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少年たちの人生を変えた10日間、ロードノベルに新たな傑作誕生。
『リンカーン・ハイウェイ』
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1954年、刑務所から出所した18歳のエメットは、故郷のネブラスカに戻り、弟のビリーとともに生き別れの母親を探しにカリフォルニアに向かうはずだった。ところが施設を脱走したダチェスとウーリーに車を奪われ、ふたりを追ってニューヨークへ行く破目に。約700ページがあっという間に感じられるのは、たった10日間の旅が少年たちの人生を変えたから。オバマ元大統領が年間ベストブックに選んだ全米100万部超えのベストセラー。
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令和版『ノルウェイの森』、記憶の中でよみがえる愛。
『最愛の』
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情報も欲望も合理的に処理する現代人として、そつなく生きてきた久島。既婚者の渚とも距離を保ちつつ、関係を続けてきたが、ただひとりいまも忘れられない人がいた。中学で出会い、大学まで手紙を交わし続けてきた望未は、手紙の冒頭で必ず「最愛の」と呼びかけながら「私のことは忘れて」と言った。現実の性的関係と記憶の中だからこそ色褪せない純愛。村上春樹の『ノルウェイの森』の現代版といわれる本作。読み比べてみたくなる。
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まるで桃源郷のような美しさ、広告写真の金字塔が写真集に。
『いつでも夢を』
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上田義彦が撮影したサントリーのウーロン茶の広告を覚えている人も多いのではないか。緑が滴る風景の中にたたずむ家族。バレエを踊る少女たちのしなやかな肢体。1990年から2011年までの20年間にわたり、南は海南島から北はハルピンまで巡って撮影されたシリーズは、変わりゆく中国を捉えた旅の記録でもある。静謐な光の中に映し出される人々の営みは、まるで桃源郷のように美しい。手元に置きたくなる愛蔵版の写真集。
【合わせて読みたい】
小説でもエッセイでもない、ジュンパ・ラヒリの最新作。
イギリス各地の庭を、写真で、文章で、その魅力を伝える。
タイトル受賞作家たちの新作ほか、いま読みたい4冊。
*「フィガロジャポン」2023年12月号より抜粋
text: Harumi Taki