国内外の傑作が一挙公開! 9月の新作映画3選。
Culture 2025.09.01
01. 子どもの自然な感情が会心コメディの波動に。
『ふつうの子ども』

10歳の虫好きおとぼけ男子・唯士は、手遅れ寸前な地球環境のヤバさを、クラス担任相手に物怖じせず発言する読書好きの心愛(ここあ)に心がなびく。彼女に近づきたい一心から、CO₂の元凶と習い覚えた、好物の母手製のお肉料理まで控える始末。そういう愛嬌のある挿話群が、心愛も動かす行動派の腕白少年・陽斗の台頭で学校や街に混乱を招く。呉美保監督は高田亮のオリジナル脚本を得て、ピュアゆえに極端にも振れる子どもの内発的な対抗心をアクションの動力源とし、緩急自在なコメディに磨き上げる。子どもの問題行動のツケを大人(母役の蒼井優、瀧内公美ら脇の大人も好演)が払う背景に、子どもにツケを回してその場しのぎに迷走する大人社会が透けてくる構図の明敏さ。
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02. 禁じられた領域へ踏み出す、初恋の夢と惑い。
『DREAMS』

17歳のヨハンネは新任の聡明な高校教師ヨハンナに心酔。憧れが昂じ、母親にはバレエレッスンと偽って女性教師宅への訪問を繰り返す。その詳細を少女は手記に書き留める。赤裸々にして夢見心地なその手記が、詩人の祖母、祖母に引け目を抱く母の目に触れ、青春期の価値観を異にした母娘3代の視線が交錯。心と身体が裏腹な初恋体験を観客の鼻先に匂い立たせつつ、現実と言葉のズレまでが水晶体のように妖しく色づく。北欧的な白・青・茶・緑の配色を駆使して恋のときめきと失意の波紋を濃やかに描き、複眼的に語るのはノルウェーの未知の匠。「オスロ、3つの愛の風景」と称し、ベルリン国際映画祭金熊賞受賞の本作が、同監督の3部作『LOVE』『SEX』と合わせて秋の劇場を彩る。
●監督・脚本/ダーグ・ヨハン・ハウゲルード
●2024年、ノルウェー映画 ●110分
●配給/ビターズ・エンド
●9月5日より、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国にて順次公開
https://www.bitters.co.jp/oslo3/
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03. 正反対ゆえに一心同体に結ばれた姉妹の行方。
『九月と七月の姉妹』

15歳のジュライは高校の悪ガキの誘いに乗ってネット中傷の憂き目に合うも、10カ月年上の姉セプテンバーの"鉄拳"に助けてもらう。が、姉妹は退学となり、母に導かれて片田舎へ。山と海に挟まれた一軒家を舞台に、ジュライを守護するかに見えて姉がマインドコントロールしてきた姉妹関係のねじれが浮上する。さらに驚嘆の捻り技も。精神的に脆い母の影響下、「おバカ」扱いの妹ジュライの視点でこれを高感度な思春期スリラーに仕立てたのは、『哀れなるものたち』(2023年)の国際的異能派ヨルゴス・ランティモスのギリシャ以来の公私にわたるパートナー。愛しすぎて壊しちゃえ----破壊衝動と厚情が幼子のお遊戯みたいに何度も裏返り、新たな視界が開けるメランコリー奇譚。
●監督・脚本/アリアン・ラベド
●2024年、アイルランド・イギリス・ドイツ映画
●100分 ●配給/SUNDAE
●9月5日より、渋谷ホワイトシネクイントほか全国にて順次公開
https://sundae-films.com/september-says/
*「フィガロジャポン」2025年10月号より抜粋
text: Takashi Goto