パリ、ソウル、東京。3都市の書店が厳選した、いま読みたいアートブック。

Culture 2025.10.10

美しく仕立てられた装丁に心ときめき、ページをめくれば想像力が掻き立てられる。豊かな発想力で構成された本が、私たちに新たな気づきをもたらしてくれる。世界の書店から、アートブックとの付き合い方を探って。

【from パリ】Yvon Lambert

伝統と革新を融合しながら、自由な発想で進化中。

1966年からギャラリーを運営していたイヴォン・ランベールはアートブック界を牽引する存在。「パリではいまも老舗の出版社や印刷所が息づく一方で、独立系レーベルやスタジオが新たな出版の形を模索している。若い世代の創造性は目覚ましく、多くのアーティストが自ら本作りに取り組んでいます」。伝統と革新を融合させながら、自由な発想で進化し続けているアートブック。芸術の都から生まれる、創造のエネルギーに満ちた一冊に出合いたい。

『Nuage Lepage, The Sea A round Us』
Marie Deteneuille

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●自費出版 30ユーロ

フランス語で"雲"を意味する名を持つパリジェンヌ。まるで雲のように軽やかに旅する彼女の姿を写真家が追いかける。互いに見知らぬふたりが、ノルマンディで24時間を過ごす中で関係性を築いていく物語。旅とは訪れる場所のことなのか、出会った人たちの記憶や私たちの眼差しが捉えるイメージなのか。「Study Magazine」編集長のクリストファー・ニケが文を綴る。


『Mabuhay!』
Quentin de Briey

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● Yvon Lambert 刊 25ユーロ

ベルギー出身、ニューヨークを経てパリを拠点にするクエンティン・ドゥ・ブリエ。元プロスケーターの彼は怪我を機に写真家へ転向し、ファッションフォトグラファーとして活躍。本書はクエンティンが監修し、イヴォン・ランベールと共同出版。彼の恋人でモデルのクロエ・マグノの故郷フィリピンへの旅の中で撮影された、センシュアルでパーソナルなタッチが魅力。


『Hotel Drawings』
Nigel Peake

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●Yvon Lambert 刊 30ユーロ

北アイルランドを拠点に活動するアーティストのナイジェル・ピーク。本書は、2022年に2ヵ月かけて日本中を旅する中で、銀座の伊東屋で購入した紙にホテルの部屋から見える景色を描いたもの。ポスターとしても楽しむことができるドローイングページの間に、テキストが折り込まれている。親しみある日本の風景が、鮮やかな線画によって瑞々しく浮かび上がる。


『Distances Vol. III』
Romain Laprade

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●Yvon La mbert 刊 35ユーロ

数多くのファッション撮影を手がけるフランス人フォトグラファー、ロマン・ラプラード。6年前からイヴォン・ランベールで書籍を4冊刊行し、展覧会も開催。本書は、世界各地で撮影した写真を収め、自らデザインも担当するシリーズの第3弾。海岸線や砂漠、都市の一角にある美しい線や面を捉え、温もりあるトーンと繊細な構図で詩的なイメージに昇華する。


『Coques』
Philippe Weisbecker

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●888Books 刊 19ユーロ

昨年、フィリップ・ワイズベッカーが東京とマルセイユの展覧会に合わせて出版。ノルマンディにあるアトリエで描き出したのは、時の流れによって埋もれてしまった船体。それぞれの船が持つ微細な違いを見いだしたドローイングには、ひとつの対象を徹底的に描き尽くす一貫した作風が表れている。同時に制作された船の段ボール模型もイヴォン・ランベールで販売中。

イヴォン・ランベール
Yvon Lambert
14, rue des Filles du Calvaire 75003 Paris
+33-(0)1-45-66-55-84
営)10:00~19:00(火~土)、14:00~19:00(日) 
休)月 
https://www.yvon-lambert.com/

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【from ソウル】The Phrase

思考のカタチを表現する媒体として再定義。

アートディレクターのデュオが立ち上げた書店は、感度の高い人たちが集まるアートの発信地。「ソウルでもクリエイター自らレーベルを立ち上げる動きが増加中。注目すべきは、彼らがすべての制作過程に関わって、その世界観をより明確に表現しようとしていること。本を単なるモノとしてではなく、思考のカタチとして捉える傾向が強まっています」。あらゆる分野でトレンドを生み出す韓国のアートブックの可能性を再定義しようとする動きに注目だ。

『A Meaningful Order』
OK-RM(Oliver Knight & Rory McGrath)

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●In Other Words 刊 109,000ウォン

