6人のクリエイターが語る、心を奪われたアートブック。
Culture 2025.10.13
美しく仕立てられた装丁に心ときめき、ページをめくれば想像力が掻き立てられる。豊かな発想力で構成された本が、私たちに新たな気づきをもたらしてくれる。6人のクリエイターから、アートブックとの付き合い方を探って。
幾左田千佳(デザイナー)
多角的に読み解きたい、動きと衣服の関係性。
『Rebecca Horn: Musée de Grenoble,』
Collectif

●Guggenheim Museum 刊
「レベッカ・ホーンの映像作品を見た時、存在感と世界観に圧倒されました。静と動の共存、内面への深求が美しい写真が収められ、ページをめくるたびに空気が変わる感覚。身体を通じて感情や記憶を可視化するという彼女のテーマにも共鳴しています。特に、身体が語ることに焦点を当てている姿勢は私のデザインの核にある意識のひとつ。コレクションにも影響を受けています」
『Dance & Fashion』
Valerie Steele

●Yale University Press 刊
「バレエとファッションの関係性について取材を受けた本です。ダンスの身体性がどのように私のクリエイションに結びついているか丁寧に掘り下げられています。歩んできた道が偉大なダンサーやデザイナーと並んで紹介されていることに身が引き締まる思いがしました。写真の構成や装丁の美しさが際立ち、ダンスとファッションの関係性が多角的に描かれている点が魅力」
『Bauhaus Ballet』
Gabby Dawnay & Lesley Barnes

●Laurence King Publishing 刊
「バウハウスの作品を調べていた時にミュージアムショップで見つけ、造形的な美しさと物語性のあるアプローチに惹かれた一冊。ページが舞台セットのように構成され、アートブックでありながら立体オブジェのような存在感。シンプルな線や形が踊るように自由に動いていく様子も心掴まれます。視覚的な造形美と身体感覚との調和に対する意識がより明確になりました」
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イトウナツミ(フォトグラファー)
ミニマルな装丁デザインと、写真のリズムに惹かれて。
『100 Chairs in 100 Days and Its 100 Ways』
Martino Gamper

●Dent-De-Leone 刊
「ユニークなコンセプトと、それに伴うデザインや紙のチョイスも好み。印刷の配色もおもしろいと思います。キャッチーなので記憶に残るし、無意識にインスピレーションになっているかも。初版で出ていた小さなサイズの本も、軽快さがちょうど良くて好きでした」。イタリア人デザイナー、マティーノ・ガンパーが1日に1脚、100日で100脚の椅子を作るプロジェクトをまとめた作品集。
『Pierrot - Tropisms: South Sea Journal』
Pierrot

●Parallel Editions 刊
「SNSで偶然知った写真家。作品を見ていて、本人のオンラインサイトから直接購入した本です。彼の本はほかにも持っているのですが、なかでもこの本は、装丁デザインから写真の内容まで私好みで気に入っています。特に、自然の美しさを感じられるところが好きですね」。絶え間なく変化する自然の要素が織りなす繊細なうねりを探求した、写真家のピエロによる美しい一冊。
『Venice Unlocked』
Giacomo Cosua、Rachel Spence

●Ivorypress 刊
「金沢の書店IACKを主宰する写真家の河野幸人さんは素敵な写真を撮っているのですが、彼が選んだ本ということで購入しました。装丁と写真のリズムやムードが素敵。小さな本の中に作品の良さが凝縮されているという感じで、ポケットサイズな点も魅力。写真とテキストのバランス感からもインスピレーションをもらっています」。ヴェネツィアの街を新たな視点で見つめ直し、文章と写真で構成。
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KAORU(フードクリエイター)
創作に気づきをもたらす、ユニークで巧みなビジュアル。
『Cookie Count: A Tasty Pop-Up』
Robert Sabuda

●Little Simon 刊
「絵本が大好きなのですが、特にポップアップ絵本に心惹かれます。この本は、ページをめくるたびに童心に戻るようなワクワクする感覚になります。いつか絵本を作りたいと思っているので、インスピレーションをもらっています」。さまざまな受賞歴を持つアーティスト、ロバート・サブダの本。繊細なペーパーエンジニアリングと遊び心あふれるアートによって、クッキーの作り方を紹介する。
『Office Romance』
Kathy Ryan

●Aperture 刊
「たまたま本屋で手に取った写真集なのですが、いまでも時々眺めています。毎回、クリエイションのヒントになるような何かしらの気づきをもらえるので気に入っています」。「ニューヨーク・タイムズ」の写真部ディレクターを務めるキャシー・ライアンが、レンゾ・ピアノの設計による自身のオフィスビルを舞台に撮影。美しい建築や同僚たち、働く環境のディテールを彼女の視点で巧みに切り取る。
『Kibbitz & Nosh: When We All Met at Dubrow's Cafeteria』
Marcia Bricker Halperin

●Three Hills 刊
「1970年代に、あるニューヨークのカフェレストランでお客さんを撮影し続けた写真家の写真集兼エッセイ。リアルなのに映画のワンシーンのようで、ユニークな写真が好きです」。写真家マーシャ・ブリッカー・ハルペリンが、ニューヨークの伝説的なカフェをモノクロ写真で鋭く温かく捉えた一冊。ピュリツァー賞受賞劇作家ドナルド・マーグリーズと、デボラ・ダッシュ・ムーアのエッセイも収録。
「Dress the Food」を主宰し、雑誌や広告、CMなど幅広く活躍。フードアート料理雑誌「shichimi maga zine」も出版。@dressthefoodkaoru
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飯田珠緒(スタイリスト)
あらゆるテーマで捉えた、愛すべき猫たちの本。
『Neco』
Yuich Hibi

