平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる連載「テレビドラマ、拾い読み!」。今回はNHKの朝ドラならぬ「夜ドラ」、大注目の理由は?
秋らしくなって冬間近。小寒くなるとほっこりとしたドラマが見たくなる。確か去年の今ごろは小泉今日子、小林聡美主演の『団地のふたり』(NHKBS)を見ながら、ほっこりして癒されていたのに、一年が経過するのは早すぎる。もう年末が間近なんて新手のマジックだろうかと、ブツブツ考え込んでしまうではないか。と、私が独り言を言っているうちにNHKは今年もご自愛ドラマを放送している。それが岡山天音主演・夜ドラ『ひらやすみ』(NHK総合)だ。月曜から木曜まで毎日22時45分から15分間ずつ放送する作品に、SNSのハッシュタグが深夜、静かに騒いでいる。
加えて雰囲気が『団地のふたり』に似ている。どこかノスタルジック映像、ナレーションは小林聡美、おいしそうな消え物を担当するのはフードスタイリストの飯島奈美。演出は松本佳奈と昨年と同じ布陣が揃う。ひょっとしたらこのご自愛ドラマ、NHKの季節の風物詩になるのだろうかと、つい楽しげな腹読みをしてしまう。
視聴者が腑に落ちるキャスティング
『ひらやすみ』はこんな物語だ。
生田ヒロト(岡山)は29歳、釣り堀で働くフリーター。仲良くしていた老婆の死後、一軒家を譲り受けてのほほんと暮らしている。タイプの女性とは話せない。今年の春から東京の大学生になった、従姉妹の小林なつみ(森七菜)と一緒に暮らしている。なつみも人見知りが発動してキャンパスライフに馴染めずにいる。そんなふたりの同居生活を描く。
まずキャスティングがベストバランス。風来坊のような雰囲気を醸し出せと言われたら天下一品の岡山天音。彼は可愛らしさも持ち合わせているので、ヒロト役には最適解といえる。意外だったのは森七菜のダサ可愛い学生役。トレーナー素材が中心のコーディネート、額を出したちびまる子ちゃんを彷彿させるボブスタイル。『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系・2023年)のなっつんこと夏海役とはまるで違い、今回のなつみはそもそもの美しさを崩して、人間味が前面に出るような演出が随所に見受けられる。特に第二話の、新歓コンパで無理やり飲まされた酒で酔っ払ったシーンは笑った。その他、これから物語にガンガン絡んでいくであろう、自虐タイプの立花よもぎ役・吉岡里帆の演技は安定。ややクセのあるヒロトの友人・野口ヒデキ役の吉村界人の、小さな胡散臭さも面白い。彼が出てくるたびに「殺されないだろうか」と不安が過ぎるのは『地面師たち』(Netflix)のインパクトだろうか。
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人見知りの味方ドラマだ
ドラマ視聴でよく求められるキーワードの共感性。このワードも上手に掬っているのが『ひらやすみ』。ヒロトも夏美も人見知りで交友関係はさほど広くはない。ヒロトはそんな自分に対して疑問がないように見えるけれど、上京してきたばかりで大学生一年生のなつみにとっては、大きな問題だ。大学にもなじめず、ズル休みもしばしば。それでも「友達がほしい」と踏ん張る様子、本人には申し訳ないけれど可愛らしい。
人見知りときいて心当たりがある人は多いと思う。私もインタビューで若手のタレントさんによく会うけれど「俺、人見知りしないんですよね〜」なんて言う、いわゆる"陽キャ"に会った経験は稀だ。ここ10年くらい会う若手のタレントさんは、テレビで見せる様子とは裏腹にほぼ「人見知りで......」を自称している。コミュニケーションが簡素化されて、対人が大幅に減り、新入社員がデスクの電話に怖くて出られないなんていう話しを聞く昨今なのだから、人見知りが増えて当然だろう。そんな人たちの気持ちを表現しているヒロトとなつみ。この二人にああなってほしい、こうなってほしいとドラマティックな展開は求めない。どうかこのまま、ふつうに生活してくれたらそれでいい。
深夜に見るには適温の『ひらやすみ』。漫画原作者・真造圭伍さんの奥様は、現在放送中の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)の漫画原作者・谷口菜津子さんだそう。きっといい夫婦関係を築いているのが、2025年末のヒットドラマ2作品からよく分かる。両作ともに人の心を優しく包んでいる。
コラムニスト、ライター、編集者
平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。