イギリスを拠点とするグラフィックデザイナーのオリバー・ナイトとロリー・マクグラスによるスタジオ「OK-RM」が、自らの過去の仕事を振り返るために自身のインディペンデントレーベルを通して出版した作品集。単なるポートフォリオとしてではなく、デザイン哲学や姿勢が詩的な構造で提示されている。本という媒体を通して、彼らの視覚言語と思考方法がどのように構築、拡張されているかを包括的に示している一冊。


『The Elements』
Choi Yongjoon

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●The Phrase 刊 72,000ウォン

ソウルを拠点に活動する写真家のチェ・ヨンジュンが、都市の構造を建築的なエレメントに分解して視覚化するプロジェクトで、ザ・フレーズによる自社出版の第2弾。東アジアやヨーロッパの都市で繰り返し目にする風景を新たな視点で切り取り、普遍的テクスチャーや形を収集・整理し、私たちが普段見過ごしている現代都市における共通項を明らかにする。個人的な記録のようでありながら、集合的な感覚へと広がっていく一冊。


『Falling for Beauty』
Josef Hoffmann

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●Hannibal Publishers 刊 128,000ウォン

オーストリア応用美術博物館で開催された大規模展の企画内容をもとに刊行された、ヨーゼフ・ホフマンの回顧録。建築、家具、テキスタイル、日用品を通してそのヴィジョンを辿り、20世紀のデザイン変遷期における彼の仕事を丁寧に位置づける。時代の流れや文化的背景にも焦点を当てながら、彼が追い続けた美という概念について多角的に掘り下げていく。学術的でありながら、視覚的にも没入感のある一冊。

ザ・フレーズ
The Phrase
서울시종로구 필운대로 46-1
+82-(0)501-945-1728
営)13:00~19:00(水~金)、12:00~18:00(土、日)
休)月、火
@thephrase_official

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【from 東京】Book and Sons

優れた印刷と製本で生み出されたアートピース。

併設ギャラリーで主に日本人写真家の展示を開催する書店は、日本のアートブックを多く取り揃える。「紙質、インク、装丁、レイアウトなど、細部までこだわり尽くした完成度の高さが魅力。写真の並び順や余白の取り方、キャプションの配置など、物語性やリズムを重視した構成で作られた本はまるで手に取れるギャラリーです」。世界でもトップクラスの印刷や製本技術で、ひとつひとつ丁寧に作り上げられたアートピースのような書物を手に取って。

『雨の中』
山本勇夢

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●自費出版 ¥6,000

熊本で活躍する写真家の山本勇夢が、故郷の何気ない風景や日常の断片を深い眼差しで捉え続けた初めての写真集。見慣れたはずの風景を独自の視点で切り取り、紙質や印刷、製本に至るまで徹底的にこだわり抜いて制作された本は詩的で静謐な美しさ。ページをめくるたびに、土の匂いや湿った空気が感じられ、虫の声や雨音が聴こえてくる気がする。個人的なテーマでありながら、どこか懐かしい普遍的な感覚が呼び起こされる。


『torikumo』
藤田はるか

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●Hehe刊 ¥6,050

日本の襖絵や屏風といった伝統的な美しさを写真で表現する、藤田はるかの挑戦的な試み。移ろいゆくものや生命の儚さをテーマにしている。金箔と銀箔貼りの襖の写真をプリントした印画紙の上に、古いフィルムで撮影した自然や動物の写真を重ねることで花鳥風月を表現。多層的なプリント技法によって絵画のような奥行きと時間の移ろいを描き出す。絵巻物風に広がる蛇腹製本は作品世界への没入感を高め、アートピースのような写真集に昇華。


『DECAYING WITH THE SPEED OF SPRING』
James Perolls

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●自費出版 ¥8,800

ロンドンを拠点にファッション撮影で活躍しているジェイムス・ペロルスによる、写真家としての新たなマイルストーンとなる作品集。独特な色使いと映画のような構成で、イノセントなムードが漂う。謎めいた女性の物語を通し、自己受容、成長、そして束縛からの解放という普遍的なテーマを探求。写真が女性の外的世界を描き、イラストが内的思考を表現する。感情に訴えかける物語性と美しい視覚表現のハーモニーによって、心に余韻を残す一冊。

ブック アンド サンズ
Book and Sons
東京都目黒区鷹番2-13-3 キャトル鷹番
03-6451-0845
営)12:00~19:00
休)水
https://bookandsons.com/
@bookandsons

6人のクリエイターの心に響いたベストブック

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Click

●1ユーロ=約173円、100ウォン=約10円(2025年9月現在)

*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

photography: Kazumasa Takeuchi (Ye), Mari Shimmura, Satoshi Yamaguchi editing: Momoko Suzuki

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