フランスで話題の『空、はてしない青』ほか、2025年のうちに読みたい6冊。

Culture 2025.11.01

作家メリッサ・ダ・コスタは、2019年『空、はてしない青』でデビュー。フランスで160万部を突破し、2023、2024年フランスで最も売れた作家となった。この作品をはじめ、今月おすすめの6冊をご紹介。


01.『空、はてしない青』

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メリッサ・ダ・コスタ著 山本知子訳 講談社 上下巻 各¥2,310

人は何度でも生まれ変われる。
魂の救済を紡いだ旅路の物語。

文:久保寺潤子 フリーエディター・ライター

私たちは人生で一体何人の人と出会い、別れを繰り返すのだろう。家族や友人、恋人、仕事仲間......人間は出会った人によって構成されるといえるのではないだろうか。「世界ではいつだって、誰かが誰かを待っている」――この小説で引用されるパウロ・コエーリョ『アルケミスト』の一節は、800ページに及ぶ物語に通奏低音のごとく響き合う。

若年性アルツハイマーで余命2年と宣告された26歳の青年エミルが人生最後の旅のパートナーに選んだのは、ネットの掲示板で知り合った女性、ジョアンヌだった。ふたりはキャンピングカーでピレネー山脈を目指しながら、行く先々で息を呑むような荘厳な自然に遭遇し、互いの傷を癒やしながら魂を交信させていく。都会育ちのエミルはジョアンヌと旅することで人間として大きく成長するが、やがて記憶喪失に陥り別の世界へと彷徨い始める。ジョアンヌはそんなエミルのありのままを受け入れることで自らのトラウマを解放し、やがてふたりは互いになくてはならない存在になっていく。

迫り来る死を前に"いまこの時"を生きるふたりを優しく包むのは、"フランスの最も美しい村"や南仏の切り立った山肌、羊飼いがひっそり時を刻む丘、そしてどこまでも深く青い空に瞬く無数の星だ。フランス人はヴァカンスのために日々働き、夏になると一斉に民族大移動を始めるが、この小説には彼らのライフスタイルを反映するかのように、自然への憧憬が描かれている。

物語は尊厳死、家族の絆、友情、恋愛、マインドフルネスといったテーマを、ふたりの過去を紐解きながらロードムービーさながらに鮮やかな筆致で紡ぎ出していく。人はひとりで生まれ、ひとりで死ぬが、ひとりでは光の中を生きることができない。そして愛おしい人とともに人生という旅路を歩む中で、人間は何度でも生まれ変わることができるのだ。フランスでミリオンセラーになったメリッサ・ダ・コスタの処女作は、大切な人と分かち合いたい物語である。

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久保寺潤子|Junko Kubodera
フリーエディター・ライター
大学卒業後、出版社に勤務。女性誌などで編集者を10年ほど経験し、渡仏。国内外の旅やライフスタイルに関する記事を多く手がける。「どんなテーマにも個人の物語がある」を信条に、取材・執筆を行う。

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02.『激しく煌めく短い命』

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綿矢りさ著 文藝春秋刊 ¥2,585

女性同士の20年に及ぶ恋を描いた著者渾身の大長編。

久乃は中学校の入学式で出会った同級生の綸に一目で惹かれる。それは単なる友情ではなかった。優等生の久乃と天真爛漫な綸。平成の京都を舞台にした前半は当時の空気感も読みどころ。女性同士の20年に及ぶ恋の行方を描いた本作は600ページを超える大長編。時を超え、東京で再会したふたり。あの頃の息苦しさの中に確かにあったはずの輝き。時代が移ろってもなお失われない絆。大河小説だからこそ辿り着けた心震える新境地。

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03.『第七問』

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リチャード・フラナガン著 渡辺佐智江訳 白水社刊 ¥3,300

ブッカー賞受賞作家が、圧倒的な筆力で問う戦争の不条理。

父親が日本軍の捕虜となった過酷な実体験をもとにした『奥のほそ道』でブッカー賞を受賞。本書も父親が抑留されていた大浜、そして原爆が投下された広島を訪れるエピソードで始まる。核戦争を予見した社会思想家、原爆の開発に携わった物理学者、史実と家族史を呼応させながら思索を深め、戦争の不条理をあらためて問いかける。優れたノンフィクションに贈られるベイリー・ギフォード賞を受賞。戦後80年の今年、読むべき一冊。

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04.『恋のすべて』

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くどうれいん、染野太朗著 扶桑社刊 ¥1,870

31音に切り取られた、みずみずしい恋の瞬間。

食のエッセイで人気の作家くどうれいんと歌人の染野太朗がタッグを組み、恋の短歌に挑んだ。ふれる、嫉妬、やさしさ、永遠......ひとつのテーマで5首ずつ詠み合った本編のほか、それぞれに30首を書き下ろし。恋に揺れる心の機微が実感のこもった言葉で切り取られ、31音という制限があるからこそ一瞬の情景が鮮やかに浮かび上がる。実際にふたりが喫茶店で即興で詠み合った短歌も収録。行間の物語に想像力をかきたてられる。

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05.『リトアニア リトアニア リトアニア!』

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在本彌生著 アノニマ・スタジオ刊 ¥5,500

旅する写真家が、リトアニアに惹かれた理由。

世界を旅する写真家・在本彌生がバルトの小国リトアニアに関心を抱くようになったのは、詩人でもある映像作家のジョナス・メカスの映像作品を観たことがきっかけだった。伝統的な祭りの風景は映画『ミッドサマー』さながら。メカスの生家を辿る旅、独立の父・ランズベルギスのポートレート、穏やかな日常の根底にはソ連からの解放独立のため非暴力で闘った人々の平和への祈りがある。いまある自由の意味を問いかけてくる写真集。

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*「フィガロジャポン」2025年12月号より抜粋

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text: Harumi Taki

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