葛藤する目黒蓮、涙を流す妻夫木聡が待ち遠しい! 最終回まで見逃せない、日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』のポイント
Culture 2025.12.07
平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる連載「テレビドラマ、拾い読み!」。今回は大注目の日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』について、最終回まで見逃せないポイントを語ります。
「毎回ね、『ロイヤルファミリー』に夢中なのよ。妻夫木くんの泣いてるシーンなんて、感動しちゃって、録画を4回も繰り返し見ちゃったわ」
「玉置浩二の主題歌もいいのよね。あの人、歌、上手よね。いいタイミングでかかるのよ」
「こんなにドラマにハマったのは久しぶり」
「BSで再放送してくれないかしら」
この原稿を書こうとしたコーヒースタンドの隣席で、70歳前後と思しきご婦人たちが日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)について話していた。ドラマが盛り上がっているのは知っていたけれど、高齢者にも人気が浸透しているとは恐れ入る。そしてご婦人たちと同じく『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)は私の中でも熱い。毎週日曜は中山競馬場に立っているつもりで、ドラマを"観戦"している。いや私だけではなく、周囲の女性視聴者もよく見ているようで、ドラマオタク(私)に「見てる?」とよく声がかかり、話題にあげてくる。そこには馬が可愛い、競馬の奥深さを知った......などさまざまな理由が挙げられているが、今回は私の思う本作の魅力を伝えたい。
妻夫木の涙を待つ私たち
ドラマの魅力のひとつに"妻夫木の泣き待ち"がある。
主演の妻夫木聡が演じているのは栗須栄治。(株)ロイヤルヒューマンの代表取締役・山王耕造(佐藤浩市)の馬主としての姿に惚れ込み、秘書となった。耕造の没後は愛人の息子・耕一(目黒蓮/Snow Man)のレーシングマネジャーとなり、競走馬「ロイヤルファミリー」を支えている。この栄治がとにかくよく泣く。約1時間の放送中、時には2回も泣いている。
たとえば早朝の中山競馬場で朝日を見て感動して。死期の近づく耕造と競走馬ロイヤルファミリーを迎える際に感極まって......と、彼の涙腺は常に緩みっぱなし。しかも琴線が不明なので、突然、泣き出す。よく泣く人物はドラマにもよく登場するけれど、栄治の涙の向こうにはただの演技だけではない、仕事への忠誠心が存在しているのが視聴者の胸を打つ。
栄治は税理士として働いていたけれど、亡き父の残した「人の役に立つ仕事がしたい」と競馬の事情もわからぬまま、耕造の熱量に惹かれて秘書になった。この仕事ぶりが素晴らしい。第7話で、耕一が「友達と呼べる人間は一人か、二人で」と、耕造に拗ねた返事をすると「少数精鋭なんでございます」と、すかさずナイスフォロー。恋人の加奈子(松本若菜)が「栄治と幸せでいられますように」と神社の絵馬に書いている側で「山王耕造の復活」と書き、ボスの病状の回復を祈る渋谷のハチ公のような忠誠心を見せる。仕事と耕造=馬へ注ぐただならぬ愛情が画面からあふれている。何かと選択肢や誘惑の多い昨今、栄治のように迷いなく仕事へ邁進できる姿は憧憬だ。だからこその視聴者による、妻夫木の泣き待ち。私たちも同じように泣きたいのだ。
元々、妻夫木の泣きの演技は映画『涙そうそう』(2006年)など、とても印象深く、見る側の感情を揺さぶる何かがある。彼が今年の7月『あさイチ』(NHK総合)の沖縄特集にゲスト出演していた際、沖縄地上戦の悲惨さに感情が止まらなくなったのか、大粒の涙を流していた。生放送中、長時間泣いていた姿を見て、本当に純度の高い人なのだと悟った。妻夫木の本気の涙と、栄治の涙は同じ温度だ。
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葛藤する目黒蓮を見守りたい
"妻夫木の泣き待ち"もいいけれど、"目黒の葛藤"も捨てがたい。
耕造の愛人の息子・耕一が登場したのは第4話。母一人、子一人で育ってきたのに突然、実の父親が現れた。
「援助はいりません」
耕造を避けるものの、実は競馬に並々ならぬ興味と、サラブレッドの育成に知識を持っていた耕一。やはり親子。たったひとりの肉親である父に対して、素直になりたそうにしているのに、ついツンデレのような態度を取ってしまう耕一。第七話では栄治から馬主席の招待状を受け取っておきながらも席には着かず、一般席で競馬を見守っていた。本当は父の隣に並びたい気持ちを抑えていたかもしれない。そんなふうに耕一は毎週何かしら葛藤していた。結局、耕造の没後、相続馬限定馬主となり、英治と共にロイヤルファミリーを育成する。同年代の馬主も現れるが、馬を購入する財力のない耕一はロイヤルファミリーで勝負をするしかない。加えてしきたりの多い世界、まだ彼の葛藤や苦悩は続きそうな予感がする。
この耕一を演じている目黒蓮の出演は当初から決まっていたけれど、第4話までどんな役であるのかは全く知らされていなかった。「目黒はまだか」と焦らされる視聴者と、彼のファン。近年のドラマではあまり見かけない、鳴り物入りの参上スタイルはさすが人気者......! だと思っていたけれど、それだけではなかった。耕一の繊細な機微を表現する力が本当に素晴らしかった。
さらに感心したのは、彼のドラマ出演本数がまだ10本に満たない事実だ。映画も7本ほど主演、出演経験があるけれど、今回の演技を見ていると猛烈なスピードで演技力を高めているのがよく分かる。多忙な最中、おそらく相当な努力とプレッシャーを積んだのだろうと想像すると、どこかに忘れていた母心が湧き上がってきて、泣きそうになってしまった。そう、妄想で一緒に泣いてくれる英治を側(かたわら)に感じながら......。
これが私の思った『ザ・ロイヤルファミリー』の魅力だ。物語は最終章へ突入して、ますます視聴者の熱量もヒートアップしている。ドラマの最終回前後には有馬記念の開催、来年は午年。改めて、設計の完璧な作品だ。






