しっとりした会話劇から香港アクションまで! 編集部が選んだ、映画館で見たい傑作3選。
Culture 2025.02.11
流麗な車窓の夜景を背にした、珠玉のワンシチュエーション劇。
『ドライブ・イン・マンハッタン』
![250121-cinema-02-03-new.jpg](https://madamefigaro.jp/upload-files/250121-cinema-02-03-new.jpg)
家族がガタつく故郷オクラホマからの帰途、JFK空港に着いたダコタ・ジョンソン演じる女性プログラマーは、イエローキャブを拾って恋人が待ちわびるマンハッタンを目指す。夜のハイウェイを飛ばすタクシー運転手に扮するのは、やんちゃ坊主のまま渋みを増したショーン・ペン。一見恵まれたキャリア女性が恋人との間にも不調とつまずきを隠すのを、口は悪いが落伍経験ゆえの観察眼と直感力に長けた彼が、客の仕草や話の切れ端から射当てる。バックミラー越しのチラ見、振り向いて互いの視線が合う瞬間、仕切りガラスを開けて彼女が運転席に身を乗り出す事故渋滞の時間。名乗らぬままの会話がその都度、深刻な打ち明け話と親身な助言へギアチェンジする魅惑の掛け合い!
監督・脚本/クリスティ・ホール
2023年、アメリカ映画 100分
配給/東京テアトル
2月14日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開
https://dim-movie.com/
---fadeinpager---
実力派スターが映画作りを牽引、バディ映画に知性と温かみを注入。
『リアル・ペイン~心の旅~』
![250121-cinema-02-02-new.jpg](https://madamefigaro.jp/upload-files/250121-cinema-02-02-new.jpg)
監督・脚本兼任のジェシー・アイゼンバーグ演じる若き父デヴィッドは、家族同然に幼少期を過ごしたベンジーと再会する。団体行動を嫌い、歳を重ねても社会人になりきれないこの従兄弟、濃やかな神経をコジラせた懐疑派のお騒がせ男をキーラン・カルキンが快・怪演。ゴールデングローブ賞を筆頭に、今春の助演男優賞の全米賞戦線に名を連ねている。ふたりはルーツの地ポーランドを旅し、亡き祖母の面影を追ってホロコーストツアーへ。都合のいい良識的ツーリスト気分に毒を吐くベンジーを穏健派デヴィッドは諌めつつ、20世紀が抱えた甚大な痛苦とは断絶していそうで、それをリアルに受けとめるための道筋として、いまの"個"の痛みを分かち合う。心に響く着地点だ。
監督・脚本/ジェシー・アイゼンバーグ
2024年、アメリカ・ポーランド映画 90分
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
1月31日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
https://www.searchlightpictures.jp/movies/realpain
---fadeinpager---
記憶を呼び戻す生活の染みや匂い、カオスな活力が巨大セットに蘇る。
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
![250121-cinema-02-01-new.jpg](https://madamefigaro.jp/upload-files/250121-cinema-02-01-new.jpg)
海賊対策の拠点だった軍事要塞が、戦後の混乱と都市化の波に乗じ、積み木を重ねるように膨張。毛細血管状の隘(あい)路が迷宮を繋ぐ九龍城砦は、法の目が届かぬ香港最深部のシンボルに。中国返還前に解体されたこの無秩序な時空が、行き場なき者らが助け合い、衣食住を営む場として往時の記憶ごと蘇る。若い密航者チャンは、サモ・ハン好演の大ボス率いる黒社会の魔手を逃れて城砦に潜み、恩師「竜巻」傘下の厨房で働き出す。敵味方相食む生身のアクションは、香港映画ゼロ年代の寵児が非情なタッチに超人技のケレンを盛って息もつけない。風まかせの凧など、浮草暮らしの情緒が巧妙な隠し味。取り壊しを控えても、食材を仕込む路地や厨房の、朝方の活気が絶えない。
監督/ソイ・チェン
2024年、香港映画 125分
配給/クロックワークス
新宿バルト9ほか全国にて公開中
https://klockworx.com/movies/twilightwarriors/
*「フィガロジャポン」2025年3月号より抜粋
text:Takashi Goto