長田杏奈が「キレイになりたい」をテーマに選んだ6冊。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.15】
Culture 2025.09.08
知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.15は「キレイになりたい」をテーマに、ライター・長田杏奈が選んだ6冊を紹介。痩せてればキレイ? 歯が白ければキレイ? 現代社会に蔓延る「キレイ」の概念にとらわれない、真の美への視点を手に入れたい。
選者:長田杏奈(ライター)
キレイになりたい。
無心に愛でられる星や花とは異なり、人の見た目となると途端に話は複雑になる。絶対的な「キレイ」の正解に囚われると、世にはびこる美/醜を測る無粋な眼差しやコンプレックスを煽るメッセージに振り回されやすくなり、美は単純に快く幸せなものではなくなってしまう。そこで、知らぬ間に凝り固まった美意識をぐい〜んと引き伸ばし、「キレイ」とのほどよい距離感を探る6冊を紹介。歴史、データ、学問、アートの力で「キレイ」を俯瞰するフレームを、白か黒かで割り切れない個々の語りを通して複眼的な視点を手に入れよう。
1. 『見た目が気になる
「からだ」の悩みを解きほぐす26のヒント』
河出書房新社編・刊 ¥1,562
現代美術作家、ロリータモデル、元タカラジェンヌから鳥類学者まで。見た目で傷つき自分を変えようとした経験のある人、見た目の悩みを経て自分なりの付き合い方を見つけた人、周囲の価値観に縛られずに発信する人など総勢26人が「見た目」についての考えを綴る。わかりやすいスローガンや教科書的な知識だけでは取りこぼされがちな、ひとりとして同じではない個人のエピソードが多様な「キレイ」への想像力を豊かに肉付けする。
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2. 『きれいになりたい病』
大村美菜子著 風鳴舎刊 ¥1,760
"日常生活に支障をきたすほどではないが容姿への過度なこだわりや不安が強くなっている状態"を指す「醜形恐怖心性」を研究する臨床心理学者が、現代日本における見た目や容姿に対する意識をデータをもとに解明。SNSの浸透を背景に容姿へのこだわりや不安が低年齢層にまで蔓延している現状や、ルッキズムがいかに心の健康や自己受容感、対人関係にまで影響を及ぼすか、社会問題としての「キレイ」について考えさせられる。
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3. 『太れば世界が終わると思った』
キム・アンジェラ著 高原美絵子、西野明奈訳 扶桑社刊 ¥1,650
摂食障害と向き合った17年を綴った、韓国人女性による等身大エッセイ。摂食障害が命に関わる病であり、寛解まで長い年月を要することがリアルに描かれている。女性の容姿へのプレッシャーが強い同じ東アジア圏で、若年女性の「痩せ」が社会問題となっている日本の状況とも重なる内容。数年前に広まった「ボディポジティブ」に対し、微妙にバックラッシュが起きている昨今、事の深刻さ、切実さを共有するために広く読まれたい。
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4. 『化粧の日本史
美意識の移りかわり』
山村博美著 吉川弘文館刊 ¥1,870
たとえば、「歯は白いほうがいい」という美意識の歴史は意外に浅く、古代~江戸時代までは歯を漆黒に染める「お歯黒」が美の嗜みとされていた。それを知って今日から歯を黒く塗ろうとはならないまでも、現代の歯は真っ白にホワイトニングすべし!というプレッシャーからはワンクッション置けるようになる。現代の「美」がどこから来てどう根付いたかの歴史に触れ「キレイ」の儚くあやふやな一面を理解することは、心もお財布もラクにする。
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5. 『美容整形と化粧の社会学
プラスティックな身体』
谷本奈穂著 新曜社刊 ¥3,520
日本で「プチ整形」なるワードが浸透した2000年代に書かれた、美容にまつわる身体加工を通して現代の身体観について考察する一冊。化粧品広告が身体をどう描いてきたかのアーカイブや、美容整形に関するアンケートとインタビューが興味深い。老若男女に全身脱毛が啓発され「肌管理」が流行する2025年。身体加工へのハードルがさらに下がっているいまだからこそ、再履修しておきたい。
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6. 『ドラァグ
「自分を信じる」という生き方』
サイモン・ドゥーナン著 フリーダピープル訳 グラフィック社刊 ¥3,190
"娯楽として男性が「女性の服」で着飾ること、もしくはその逆である"と定義されてきたドラァグ。古くはシェイクスピアの時代からジェンダーが流動的かつ複雑になった現代までの軌跡を、ドラァグクイーンやキングたちの多彩なビジュアルをふんだんに用いて振り返る圧巻の書。ジェンダー化された「キレイ」をデフォルメする装いで堂々と自己表現し、アートやポップカルチャーの域まで昇華するレジスタンスたちに大いに刺激を受けて。
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美容を中心にインタビューや執筆を手がける。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン刊)、責任編集に「エトセトラ VOL.3 私の私による私のための身体」(エトセトラブックス刊)。
@osadanna
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
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