平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる新連載「テレビドラマ、拾い読み!」。初回となる今回は、高校教師とホストの"禁断の恋"を描く「愛の、がっこう。」を丹念に語ってもらいます。
放送スタート前はピンと来ていなかったのに、放送回が進むに連れてあれよあれよと「愛の、がっこう。」(フジテレビ系)に大ハマり。物語が中盤戦に突入した頃は、リアタイが欠かせなくなっていた。酷暑でつらかった今夏、私の心に咲いた朝顔のような癒しだった。

「愛の、がっこう。」は簡単に説明すると、高校教師とホストの"禁断の恋"を描いた物語だ。実家で暮らす35歳の小川愛実(木村文乃)が恋したのは、義務教育もほぼ受けていないホストのカヲル/鷹森大雅(ラウール/Snow Man)。両親、婚約者、友人と彼女を囲む人間関係は当然のように大反対。それでも想いを貫きたいともがく愛実。カヲルも女性は皆、姫(客)だと思っていたはずなのに、愛実の真摯さに心が揺れる。葛藤と崩壊。この恋は結ばれるのか、昇華していくのか......と毎週、テレビの前でジリジリしていた。
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背徳感のある恋愛はドラマで楽しむべし
楽しんで欲しいポイントは前述の"禁断の恋"。作品を見ていて、このキーワードだけで脳内リンクする平成の名作がある。たとえば高校教師と生徒による「魔女の条件」(1999年)と、「中学聖日記」(ともにTBS系・2018年)だ。すべてを失ってでも愛する気持ちを貫こうとする男女の姿をハラハラしながら見ていた。多分、口はポッカーンと開いていたと思う。
それから不倫ドラマも外せない。主演の松嶋菜々子の清廉さがあっても不貞が正当化されなかった、「スウィートシーズン」(1998年・TBS系)。この世の主婦の夢と希望を上戸彩が背負った「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」(2014年・フジテレビ系)。背徳感が、燃え上がる恋の材料になるのだとドラマで楽しんだ。そう、実生活で不倫をしてもいいことなんてひとつもない。特に男性側が妻帯者だった場合は、女性が煮え湯を飲まされるような形で終焉をするのがほとんどなのだから、ドラマでヒロインに憑依しているのがいちばんだ。

ただ昨今、禁断の恋のドラマを地上波で放送すると、あちこちから揶揄が飛んでくるのは周知の事実。「教育に悪い」「子どもが真似をしたらどうする」といった声が制作サイドに届くと各所で聞くし、SNSにも乱立する。その最中にあえて、高校教師×ホストの恋愛に口火を切った「愛の、がっこう。」は、それだけでもエキサイティング。特に男性の職業が水商売とは、いかにも令和らしいし、念入りな取材がされていると思う。例えばドラマ内に登場するホストクラブ『THE JOKER』の上顧客、宇都宮明菜社長(吉瀬美智子)がホス狂になり、財産を失い、遂には刑事事件に発展するシーンがあった。
「私がいないと生きていけない存在が欲しかった」
現場の声を拾わないと、わからないひと言だ。タブーに踏み込んだ制作陣が"禁断の恋"にどんな結末の下すのだろうか。ちなみに制作陣は「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」と同じだと聞くと胸騒ぎがするが、個人的にはふたりが結ばれてほしいと願う。だって育ちの格差があっても、年齢差があっても、独身同士の恋じゃない。
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ラウールの脚長ぶりに目を見張る
"禁断の恋"に続く、見どころは"ラウール"だった。トップアイドルでありながら、パリコレモデルも務める彼の演技は、容易に想像がつかなかった。ところがドラマが始まると、彼の演技に膝を打つ。まず目を見張るのは1メートルくらいありそうな、あの股下。平成初期からずっと連続ドラマを趣味で鑑賞し続けているけれど、あんなに脚長の俳優をテレビドラマで見たのは初めてだ。長い四肢をコンパスのように使い回し、ホストクラブの派手な衣装を着用する様子は斬新。一見の価値がある。
日本では男性俳優が高身長だと、女優とのバランスが取りづらく敬遠される。ただラウールが作ったカヲルの存在感は、愛実の可愛らしさを抜群に引き出している。特に第6話でふたりが三浦海岸へ行く放送回では、カヲルを見上げる愛実から「帰りたくない」の気持ちが全身からあふれていたように思う。互いに購入した麦わら帽子を交換して、カヲルが片手で愛実の頭にフワッと被せる仕草も良かった。思わず、高身長の男性と恋愛をしたくなる衝動と妄想にかられた。分かっている、私は木村文乃ではない。
当人の人並外れたスタイルを活かしたかと思えば、演技も良かった。肉親にさえ愛されず育ったカヲルの繊細な機微を、ラウールは見事に表現していたからだ。自分の中にある純度の高さをホストの仮面で隠して、愛実の前ではいつもヘラヘラしている。

「(愛実を)好きだよ、帰りたくないよ」
ふたりで入店したパチンコ屋の騒音を使って、愛実に聞こえないように漏らした本音。たったひと言にいろいろな心境が詰まっていた。
お恥ずかしながらラウールの演技はほぼ初見。ベネズエラ人の父と日本人の母を持つ彼のルックスが今後、どんな作品に生きるのだろうか。かつては香取慎吾が「ドク」(1996年・フジテレビ系)でベトナム人役、松本潤が「スマイル」(2009年・TBS系)で父親の国籍が不明のハーフ役を演じていた。いずれも日本人離れをした風貌を利用している。ただ時代は動いた。見た目のハードルは下がり、ハーフビジュアルも全く珍しくはない。次作の演技でラウールが見せてくれる新しい役柄にはどんな世界観が広がっているのか。期待が高まる。
まだまだ作品に関して書きたいけれど、とんでもない文字数になりそうなのでこのあたりで控えておこう。ああ、そうか。でもいまは好きなときにいつでも動画配信で見られるのか。改めて便利な時代になったと思いつつも、テレビの前で放送を待ち構える、私はアナログ昭和2桁生まれである。
コラムニスト、ライター、編集者
平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。