秋のアート旅は六甲山へ!『神戸六甲ミーツ・アート 2025 beyond』とは?

Culture 2025.09.20

神戸・六甲山上を舞台にした現代アートの祭典、『神戸六甲ミーツ・アート 2025 beyond』が今年も開幕している。2010年から毎年開かれ、延べ580組以上のアーティストが参加してきた催しは、回を重ねるごとにスケールを増し、いまや六甲山の秋を代表する風物詩となっている。

250917-rokkomeetsart-01.jpg

白水ロコ《山の精霊たち》2024-25年 六甲ガーデンテラス 神話的な世界観から鳥や昆虫、植物などの生き物と人間の姿が混ざり合った造形を手がける白水。眺望や天候の違いで表情が変化していくのも面白い。

六甲ガーデンテラスやROKKO森の音ミュージアム、六甲高山植物園など、山上に点在する複数のエリアに、国内外から招かれた60組以上のアーティストの作品が展開。また各会場を結ぶ山道のトレイルエリアにも作品を展示し、六甲山の豊かな自然と歴史に寄り添いながら、多彩なアート体験が味わえる。山全体がアートに包まれる芸術祭の見どころとは?


まずは六甲山上へ!
天覧台から兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台)を巡ろう

250917-rokkomeetsart-02.jpg

ナウィン・ラワンチャイクンの作品が展示されている天覧台。六甲山には標高730~880mに展望施設が点在していて、おおむね市街地より気温が5~6℃ほど低い。

六甲ケーブル下駅から六甲ケーブルに乗り、約10分で六甲山上駅に到着すると、すぐに市街地より気温が低いことに気づく。日本有数のリゾート地として開発された六甲山は、都会に隣接した避暑地としても知られ、神戸市内や大阪平野を臨むダイナミックな景観でも人気を集めている。

250917-rokkomeetsart-03.jpg

ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィン・プロダクション《神戸ワーラー》 2025年 天覧台 屋外の看板作品。すぐそばの建物の中に同じモチーフによる絵画作品が展示されている。なお「ワーラー」とはヒンディー語で「~の人」を意味するが、過去や現在といった時間を超え、みんなが笑顔で神戸に集うような姿を見ることができる。

山上駅のすぐそばにある代表的な眺望スポット、天覧台も会場のひとつ。インド系タイ人アーティストのナウィン・ラワンチャイクンが、大型看板作品《神戸ワーラー》を公開。インド系をはじめとする多様なコミュニティに焦点を当て、ルーツや信仰のあり方を問わず、主に神戸市内の北野エリアに暮らす人々を描いている。

250917-rokkomeetsart-04.jpg

石島基輝《風の中のClock systems》2025年 兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台) 作品には13世紀以降の機械式時計に用いられてきた「脱進機(エスケープメント)」と呼ばれる構造が取り入れられている。

山上各施設をつなぐ「六甲山上バス」に乗車すること数分、兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台)で展示を行う石島基輝の3点の鉄製の彫刻にも目を向けたい。時計の構造を解体し、自然と一緒に動く装置として再構築した《風の中のClock systems》は、風が吹くとにわかに動き出し、カンカンと音を立てるもの。六甲山の自然を可視化した作品と言え、あたりに吹く爽やかな風を感じながら、軽やかに響く音に耳を澄ませたい。

---fadeinpager---

トレイルエリアからバンノ山荘、そして新池へ。
山道を歩いて楽しむアート作品

250917-rokkomeetsart-05.jpg

トレイルエリアの作品鑑賞ルート。山道を歩くため、動きやすい服装、スニーカーといった履き慣れた靴がおすすめ。

「神戸六甲ミーツ・アート」の魅力のひとつが、アート作品を巡りながら、六甲山の深い自然を肌で感じられること。記念碑台から六甲山小学校の方向へとしばらく歩くとトレイルエリアが現れる。「ここが芸術祭の会場?」と思ってしまうような山道沿いに作品がいくつか点在している。

250917-rokkomeetsart-06.jpg

林廻《BED》2025年 トレイルエリア 林廻(rinne)は、クリエイティブディレクターの山田直樹を代表に、プロジェクトマネージメントの河野雅也、建築デザインユニットの鈴木良・小山あゆみ、それにアートディレクターの杉森裕介によって2023年に結成された。

