この夏にぴったりの韓国文学6冊を、原田いずが紹介。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.16】

Culture 2025.09.09

知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.16は「いま読みたい韓国文学」をテーマに、翻訳者・原田いずが選んだ6冊を紹介。夏を感じられる文学作品とは?


選者:原田いず(翻訳者)

いま読みたい韓国文学。

青々とした緑、厳しい残暑、うだるような熱帯夜......。本を通じて「夏」の感触を伝えるとしたら、皆さんはどんな作品を選ぶでしょうか。今回は、ここ数年で翻訳された韓国文学の中から新旧織り交ぜて、この季節に読みたい5作と、特集にちなんで「本」にまつわる1作を選びました。抑えていた欲望がほとばしる初夏の庭、旧習に縛られる息苦しい夜、寒さに震えながら夢想する暑さ、涼しげで憂鬱な異国の川辺、冷たい水に流されていく粘ついた熱。それぞれの感触で私たちを惹きつける、韓国文学の「夏」をお楽しみください。

250729-izu-harada.jpg

1. 『夏のヴィラ』

ペク・スリン著 カン・バンファ訳 書肆侃侃房刊 ¥1,870

繊細な文体で、この世界の美しさと残酷さ、一瞬の煌めきをすくい上げる作家、ペク・スリン。収録作の「まだ家には帰らない」は、幼い子どもを育てる主人公が経験する、束の間のときめきと諦念を描いた短編です。欲望と現実に引き裂かれる彼女を包む、むせ返るような初夏の熱気とツルバラの香り。いつもと異なる彼女の美しさに戸惑い、泣き出す幼子の姿に、ペク・スリンの物語に初めて触れた頃の自分を重ねました。

>>Amazonでの購入はこちら


2. 『影犬は時間の約束を破らない

パク・ソルメ著 斎藤真理子訳 河出書房新社刊 ¥2,640

人々が「冬眠」をする近未来の韓国を舞台に、冬眠する者やそれを手伝う者を描いた連作小説。浮遊感のある言葉のすき間を、冬眠者の悲しみや喪失がうっすら流れていきます。冬眠の話でありながら、この作品には「夏」の気配が感じられます。厳しい冬にあって夏を思い、夏に向かう心の描写があるからでしょうか。「夏は遠くから歩いて(中略)私たちに会いに来る」という一節には、丸々とした可愛さと、おぼろげな切実さがあります。

>>Amazonでの購入はこちら


3. 『大邱(テグ)の夜、ソウルの夜』

ソン・アラム著 吉良佳奈江訳 ころから刊 ¥1,980

ソウルと大邱(テグ)を舞台に、女ふたりのままならない人生と友情を描いたグラフィックノベル。真夏の夜に、それぞれの日常から抜け出して公園で飲み交わすビール。ソウルと大邱を繋ぐ携帯メールやブログのメッセージ。思うようにいかない人生に翻弄されながらも、離れた場所でお互いのことを考え、時にすれ違い、時に手を取り合うふたりの関係にじんと来ます。読み終えた後、しばらく会えていない友人に連絡したくなりました。

>>Amazonでの購入はこちら


4. 『失花』

イ・サンほか著 オ・ファスンほか訳 書肆侃侃房刊 ¥2,640

1940年前後の植民地朝鮮で発表された中短編からなる作品集。イ・サンをはじめ、当時を代表する作家たちによる6編が収められています。イ・ヒョソク「ハルビン」では、夏のキタイスカヤ通りをそぞろ歩く主人公が、絢爛たる都市の中で喪失や孤独、死について思いを巡らせます。このように、収録作品の表面的な描写は1940 年前後という時代背景を必ずしも色濃く映したものではありませんが、物語の中に確かな影を落としています。

>>Amazonでの購入はこちら


5. 『書籍修繕という仕事
刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる

ジェヨン著 牧野美加訳 原書房刊 ¥2,200

傷んだ本を直す「書籍修繕家」の著者によるエッセイ。実際に受けた依頼を振り返るエピソードの数々には、本と人が重ねてきた時間と温もりが感じられるとともに、それぞれに固有の物語を持った「人生」ならぬ「本生」を前にして、思わず居住まいを正したくなるような一冊です。「修繕」とは、元の状態に完璧に戻すというよりも、傷んだ部分を回復させ、本に新たな時間を約束してやること、という著者の言葉が胸に残りました。

>>Amazonでの購入はこちら


6. 『幼年の庭』

オ・ジョンヒ著 清水知佐子訳 CUON 刊 ¥2,420

韓国女性文学の礎ともいえるオ・ジョンヒの作品集。表題作「幼年の庭」では、朝鮮戦争の戦火を逃れて地方に暮らす一家の日々が、未就学児の少女の視点から語られます。五感にまつわる描写が際立っており、濃密に立ち上がってくる臭いや感触、色、声に思わずくらくらするほど。残暑の厳しい朝、川で祖母に身体を洗われる場面をはじめ、少女の目を通して語られる祖母の肉体と、そこに刻まれた生の手触りが長い余韻を残します。

>>Amazonでの購入はこちら

原田いず|Izu Harada 翻訳者
2020年に新韓流文化コンテンツ翻訳コンクール(現・翻訳新人賞)映画部門大賞受賞。韓国文学ZINE「udtt book club」のメンバーとして、未邦訳作品の紹介も行う。訳書にソ・イジェ『0%に向かって』(左右社刊)など。

紹介した商品を購入すると、売上の一部が madameFIGARO.jpに還元されることがあります。

*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

【合わせて読みたい】

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
秋メイク
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.