●Nazraeli Pr刊
「移転前の森岡書店で撮影した時に見つけて可愛いイラストだと思った記憶があったのですが、その後、猫好き仲間のフォトグラファー岡本充男さんから薦められ、インターネットで購入しました。中ページはわりと無骨なモノクロ写真や文字の構成です。この表紙の線画の猫が好きで、表紙が見えるように本棚のいちばん前に飾ってあります」。ニューヨーク在住の写真家による猫のモノグラフ。
『Cat People』
Bill Hayward

●Doubleday 刊
「ロンドンのIDEA Booksのインスタグラムで知った気がします。猫関係の素敵な本はつい買ってしまうので、どこかの海外サイトから高い輸送代を払って入手したはず。とにかく写真が可愛くてコンセプトがいい。いいなと思った本は忘れた頃にふと何かのヒントになったりするので、躊躇せず購入しているかもしれません」。猫とその飼い主たちの写真や猫を愛する人々が綴る物語で紡ぐ一冊。
『Pet Sounds』
Alberto Vieceli

●Everyedition刊
「台湾へ撮影で行った際、打ち上げで訪れたカフェバー兼書店のWeight booksで見つけて購入。音楽好きなので、動物が登場するアルバムジャケットだけを集めているというコンセプトに惹かれました。猫のページがあったり、へんてこりんな動物が登場したり、鳥が見開きで組んであったり、構成も上手でなかなかおもしろい作りです」。人と動物が写ったレコードジャケットを320点収録。
90年代、雑誌「オリーブ」でスタイリストとして活動スタート。モード誌を中心に雑誌やカタログ、広告など、幅広く活躍。音楽と猫を愛する。@tamaoiida
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Local Artist(フォトグラファー)
視野を広げてくれる、多様な写真の在り方。
『Portraits by Waiters』
Sveinn Fannar Jóhannsson

●Multinational Enterprises 刊
「金沢の書店IACKのセレクトで知って購入。タイトル通りのセルフポートレート集ですが、彼の風貌からなのか、撮影場所をレストランに限定しているからなのか、どこか気持ちいい空気感。売れないバンドの変な曲だけど、自分だけはめちゃくちゃ好きみたいな、そんな気持ちにさせられます」。スヴェイン・ファナー・ヨハンソンがドイツ滞在中、ウェイターに頼んで撮影した一冊。
『Atlas』
Gerhard Richter

●Buchhandlung Walther König刊
「ゲルハルト・リヒターが絵を描くためのネタ帳のようなもので、本人が撮影した写真がたくさん収録されています。いまでこそリサーチブックブームですが、当時は、良い写真であるにもかかわらず絵を描くためだけに存在していること、写真が何かのために機能していることに衝撃を受けました。用の美と言える写真が好きなのは、この本との出合いがあったからだと思います」
『Photos from Japan and My Archive』
Paulien Oltheten

●nai010 publishers 刊
「いわゆるストレートフォトのようで、演出的でもある写真。それは、(著者の執着する)日常の中にある線、折り目、しわ、空間の隙間や痕跡などの視覚的要素を浮かび上がらせる効果を発揮していて、ファッション撮影の手法とも親和性があると感じました。自分の撮る写真も完全なドキュメンタリーではないので、身近な良例としてインスピレーションを受けているかもしれません」
ファッションフォトグラファーとし て幅広く活動する傍ら、Esmeralda Serviced Departm ent のディレクションを務める。@liveinsuburbia
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若井ちえみ(フローリスト)
見慣れた花や植物に、異なる視点を添えて。
『Anthropophyta 人工植物門』
本多沙映

●Torch Press刊
「ただの葉の植物図鑑かと思いきや、実は造花の植物図鑑写真集。『人工植物が植物学上で正式に植物と認められた』という作者が勝手に作った物語から始まるセミフィクション。チープな造花を一枚一枚本当の葉のように撮った写真に文章を添えていて、その着眼点がユニークでかっこいい。花の仕事において少しのユーモアや不思議さを大切にしていますが、凝り固まった頭を解してくれる本です」
『Flowers』
Dane Lovett

●Perimeter Editions & Station 刊
「いつも花や植物に関するおもしろい本を探しているのですが、これは気まぐれに海外書店でオンライン購入した本。昔の花や植物の絵画を暗い単色のバリエーションで再構成したもので、色彩の美しさだけでなく、記憶の中の片隅にある思い出を引っ張られるような不思議な気持ちになります。静かに美しいものを堪能したい時に、この本を開くことが多いです」
『Essence of Nature』
Herma de Wit

●Joost Widdershoven, Booxs 刊
「数年前、恵比寿の書店POSTで見つけたこの本は、旅先で集めてきたさまざまな植物が実験的な方法で印刷されています。製本も含めて美しいデザインの本なのですが、日々目にしている植物が少し違った視点で見えてくるようにも感じます。仕事において、何か視点を変えたい時に手に取ります」。唯一無二のモノタイプによって、自然物に宿る儚さと力強さを描き出す。
2015年に独立し、フラワーショップ「duft」をスタート。現在は梅ヶ丘に店を構える。撮影やブランドの展示会でも活躍。@duft__jp
パリ、ソウル、東京の書店が選ぶ
いま手に取りたいアートブックの世界。
*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
photography: Kazumasa Takeuchi (Ye), Mari Shimmura, Satoshi Yamaguchi editing: Momoko Suzuki