そのひとつがアートやデザインを通じて間伐の重要性を伝え、間伐材の新たな価値を探るべく活動する林廻(rinne)による《BED》。鬱蒼とした森の中には、たくさんの枕が積まれたベッドが置かれているが、間伐材や神戸の古い洋家具の破損したパーツが再利用され、自然と人の暮らしのつながりのあり方を問い直している。

250917-rokkomeetsart-07.jpg

小谷元彦《孤島の光(仮設のモニュメント7)》2025年 トレイルエリア 彫刻の⾝体はいくつか破損しているが、それは壊れながらもかたちを保つ山荘の家屋と相関性を持つという。

数世代にわたって家族の避暑の場として使われ、今では廃屋と化したバンノ山荘を舞台とした、小谷元彦の《孤島の光(仮設のモニュメント7)》は芸術祭のハイライトを飾るような作品だ。山荘のオーナーがかつてキリスト教を厚く信仰していたことに着想を得た小谷は、山荘内にある14番まで信仰のレリーフを起点に、次の新たな物語となる15番目の大型彫刻を制作。キリストの埋葬をモチーフにしながら、溢れる水に再生のイメージを重ねた女性の姿を作り上げている。

250917-rokkomeetsart-08.jpg

川俣正《六甲の浮橋とテラス Extend 沈下橋2025》 2023-25年 新池

250917-rokkomeetsart-09.jpg

舞台作品「大姥百合(オオウバユリ)」について語るやなぎみわ。9月27日(土)、28日(日)に行われる公演のチケットについては、芸術祭の公式WEBサイトを参照。

バンノ山荘から、木々に覆われた狭い山道を降ること約15分。トレイルエリアの起点、もしくは終点に位置する新池では、川俣正の《六甲の浮橋とテラス Extend 沈下橋2025》が自然と美しい調和を見せている。これは一昨年に木造のテラスとそれをつなげる橋を作り、今年新たにテラスを取り囲むように沈下橋を築いたもので、パフォーマンスなどの舞台として用いられてきた。

この舞台にて今年は、アーティストのやなぎみわ作・演出による「大姥百合(オオウバユリ)」が上演される。旅僧と山に棲む大姥百合の精との出会いを軸に、踊躍念仏や音楽、舞踊が融合した物語が展開するというが、山の中での幻想的な野外公演を鑑賞するのも「神戸六甲ミーツ・アート」の楽しみ方と言える。

---fadeinpager---

「神戸六甲ミーツ・アート」の拠点となるROKKO 森の音ミュージアム

250917-rokkomeetsart-10.jpg

船井美佐《森を覗く 山の穴》2013-25年 ROKKO 森の音ミュージアム ステンレスミラーを用いた作品で、動植物のフォルムとスリットを通して見える緑、またミラーに映った景色が一体になって世界を構築している。

野外アートゾーンが広がるROKKO 森の音ミュージアムは、「神戸六甲ミーツ・アート」の拠点として位置付けられ、隣接する六甲高山植物園とあわせて多くの作品が展示されている。「自然の中で一度にたくさん作品が見たい!」と思うのなら、先に鑑賞するのもおすすめのエリアだ。

250917-rokkomeetsart-11.jpg

奈良美智《Peace Head》(拡大作)2021年(粘土原型:2020年) ROKKO 森の音ミュージアム 東日本大震災より本作のシリーズを発表している奈良。かつて神戸で起きた震災から30年を過ぎた今年、六甲山に展示された。

ROKKO 森の音ミュージアムでは、SIKI ガーデン~音の散策路にて、奈良美智の《Peace Head》が新たに登場。おぼろげな目をした大きな少女の顔の後ろには、PEACEの文字とマークが点で刻まれている。これは元々手のひらサイズの粘土の作品を、アルミとウレタンを素材に大きく拡大したもので、そこには「傲慢になりがちな人間は、より大きな存在である自然の中の一部である」というメッセージが込められている。

