女性の創造性を讃える、ミュウミュウの映画プロジェクトの最新作が公開へ。
Culture 2025.02.20
「WOMEN'S TALES(女性たちの物語)」は、2011年にミュウミュウによってスタートしたショートフィルムプロジェクト。国際的に活躍する女性映画監督による、女性ならではの感性で創り上げた作品を世に送り出す後押しを続けてきた。これまでに制作されたショートフィルムは合計28本。
いずれも独自の世界観を見せながらも、21世紀における女性らしさとは何かという疑問を投げかけて鑑賞する人々の心に訴える秀作ばかりだ。またミュウミュウのウエアやバッグなどコレクションからのアイテムが作品の中で重要な役割を果たしているのも見どころのひとつとなっている。
2月13日、その最新作であり第29弾となるジョアンナ・ホッグ監督による『Autobiografia di una Borsetta』が、ロンドンの映画館カーゾン・メイフェア・シネマにおいてお披露目された。
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ジョアンナ・ホッグは写真家、テレビ監督として活躍したのち、2008年に『Unrelated』で長編映画デビュー。ロンドン映画祭のFIPRESCI賞を始めとする数々の賞を受賞している、イギリス映画界がいまもっとも注目するひとりだ。
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物語はイタリア・トスカーナの美しい風景の中にぽつんと置かれたミュウミュウのバッグ「ワンダー」が映し出されるシーンから始まる。よく見るとそのバッグは汚れ、傷付き、使い古されている。そもそもなぜ、このバッグはここに置き去りにされているのか? これまでどんな旅を経てきたのか? そんな物語をバッグ自身が語り始める。
超近代的な工場で産声を上げて裕福な家庭の少女の大切な品として過ごしたのち、厳しい状況下での生活を強いられている女性、暗黒街で生きる暗殺者などのさまざまな持ち主の元をめぐる。そこで交差する、現代イタリアの喜び、悲しみ、絶望、欲望が、バッグ自身の言葉とともにリアルに描き出されていく。
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この映画制作のスタートにはジョアンナの友人で学者のジョン・デイヴィッド・ローズとエレナ・ゴーフィンケル共著の本『The Prop』があったと彼女は語る。
「この本を読み、その中で探究している映画におけるオブジェの重要性と、ファッションにおけるオブジェの重要性を結びつけることを思いつきました。そしてハンドバッグを主役にしようと決めたのです」
「ハンドバッグは世界をどう見ているか」を映像に収めるために、iPhone16を4台使って撮影したという。
ストーリーはイタリア語で語られる。英語を母国語とするジョアンナにとって、それは新たな挑戦でもあった。
「これまで外国語の映画の作品を監督したことがありませんでしたし、海外でのロケもその後の制作も初挑戦でした」
そのためにはまず、彼女の頭の中にある情景や人物を具体的に描き出すことをしたという。
「たとえば最初に登場する大きくて豪華なアパートメントを舞台のひとつとして選び、そこで実際に暮らす人々に演じてもらうことにしたのです」
全編を通して、出演者は全てプロの役者ではないという。
「ハンドバッグを主人公にしたことで、私はとても自由になれました。それは人物の言葉にはならないことでも、ハンドバッグに考えさせたり語らせたりすることが可能だったからです。私が人生で感じていること、そして恐れていることを素直に取り入れることができました」
「このバッグ、『ワンダー』は脚本を書き始めた最初の頃から常に私とともにありました。思い描くシチュエーションごとに取り出してはバッグの写真を撮っていました。取っ手越しの撮影のアイデアもそうして生まれたのです。『ワンダー』は私にたくさんのインスピレーションを授けてくれたのです」
白いワンダーバッグの生涯の旅を通して語られる言葉の数々に、心を揺さぶられずにはいられないはずだ。
photography: Brigitte Lacombe text: Miyuki Sakamoto