平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる連載「テレビドラマ、拾い読み!」。今回は3話目の放送回ですでにXで共感の声殺到の「じゃあ、あんたが作ってみろよ」。あなたもこんな失敗、ありませんでした?
こんな竹内涼真が見たかった!
タイトルだけで芳ばしい香りを漂わせていた火10ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS系、以下『じゃあつく』略)。
「毎日毎日、家事の中でいちばん面倒だと言われる食事を作っているのに、出したらケチをつけられるか、出す前は『簡単なものでいいから』と、目線の立ち位置が不明の宣誓をされるか。もしくは『今日は食べてくるからいらない』とせっかく準備した食事が泡となるセリフを言われる私。じゃあ、あんたが作ってみろよ」
この意訳だと理解をして放送日を待っていた。どんなに原作がすばらしくても映像化された時点で、世界観と期待が完膚なきまでに叩き潰された経験は数知れず。ところが『じゃあつく』は第一話の放送後も「また来週も絶対に見る!」と、こちらのテンションの崩れはなかった。では良作並いる秋ドラマで、他作品と一線を画したのか。未見の皆さまには見るきっかけに、私と同じく大ハマりの皆さまは「そうそう!」とうなずいてみましょうか。
鼻息荒く書いておりますが『じゃあつく』がどんな内容かといえば、タイトルにとても忠実なのである。「家事は女性がするもの」と、前時代的な調子が抜けない海老原勝男(竹内涼真)と、結婚で幸せになれると自我をどこかに隠していた山岸鮎美(夏帆)。「さあ、結婚するぞ!」のタイミングで、鮎美から別れを切り出す。これが第一話だ。別れから始まるドラマは高確率で面白い。ひとり残された勝男は自省を繰り返し、鮎美は髪の毛をピンクに染めて「自分らしさ」を全開にしていく。いわゆるラブコメでありながら、シリアスにもなりすぎていない、いかにも『火10』らしい明るいドラマだ。
今回、見どころとして推したいのがベストキャスティング。まずは勝男役の竹内涼真の憎めないヘタレ男ぶりが絶品なのだ。竹内......といえば、昨今では日曜劇場「テセウスの船」(TBS系・2020年)や「龍が如く〜Beyond the Game〜」(Amazon Prime Video・2024年)などで、お父さんたちも虜にしてきた。高身長の高筋肉に甘いマスクの"俳優"であると言われたら納得だ。が、やはりCMキャラクター「ビューネくん」で一世風靡した、あの甘い雰囲気は忘れられない。"普通にかっこいい竹内くん"の演技が見たいな〜と思っていたところに、勝男の登場だ。ハイ、キター!
勝男は自分が完璧な人生を歩んでいると思い込みすぎていて、鮎美の気持ちを蔑ろにしていた。だから悪気なく料理に対する地雷セリフが乱発。
「朝から男が料理するわけないだろ(笑)」
「全体的におかずが茶色すぎるかな(笑)」
「(料理は)作りたてがいちばんなんだよなあ」
こんなことを言っていた旧式男の勝男が、第三話から少しずつ変わり始めた。マッチングアプリを開始、自炊によって料理を作る側の気持ちを理解するなど、令和に向かい始めた。ただ料理はクリアしたとしても、価値観など鮎美との復縁に対して課題は重積している。その勝男を竹内がどう演技で見せていくのか。そりゃ目が離せない。
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筑前煮ってめんどくさいって知ってた?
そして勝男の最愛の人だった鮎美を演じる夏帆。彼女のどこかあどけないビジュアルで、「本当は私こう思っているのに......」と本心を隠す演技のバランスが秀逸なのだ。結婚すれば幸せになれると思っていた鮎美も旧式女。髪の毛を染めて、酒を飲んで、踊って、新しい恋に踏み出す様が楽しみだ。ちなみに今回の恋の当て馬、ミナトくん(青木柚)は風貌と振る舞いからして絶妙にクズ男っぽさがあり、これも見どころだ。
続けて今回、件の鮎美が勝男の好物だと食卓に出していた料理に、筑前煮がある。経験があればわかると思うが、調理工程が異様に面倒だ。手はかかるのにメインではなく、副菜として扱われて、冷凍もできない繊細なメニュー、それが筑前煮。スーパーへ行って惣菜として買ってくるほうが効率的なのに、そうは勝男が許さない。そんなふたりのやり取りを見ていて、思い出したエピソードがある。
私は未婚の中年ひとり暮らしで、毎日料理をもしない。料理はまとめて、冷凍ストックフル活用で食べている。ただパートナーが遊びに来たり、一緒に暮らしたりと食卓を囲む機会は、私が料理をしてきた。いまもしている。裁縫は全くできないのですべて金で解決しているが、料理だけはなぜか探究心が強い。
夏のある日。主婦の間で物議を醸し出した「そうめんとか簡単なものでいいよ」という亭主のひと言が気になったので、私もそうめんを食卓に出してみた。薬味だけで酒が飲めるほど薬味好きなので、この日はネギ、大葉、錦糸卵、みょうが、揚げ玉、胡麻、大根おろし、わさびなどをひと皿いっぱいにして出した。自分のために作る、スペシャルバージョンだ。手がかかったし、豪華だし、これで副菜なんぞ必要がない。
「わ〜、こんなの実家じゃ食べなかった!」
当時の歳下パートナーはそう喜び、そうめんを追加で茹でるほど食べていた。が、後日。仕事で疲れていたので、スーパーで買ったイカの唐揚げと、ネギだけの薬味そうめんを出したところ、開口一番にこう言った。
「いつものじゃないよね」
......しまった! 一度、スペシャルバージョンを食卓に出してしまうと、料理をしない人にはそれが普通になる。甘やかしてしまったと思いつつ、薬味を追加した。「じゃあ、あんたが作ってみろよ」とは言えなかったけれど、これは確実に自分の過失だったと反省。ああ、そうか。こんな恋愛や結婚にまつわる思い出もよみがえってくるから『じゃあつく』は楽しいのだ。
コラムニスト、ライター、編集者
平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。






