文筆家・村上香住子が胸をときめかせた言葉を綴る連載「La boîte à bijoux pour les mots précieuxーことばの宝石箱」。今回はグラミー賞12回受賞の歌姫、テイラー・スウィフトのことばに迫る。
自分のビデオの再生回数が一億回を上回っても、たとえ「タイム」誌に「世界一のインフルエンサーでスーパースター」と賞賛されても、地上最強の歌姫テイラー・スウィフトには、どうしても許せないことがあるようだ。
愛のうたを歌い続ける彼女にとって、人生で最優先するのは恋愛なので、相手のパートナーのこととなると、神経を尖らしている。ネット上で、自分の好みのタイプではない男性と自分が付き合っている、というフェイクニュースが流れたりすると、我慢ならないほど悔しいそうだ。
仏のTVのインタヴューでも語っていたが、「私は男の人を追いかけたことなんかただの一度もないのに、そういう噂を立てられるって、とても頭にくるの」といっている。アルバムを出せば、次々に世界のヒットチャートを席巻していくほどの知名度のスターだし、その才能と美貌に人々はすっかり魅了されているというのに、そんなあらゆる夢を叶えているようにみえる彼女にも、自分ではどうにもできないことがあるという。私生活では、エゴサーチをしたり、ググったりしているようで、自分と噂になっている相手が魅力的ではなかったり、気に入らないと、無性に口惜しく、腹立たしくなるようだ。
グラミー賞最優秀アルバム賞を、史上最多の四回も受賞している今年35歳のテイラー・スウィフトは、メットガラで出会ったジョー・アルウィンと2023年に破局しているが、そうした恋愛事情はファンたちならみんな知っていて、そこから紡ぎ出される愛のテーマや別離の名曲が生まれるのを誰もが期待することになる。世界を制覇するようなサクセス・ストーリーのヒロインになれたのも、実は彼女の天才的な才能だけでなく、そうした包み隠しをしないお洒落な私生活のスタイルも彼女の大きな魅力となっている。新たな恋が始まったとしても、テイラーの場合すでに恋多き女というイメージが定着しているので、スキャンダルにはならないし、ファンたちはむしろ歓迎しているかもしれない。
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ネット社会になって以来、日本の芸能界でも、隠蔽されたスキャンダルが次々に暴かれていっているし、政治家も芸能人も、まるで私生活の可視化が求められるような傾向になってきている。
最近もフランス最大の新聞「フィガロ」紙のオンライン版で、「日本のボーイズバンドの性的スキャンダル」として、SMAPという日本の伝説的バンドのメンバーのひとり、中居正広のスキャンダル、として大きく取り上げられていたし、その情報は瞬く間に、海外まで広がっている。そんな時代に、セレブとしてのプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、本物の感情から生まれる恋を探し求め、乙女心を持ち続けているテーラーは、テクノロジーの時代に生まれるべくして生まれた、自由を謳歌するスーパースターといえるのかもしれない。
彼女は13歳の頃から、羽ペンとインクで日記をつけていた。六歳の頃から、ギターを弾き始め、作曲をしていたというから相当早熟な天才少女だったのだろう。
先頃の米国の大統領選では、民主党のハリス候補を支持して、トランプ次期大統領の不興を買ったが、それでも頑なに自分の意志を貫くというタフな精神の持ち主だ。ヨーロッパにも熱狂ファンは多く、新アルバム「ポートナイト」では、2024年年間最優秀ビデオ賞を受けているし、つい最近も米ビルボードで、21世紀のアーティストのトップに選ばれている。
ビヨンセやビリー・アイリッシュと張り合いながらも、今年も先頭を駆け抜けるのかもしれない。
Taylor Swift
1989年、ペンシルヴァニア州生まれ。キリスト教の信仰に厚い家族の下、自然に囲まれた環境で育つ。幼少期から音楽に目覚め、12歳でギターを手に作曲を開始。カントリーミュージックのシンガーソングライターとして2004年にデビュー、09年にはアルバム『Fearless』でグラミー賞最優秀アルバム賞を最年少で受賞。フェミニズム、LGBTQ、社会奉仕や政治的関心への言及も取り上げられることが多い、世界的に影響力を持つテンターテイナー。
フランス文学翻訳の後、1985年に渡仏。20年間、本誌をはじめとする女性誌の特派員として取材、執筆。フランスで『Et puis après』(Actes Sud刊)が、日本では『パリ・スタイル 大人のパリガイド』(リトルモア刊)が好評発売中。食べ歩きがなによりも好き!
Instagram: @kasumiko.murakami 、Twitter:@kasumiko_muraka