心の拠り所に。『ミシンは触らないの』はじめ、2026年手に取りたい書籍5選。
Culture 2026.01.12
発売後、即重版となった中前結花によるエッセイ集『ミシンは触らないの』。不器用で不格好なわたしを"だいじょうぶ"にしてくれた言葉たちは、新年、忙しなく再開した日常や気持ちを切り替えたいときに寄り添ってくれるはず。この作品をはじめ、編集部おすすめの5冊をご紹介。
01.『ミシンは触らないの』
忘れられない言葉をテーマに、大切に綴られた著者の人生。
文:酒寄希望 お笑い芸人(ぼる塾)
わたしが初めて中前結花さんのエッセイを読んだのは、デビュー作、『好きよ、トウモロコシ。』でした。読み終わってすぐに、「この人と思い出を共有したい」という強い思いが生まれました。中前さんの書く文章は優しくてあたたかくてきらめいていて、もしもわたしが彼女に嬉しかったこと、悲しかったこと、怒ったこと、なんてことのないことを伝えられたら、一体どんな言葉が返ってくるのだろう。中前さんの思い出の一部として、自分の人生を残すことができたらなんと素敵なことだろうとおこがましいですが願うようになりました。中前さんのエッセイは、その世界に飛び込みたい、登場人物になりたいと読者が心から思う魅力があるのです。
『ミシンは触らないの』は、中前さんの2作目のエッセイです。「忘れられない言葉」をテーマにした14編が収録されており、読み終わったありのままの感想を言うと、全てが好きでした。こういう場では、とくにお気に入りのエッセイをあげるべきだとはわかっているのですが、14編全てが大好きです。それぞれ単独で読めるエッセイですが、子どもの頃の中前さん、大学時代の中前さん、就職している頃の中前さん、そして、今の中前さんと、全部が中前結花さんなのです。人との関係も思考も繋がっています。「忘れられない言葉」というかたちで、中前さんの大事な人生を見ました。しかも、文章を読むというよりも、まるで中前さんが昔から大切にしている宝箱の中身をこっそり見せてくれるような気持ちになりました。わたしが「見ても良いの?」と言うと、中前さんは優しく笑って「良いよ」と、そっとわたしの手のひらにひとつひとつのせて、丁寧に説明してくれるのです。わたしはその説明を聞きながら、一緒にふふふと笑ったり、中前さんの背中をさすってあげたり、あまりの衝撃に驚いたり、そして気づけば号泣していました。思いを本にしてくれてありがとうと、感謝でいっぱいです。ぜひとも、より多くの人にこの感動体験をしていただきたいです。
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お笑い芸人(ぼる塾)
お笑いカルテット、ぼる塾のリーダー。猫塾としてコンビ活動後、2019年にしんぼると合流し4人組として活動を開始。産休・育休を経て22年に復帰する。著書に『酒寄さんのぼる塾晴天!』(ヨシモトブックス刊)など。
X:@no_zombie
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02.『研修生』

多和田葉子著 中央公論新社刊 ¥2,970
ノーベル賞に最も近い作家の半自伝的な最新長編小説。
80年代のドイツのハンブルク。書籍取次会社で研修生として働き始めた22歳の「わたし」。異国で働く心細さを感じながらも、不器用なマグダレーナとの交流を通して言語に寄せる想いが育まれていく。まだ何者でもなかった頃を振り返れば、何げない日々の繰り返しの中に忘れがたい宝石があった。志賀直哉、夏目漱石、カフカ、チェーホフ......作中に織り込まれた文学作品から作家になるまでの原点が垣間見える半自伝的な長編小説。
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03.『ブロッコリーパンチ』

イ・ユリ著 山口さやか訳 リトルモア刊 ¥2,090
彼の右手が突然ブロッコリーに⁉ 奇想天外な設定に惹き込まれる。
ボクシング選手の彼の右手が突然ブロッコリーになってしまったのは、誰にも言えなかった傷ついた心のせい。表題作はじめ、8つの物語は日常と隣り合わせの奇想天外な設定がクセになる。死んだ父親が植木になって戻ってきたり、元彼が置いていったイグアナが話しかけてきたり、シュールなユーモアで何かを失うことの切実さを包み込み、温かな読後感が残る。デビュー作にして韓国で大ヒットを記録した注目の新鋭の短編集。
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04.『星がすべて』

最果タヒ著 文藝春秋刊 ¥1,650
遠くの星に想いを馳せることで、人は永遠を知るのかもしれない。
いま見える星の光は長い時を経て地球に辿り着いたというのはロマンティックだが、ただの真実である。高速で落ちていく流星群は、叶わなかった願いの残像のようだ。人が紡ぐ詩よりも詩のような星にまつわる「ただの事実」が、詩人の想像力を掻き立てる。12星座について詩とエッセイで考察し、月を巡る故事を読み解く。宇宙の話はいつも本当のことと夢を行き来する。星空を見上げたくなる言葉で描く詩のプラネタリウム。
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05.『ブランコ』

ブリッタ・テッケントラップ著 梨木香歩訳 岩波書店刊 ¥4,180
記憶の中にある懐かしい場所を呼び覚ます大人のための絵本。
大人になるというのは、記憶の中に帰りたい懐かしい場所があるということなのだろう。ブランコはいつだってそこにあった。子どもも大人もそこで海を見つめた。老人は亡き妻を思い出し、少年は自分の夢を温めた。廻る季節、ひとりでいる孤独も、誰かといる喜びもそこに刻まれていた。いくつもの人生を定点観測するような語り口。翻訳は『西の魔女が死んだ』の梨木香歩。記憶の扉を辿るような、大人のための美しい絵本。
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*「フィガロジャポン」2026年2月号より抜粋
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text: Harumi Taki





