結婚してもしなくても。山崎ナオコーラ選、自分らしい生き方を見つける6冊。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.11】
Culture 2025.09.04
知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.11は「結婚してもしなくても」をテーマに、作家・山崎ナオコーラが選んだ6冊を紹介。時代によって、人によって、結婚に対する価値観や必要性は変わってくる。結婚してもしなくても、自分らしい人生を歩むための一冊を見つけたい。
選者:山崎ナオコーラ(作家)
結婚してもしなくても。
せっかく生まれてきたのだし、周りの人とちょうどいい距離感をつむいで生活を楽しみ、自分の人生を作っていきたい。その方法の一つが「結婚」なのだろうか。「結婚」という言葉は、時代によって意味が変わるし、同じ時代の作家でも使い方が違っている。つまり、もっと自由に言葉を使って、自分らしい「結婚」を探ってもいいのかもしれない。今の自分の周りにある人間関係の中の、ちょうどいい距離感の人を大事にすることだって、たぶん、ある種の「結婚」だ。あるいは、自分と「結婚」をして、孤独に生きるのも、きっと素晴らしい人生だ。
右:ダイヤモンドとイエローゴールドのレイヤードで、シャンデリアをモダンに表現した「シャンデリア レイヤード」リング(左)各¥308,000、リング(中央)¥253,000/ともにアーカー(アーカー ギンザシックス店)
1. 『授乳』
村田沙耶香著 講談社文庫 ¥704
今をときめく村田沙耶香さんのデビュー作。「え! この文の後にこの文が来るの?」という展開が続き、絶妙な気持ち悪さが行間からあふれ出る。登場人物の母、父、娘、家庭教師、みんな変わり者に見えて、でも、「これが人間だ!」と強く感じる。結婚や家族って、こんなにも気持ちが悪い。それなのに、みんな、平気な顔で社会を営んでいる、この世界は不思議だらけ。この小説を読んだ後は、なに食わぬ顔で結婚するのが怖くなるかも?
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2. 『細雪(全)』
谷崎潤一郎著 中公文庫 ¥1,320
上流階級の30代女性が戦前の日本でお見合いを繰り返すだけの長編小説。......なのに、なぜか面白い。主人公の三女・雪子は今で言うところのニートのようなもので、結婚したいのに自分では動かず、姉や姉の夫に全てを任せている。活発な四女・妙子は自分で仕事を見つけ、結婚相手も自力で探すが、どうもハッピーになれない。現代人には納得できないストーリーラインなのにページをめくる手が止まらない。他人のお見合いは面白いのだ!
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3. 『また団地のふたり』
藤野千夜著 U-NEXT刊 ¥1,760
人気俳優さんたちによるドラマ化で話題になった『団地のふたり』の続編。50代の女性の幼なじみ2人が、団地で繰り広げるゆるい生活。細々と仕事をし、フリマアプリで物を売り、ご近所さんと仲良くし、もういない同級生もほんのりと側にいる。結婚しないで、こんな友だちと毎日遊びたい。世には「婚活」という言葉があるが、「団地活」「幼なじみ活」もしてみたくなる。でも、こんな場所やこんな関係は、簡単には見つからない。
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4. 『尾崎放哉全句集』
尾崎放哉著 ちくま文庫 ¥1,012
「咳をしても一人」「入れものが無い両手で受ける」などの自由律俳句で有名な俳人・尾崎放哉は東大を出て保険会社の出世コースを歩んでいたのに、性格に難があり、酒癖も悪かったようで、30代で退職に追い込まれ、離婚もする。小豆島の寺で一人暮らしをした晩年に俳句を詠んだ。なんてことのない言葉運びなのにひしひしと孤独が伝わってくる。本人は辛かったかもしれないが、読んでいるこちらは、孤独も悪くない気がしてくる。
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5. 『どくろ杯』
金子光晴著 中公文庫 ¥796
70代の詩人が、自身の30代を振り返って書いた自伝的エッセイ。妻が婚外恋愛をしたため、「恋人から引き離したい」と考えた夫・光晴は、妻が憧れているパリへ行こうと誘い出す。しかし、金がない。とりあえず上海に行って春画を描いて船の金を作り、東南アジアに渡り......、何年もかけてパリへ向かう。長旅の間、隣に寝ている妻の気持ちはずっと謎だ。恋人とこっそり手紙のやり取りもしている。こんな結婚生活もあるんだな。
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6. 『ジャージの二人』
長嶋有著 集英社文庫 ¥572
映画化もされた人気小説。離婚した息子が、父親と2人で、山荘にて夏を過ごす。ゲームをしたり、お菓子を食べたり、大したことはしていないのにそこは家族だ、しみじみ楽しい。自分にもこんな父親がいたらいいな。いや、距離感を楽しむ相手は誰だっていいのかもしれない。結婚をうまくいかせることが家族作りではなく、程よい距離のところにいる誰かと、いい塩梅に暮らしを整えていくのが家族作りなのかもしれない。
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会社員をしながら書いた『人のセックスを笑うな』(河出書房新社刊)が第41回文藝賞を受賞し、作家デビュー。著書『美しい距離』(文藝春秋刊)で第23回島清恋愛文学賞受賞。『ミライの源氏物語』(淡交社刊)で第33回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。
https://www.instagram.com/yamazaki_nao_cola/
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
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