250917-rokkomeetsart-12.jpg

さわひらき《shadow step》2024-25年 ROKKO 森の音ミュージアム 小屋の内部にて映像作品が展示されている。

奈良の作品の近くにある、森の中の小屋を舞台としたさわひらきの《shadow step》も見逃せない。小屋の中にはスクリーンが設置され、一見、何気ない風景が投影されているように思えるが、実は建屋の奥の壁に取り付けたレンズから差し込んだ光が、周囲の景色をピンホールカメラのように上下反転して映し出されている。さらにそこへ反対側からどこかの夢で見たような映像を映し、リアルと幻想が入り混じるような光景を生み出している。

---fadeinpager---

六甲高山植物園と、山小屋カフェで味わうランチ

250917-rokkomeetsart-13.jpg

風の輪《しらす、山に昇る》2025年 六甲高山植物園 中に入って、六甲山を昇るしらすの群れを体感できるという作品。なお本作品は「神戸六甲ミーツ・アート 2025 beyond 公募大賞」にて見事グランプリを受賞した。

民間としては日本最古の植物園と知られる六甲高山植物園では、自然の風景の中に溶けるように佇むアート作品が目立っている。デザイナーやデータサイエンティスト、それに漁業協同組合理事などによって結成された異色のアートグループ・風の輪は、円筒状の作品《しらす、山に昇る》を展示。山に設置したセンサーの気象データによって変化する光とともに、光や風に呼応するしらすのオブジェの輝きを中に入って体感したい。

250917-rokkomeetsart-14.jpg

ヴィンター/ホルベルト《Embodiment of Banality(ありきたりさの現れ)》 2025年 六甲高山植物園

ドイツを拠点に活動するアーティストチーム、ヴィンター/ホルベルトは、ヴォリエーレと呼ばれる大きな鳥籠のような構造体を設置。曲線を帯びたユニークな形をしたパビリオンに入り、ブランコに揺れながら、美しい木漏れ日を浴びることができる。機能を持つ彫刻として、六甲山の環境と共演を実現するようなユニークな作品と言える。

250917-rokkomeetsart-15.jpg

山小屋カフェ エーデルワイスのテラス席より、百日鶏のてりやきのっけごはん(スープ付き) 11月30日までの季節限定メニュー。100日間肥育された播州産の鶏を使用し、ふっくらとした食感も美味。

「神戸六甲ミーツ・アート」を周遊してお腹が空いてきたら...?六甲高山植物園の東入口脇にある、山小屋カフェ エーデルワイスに立ち寄りたい。山小屋風の店内にはテーブル席、外には植物園に面したテラス席があり、特にテラスからは美しい緑を間近に楽しめる。ランチメニューだけでなく、兵庫県産の牛乳を使ったミルクロールケーキなどのスイーツも人気だ。

---fadeinpager---

営業を終了したホテルと離れの建物で見る、刺激に満ちた現代アート

「自然との調和を感じさせる作品も良いけども、より鋭く刺激的な現代アートに触れたい!」という方には、六甲山芸術センターや旧六甲スカイヴィラの展示をおすすめしたい。

250917-rokkomeetsart-16.jpg

イケミチコ《未来人間ホワイトマンー靴をはいて街に出よう》2019-25年 六甲山芸術センター 大阪の商店街の一角にあるアトリエを拠点とするイケミチコは、グループや派に一切属さず、年に数回の個展を開きながら作品を発表してきた。

六甲山芸術センターでは、日本の前衛芸術黎明期から大阪を拠点に活動するイケミチコが、「未来人間ホワイトマン」と題した大胆なインスタレーションを展開している。格差や悲劇から世界の解放を願うというピュアな心を持つホワイトマンが、さまざまな色彩をつけ、まるで部屋や廊下に乗り移ったかのように振る舞う。木工用ボンドで作った抜け殻のオブジェなど、デコラティブな造形や鮮烈な色彩も作品の魅力だ。

250917-rokkomeetsart-17.jpg

岡田裕子《井戸端で、その女たちは》2025年 旧六甲スカイヴィラ 暗がりの会場内に置かれた4つのソファに座りながら、音声を聞いて鑑賞できる。

一方の旧六甲スカイヴィラでは、現代美術家の岡田裕子が、江戸から昭和までのさまざまの時代を生きた、関西にゆかりのある女性の芸術家に着目。かつてのホテルラウンジだった場所にて、声と光のインスタレーションを展示している。そこに登場する日本画家の島成園や画家の白髪富士子らは未だ十分に評価されているとは言い難いが、交わしたかもしれない会話を通して、彼女たちが切り拓いた創作の軌跡を浮かび上がらせている。

---fadeinpager---

安藤忠雄の名建築「光の教会」でも作品を公開!

