平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる連載「テレビドラマ、拾い読み!」。今回はNetflixで独占配信が始まったロマンティックコメディ「匿名の恋人たち」の、小栗旬と赤西仁に大注目。平成のドラマを彩った男たちが、令和の画面にカムバック!?
こんな大層なコラムを書かせてもらいながらも、私はただのドラマオタクだ。平成に放送された地上波ドラマは、ほぼ観てきた。そんな人間でさえも最近のドラマは、ストーリーの解釈に時として、時間がかかる。張り巡らされた伏線、公式ホームページを見ないと「あれ、なんだっけ?」となる煩雑な人物相関図。巻き戻し、早送りは必須だ。それらがもちろん醍醐味でもあるけれど、たまには何も考えずに物語に身を任せたい。

そんな期待に応えてくれたのが、Netflixで配信中の『匿名の恋人たち』だ。配信前から「何だかすごいの(作品)が来たかもしれない」と思っていたけれど、本当にすごかった。では一体、どこがおもしろかったのか? を、読者の皆さまと情報共有をしたい。配信前に全8話を興奮気味に見てしまったので、若干のネタバレをご了承ください。
こんな小栗旬が見たかった!
まずは『匿名の恋人たち』のあらすじを紹介しよう。
主人公の製菓メーカー御曹司・藤原壮亮(小栗旬)は深刻な潔癖症で、コロナ禍をむしろ慈しむほど、他人に触れられない。そんな壮亮が経営するショップの従業員として出会ったのが、ショコラティエのイ・ハナ(ハン・ヒョジュ)。ハナは視線恐怖症を患っており、母親以外と目を合わせられない。コンプレックスを抱えたふたり、でも壮亮とハナであれば、視線を交わして触っても影響のない奇跡が起こる。ふたりでショコラに関する事業を追いかけるうち、互いの印象にも次第も変わっていく......。
読みながら「あ、え? ひょっとして?」と勘のいい人なら気づくと思うが、とてもわかりすいロマンティックコメディだ。ふたりを囲む人物として、壮亮の親友であり、ジャズバーのオーナー・高田寛(赤西仁)やカウンセラーのアイリーン(中村ゆり)も登場するが、そのふたりも「あ、そうだよね?」とニヤニヤしたくなる。

そのカギを握っているのが、小栗旬だった。彼といえば『花より男子』(TBS系・2005年)の花沢類役、『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系・2012年)の日向徹役など、平成ドラマの王道であるラブコメで数々の女性を救ってきた。人手不足や物価高など年々、眉をひそめるような話題が増えていく中、演技で彼が見せてくれるスイートな優しさは、大袈裟ではなく週に一回のご褒美だったのだ。本作では久々に当時の小栗旬が堪能できる。
私がチェックしたのは、壮亮の実直さと天然ぶり。御曹司ゆえに純粋に育ったせいか、仕事で夢中になると、周囲の迷惑を顧みなくなってしまう壮亮。片思いをしていた寛に会いに行こうとしていたハナを無理矢理、商談に連れ出すシーンは可愛いらしかった。
「僕の目だけ見ていればいい」
寛とアイリーンの抱き合う様子を見せまいと、ハナの目を手でふさぎ、ストレートな言葉で制御する壮亮。「私はハナさんに関心があります」と、不器用な表現で次第にハナに惹かれていく様子も......もう、もう。『リッチマン、プアウーマン』の出演から13年。小栗は日本のトップ俳優となり、所属事務所の代表取締役と、私たちの青春の彼は雲の上の人となった。好きな人の一挙手一投足に翻弄される小栗の演技にはもう会えないと思っていたのに、壮亮が叶えてくれた。
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熟成されたカッコ良さが光る赤西仁
出演者でもうひとり、平成ドラマの最前線にいた王子といえば赤西仁。トップアイドルだったのは周知の事実だが、ここ数年、国内の作品で見かけなかった。ただ本作での寛役はそんなブランクを微塵も感じさせない、ナチュラルな演技が随所に光る。(この感覚はなんだろう?)と、海馬を動かすと、彼の(個人的なイチ押しとして)出演作『anego[アネゴ]』(日本テレビ系・2005年)が記憶に浮かんできた。10歳年上の会社の先輩と恋愛関係に落ちる黒沢明彦役。社会人一年生、スカした態度をしながらも、どことなく熱い黒沢がよく似合っていた。

黒沢役からもう20年も経過しているのに、本作で見せた赤西の風貌は全く衰えていなかった。現代用語でいうところの「ビジュがいい」か。いや、衰えるどころか年月を経て、さらにカッコ良さが増している41歳。何がどうなってる、赤西。
「僕のこと好きですか」
「そんなに......嫌いですか」
壮亮と同じく直球に言葉を投げてくる寛に、見ながら「ヤバい!」が止まらなくなってしまった。

ハン・ヒョジュのプリミティブさ、中村ゆりの安定した美しさ、色鮮やかなショコラも良かったけれど、やはり見どころは小栗旬と赤西仁。平成ドラマのラブストーリーに、一喜一憂した当時の気持ちが蘇ってくる中年讃歌とも言えるのが『匿名の恋人たち』。そのプルーフなのだろうか。私も見ながら「ビジュ」だの「ヤバい」だの、普段使わない言葉が続々と浮かんできて、つい20代の自分に戻っていた。さてもう一回、観るとするか。
コラムニスト、ライター、編集者
平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。