読書の幅を広げたいあなたへ贈る4冊。
Culture 2025.08.31
夏を記録したサウンドトラックのような一冊から、食の秋に向けて手に取りたいレシピ本まで。いま読みたい4冊をご紹介。
バラバラだったピースが、ひとつの絵を描く。

『チョコレート・ピース』
47歳で作家デビュー。本屋大賞に5年連続でノミネート。ウェルメイドな映画のような心地いい読後感が著者の魅力。チョコレートに託して描かれる24のショートストーリー。文化祭の模擬店のチョコバナナ。ハワイ土産のマカダミアナッツチョコ。10代から40代までの女性の心模様がパレットに色を置くように描かれていく。12編でひとつの絵になる前半、後半12編にもある仕掛けが。連作短編の名手の鮮やかな手際をご堪能あれ。
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母になるのは拒否します。韓国の女性たちの選択。

『働きたいのに働けない私たち』
少子化が進む韓国で子どもを産まない女性が増えているという。働く意志も能力もあるのに結婚出産を理由に社会から締め出され、機会も環境も与えられない。それって個人の問題だろうか。自己責任という言葉で受け入れることを強いられている問題の多くは、旧態依然とした社会のからくりのせい。「女性だから」という理由で押しつけられる理不尽に「NO」を突きつける韓国の女性たちの告発は、他人事ではない切実さで迫ってくる。
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山田詠美作品に登場する、料理を再現できるレシピ集。

『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』
山田詠美の小説で、誰かと食べ物をシェアする行為は官能的な儀式になりうることを知った。『ベッドタイムアイズ』でナプキンも使わずリブを食べたスプーンの指を「しゃぶらせて」と言える彼女は、行儀の悪さがふたりの距離を縮めることを知っているのだろう。『僕は勉強ができない』の賢者の皮むきサラダ。『風味絶佳』の牛肉の上等を入れたおから。あのシーンのあのひと皿を再現できるレシピ集。
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短歌と写真で織りなす、記憶の中にあるあの夏。

『あなたに犬がそばにいた夏』
歌人の岡野大嗣が、生まれ育った大阪の街を写真家の佐内正史と歩いた。蜃気楼みたいな夏の風景は、遠い記憶を呼び起こす。「決定的瞬間のない瞬間を川は流れにきらめかせつつ」。見慣れているはずの商店街も短歌で切り取ると特別な一瞬に変わる。それは写真も同じ。「なんてことない坂道を下りつつ信じたことを手放していく」。2年かけてつくった短歌102首と写真42枚を収録。メロウな夏を記録したサウンドトラックのような一冊。
*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
text: Harumi Taki