250917-rokkomeetsart-18.jpg

岩崎貴宏《Floating Lanterns》2025年 光の教会 通常は非公開である安藤忠雄設計「風の教会」を、芸術祭会期中は限定で展示会場として公開している。

日本を代表する建築家の安藤忠雄が設計を手がけた、風の教会を舞台にした岩崎貴宏のインスタレーション《Floating Lanterns》も見ておきたい作品のひとつ。コンクリート打ちっぱなしの教会内部にはたくさんの建築模型が浮かんでいるが、よく見ると一部が崩れているなど、破損した状態にある。これは震災や戦争などの理由で失われた建築の記憶から生み出されたもので、まるでランタンがふわりと漂うように、祈りの空間に静謐な雰囲気を作り出している。

250917-rokkomeetsart-19.jpg

山田愛《永遠なる道》2025年 みよし観音エリア 約1300万年前のサヌカイトと呼ばれる石を用いたインスタレーション。石の上を歩くことも可能で、パリパリと音が響いて心地良い。

この他の主要エリアでは、六甲山の山頂付近に位置する六甲ガーデンテラスにて、白水ロコが青い馬や白い鹿、それにペガサスを模った木彫の作品を公開。神戸大阪のパノラマの絶景を背に、いまにも大空へと羽ばたいていくような姿を見ることができる。また六甲全山縦走路の途中に位置するみよし観音エリアでは、マイケル・リンによる花柄と幾何学模様を組み合わせたパビリオン《Tea House》や、瀬戸内海で産出された石を地表に敷き詰めた山田愛の《永遠なる道》も見どころだ。

---fadeinpager---

ワークショップ「くじびきドローイング」に参加しよう

250917-rokkomeetsart-20.jpg

美術家の乾久子が主宰するワークショップ「くじびきドローイング」 六甲山地域福祉センター 10時~16時(12時〜13時は休憩)の間、誰もが無料で参加できる。予約も不要。

会期中毎日、六甲山地域福祉センターにて行われるワークショップ「くじびきドローイング」にも参加したい。これはくじを引いて、そこに書かれていた言葉をお題に絵を描き、会場に展示した後、さらにタイトルを書いたくじを作成して次の参加者へとつなげるというもの。くじに書かれた言葉から絵のイメージを自由に膨らませながら、上手い下手は関係なく、大人も子どもも素直に楽しめる。

250917-rokkomeetsart-21.jpg

遠山之寛《(semi)sphere》2025年 六甲高山植物園 石灰石由来の紙HAQURを使い、折り紙構造を用いて平面の折りたたまれた状態から球体を作り出している。

元々民間の観光事業をプラットホームにスタートしたこともあり、親しみやすい現代アート作品が多い「神戸六甲ミーツ・アート」。総合ディレクターを務める高見澤清隆は、「六甲山観光で訪れた先に思いがけず作品があり、それをきっかけにアートと出会うファーストコンタクトの役割を果たしている」と話している。都会に隣接しながら日常を忘れさせてくれるほど豊かな自然の広がる六甲山にて、多様な表現を見せる現代アートから、心に響くお気に入りの作品を探してほしい。

『神戸六甲ミーツ・アート 2025 beyond』
期間:開催中~2025年11月30日(日)
会場:ミュージアムエリア(ROKKO 森の音ミュージアム・六甲高山植物園・新池)、六甲ケーブル(六甲ケーブル下駅・六甲山上駅)、天覧台、兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台)、六甲山サイレ ンスリゾート(旧六甲山ホテル)、トレイルエリア、みよし観音エリア、六甲ガーデンテラスエリア、風の教会エリア
https://www.rokkomeetsart.jp

text: Harold

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
秋snap
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.