もう血飛沫は勘弁!? 松本潤、芳根京子の白衣姿が映す「令和のリアルな医療ドラマ」。

Culture 2025.10.16

小林久乃

平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる連載「テレビドラマ、拾い読み!」。今回は「医療ドラマ」について。平成から令和にかけ、描かれるシーンに変化が? 今年大ヒットした「19番目のカルテ」や「まどか26歳、研修医やってます!」を振り返りながら考えます。


松本潤主演「19番目のカルテ」(TBS系)の録画を観ながら、徳重先生(松本)の優しげボイスの診察にぼんやりと酔っていた。ふと。この作品"医療ドラマ"のカテゴライズでありながら、派手な手術シーンがあまり記憶にない。そういえば、あの作品も......? と思い出すドラマの映像も。今回は過去作品と共に振り返りつつ、医療ドラマ界に訪れている変革期について書いていこう。きっとあなたの脳裏にも浮かぶ作品があるはず。さあ、(最近動きが鈍いけど)海馬よ、動いてくれ!

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©TBSスパークル/TBS ©富士屋カツヒト/コアミックス

「絶対患者を救う」医師がメインの平成

医療ドラマと言われて思い出すのは、どんな作品だろう。

私の脳裏には数々の平成ドラマが主題歌と共に、走馬灯のように流れてくる。まずは「振り返れば奴がいる」(1993年)の司馬江太郎(織田裕二)と石川玄(石黒賢)。金のためならなんでもやる医師VS正義を貫く医師のせめぎ合いや、ラストの手術シーンが最高だった。

その後1999年からシリーズ放送がスタートした「救命病棟24時」は、江口洋介が大活躍。救命救急とは緊急事態の患者が運び込まれる、命を繋ぐ過酷な現場。ゴッドハンドの進藤一生先生(江口)は、どんな患者も次々に救う。医療界における利他の精神の持ち主とは、まさに彼。第5シリーズまで続きながらも、途中、救命救急ドラマのバトンは「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」(2008年〜)の、藍沢耕作先生(山下智久)に引き継がれる。進藤先生のマインドまでも継いだのか常時「SO COOL!」な態度と表情。そしてどんな現場でも冷静沈着に、患者を救っていた。

紹介した3作は全てフジテレビ制作。他にも「ナースのお仕事」(1996年)など数多の医療ドラマが制作されていた平成期。「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日系・2012年〜)、「JIN -仁-」(TBS系・2009年)など、人気のあった作品を数え始めると枚挙にいとまがない。

病気、怪我の際にはどんな患者も見えないゴール=完治を考えて、心を病む。けして日常の風景にはいないであろう、ゴッドハンドに頼りたくなる気持ちをドラマが叶えていた。

このざっくりとした人気医療ドラマを見て、思い浮かぶのはリアルな臓器の映像、やけに痛がる患者、そして血飛沫の飛ぶ派手な治療(手術)シーン。特に「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」の大門未知子(米倉涼子)先生は、放送ラストで眼球をかっ開いて、メスを握るシーンが売りだった。救命救急がテーマの作品は「毎週、そんなに事故が起きる......?」と、思うほど現場には血が流れ、患者は救われていた。

私も過労で倒れて病院に運ばれた時は、ふらつきながら(進藤先生はどこに......)と見えない背中を探した。私が医者なら「大人しくしていろ!」と突っ込みたい。

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もう血飛沫は勘弁? の令和医療ドラマ

時は過ぎて令和7年。医療ドラマに少しずつ、変化が起きている。たとえば芳根京子主演『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS系)。このドラマは主人公の研修医・若月まどか(芳根)たちが、総合病院のさまざまな科で研修を重ねていく様子が主題。消化器外科、救命救急センター、消化器内科、精神科、乳腺外科、泌尿器科......と、ほぼ毎週違う科が登場する。件の平成医療ドラマ群と比べると圧倒的に違うのは、"主人公がひとつの科にとどまっていない"。まさかドラマで泌尿器科医にお目にかかれるとは、予想していなかった。

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©TBSスパークル/TBS ©水谷緑/KADOKAWA刊

手術シーンもあったけれどグロデスクな臓器、血液は記憶に薄い。それよりも手術見学中のまどかが先輩に促され、名曲『あずさ2号』を歌唱するシーンのほうが印象深い。どこまでも朗らかな雰囲気が続く......それがこの作品の最大の魅力であり、医療ドラマの夜明けを見た。「ドジっ子研修医の奮闘記でしょー?」と、なんとなく疑念を持って見始めたくせに、最終回に号泣していたのは私だ。 

そして最近、最終回を迎えた「19番目のカルテ」(TBS系)。総合診療科の徳重医師が、ひとりひとりの患者やその家族と向き合い、どんな病気でどの科にかかればいいのかをエスコートしてくれるのが、主題。これは現代医療における問題だと思う。

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©TBSスパークル/TBS ©富士屋カツヒト/コアミックス

めまいがすれば耳鼻科、胃が痛いなら内科、皮膚が痒いなら皮膚科、腰が痛いなら外科。それぞれの症状に合わせて、個人医院をめぐっている私たち。病状を点と点でつなげば、大きな病原が見つかるかもしれないのに、全てを自分で判断するしかない。日本医療の問題だと思う。ドラマを見ながら(徳重先生はどこに......?)と何度思ったか。

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©TBSスパークル/TBS ©富士屋カツヒト/コアミックス

偶然かもしれないけれど、同局で放送された医療ドラマにおけるひとつの転換。患者を救う医師が主人公になるのは間違いないが、あり得ないシーンの連発よりも、リアリティーを感じられる医療ドラマが視聴者から求められるのかもしれない。この先に放送されていく医療ドラマは、どんなふうに視聴者=患者を救っていくのだろうか。

「まどか26歳、研修医やってます!」
©TBSスパークル/TBS ©水谷緑/KADOKAWA刊
https://video.unext.jp/title/SID0168464

「19番目のカルテ」
©TBSスパークル/TBS ©富士屋カツヒト/コアミックス
https://video.unext.jp/title/SID0212188

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コラムニスト、ライター、編集者
平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。

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