「テレビドラマ、拾い読み!」 「分からないことを分かっていないと」松山ケンイチ主演ドラマ『テミスの不確かな法廷』で、ストレスが浄化される理由とは。

Culture 2026.01.20

小林久乃

平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる連載「テレビドラマ、拾い読み!」。今回は松山ケンイチが裁判官として活躍するドラマ『テミスの不確かな法廷』について。


疲労が溜まってくると、ドラマオタクとしては無性に連続ドラマを観たくなる時がある。それがストレス解消につながっている。が、冬疲れが濃厚なのか、レコーダーに全録している作品を追っても、追ってもなかなか爽快感にたどりかない。うーん。そんな最中、リモコンを操作せず、ずっと目で追った作品が松山ケンイチ主演の『テミスの不確かな法廷』(NHK総合)。彼の神経発達症の再現性の高さと、雑味が少ない物語に脳が吸い込まれていくようだった。

自分の目で見たものしか信じない安堂

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本作は珍しいタイプのリーガルドラマだ。主人公は幼少期にASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の診断を受けている、特例判事補・安堂清原(松山)。安堂が事件や容疑者と真正面から向き合い、社会に溶け込みづらいとも言われるASDとADHDを活かした起点や視点で、判決を下していく。

私たちは期せずして、法律に絡んだ事件に巻き込まれてしまう(かもしれない)。そんな時に頼るのは法律家しかいない。ただこれも相当のコネがなければ"ガチャ"なわけで、運を待つのみ。せめて自分に寄り添って、真実を追求してくれる人でありますように、と誰もが願う。安堂はその権化のような行動を取っている。

単純に安堂は自分の目で確かめたもの以外は信用しない。たとえば事件の内容が気になれば、検察官や弁護士ではないのに、自宅からジャージ姿で事件現場へ向かって自ら聞き込みと検証をしている。他にも裁判の進行や、被告人に適さないと判断したら「弁護人、裁判官の職権であなたを解任します」。こんなシーン、ドラマでは初めて見た。真実を追求するために、裁判時間外に弁護人同士を引き合わせている。世間的には常軌を逸した行為なのかもしれないけれど、観ている側としては胸がすくのだ。

安堂の一連を眺めていると、ぼんやりと『99.9 ―刑事専門弁護士―』(TBS系・2016年)の深山大翔(松本潤)弁護士を思い出す。深山も同じように被疑者に寄り添い、事件を徹底的に疑って真実に辿り着くのがオリジナルの手法。ちなみに安堂判事補もこれまで有罪確率99.9%をひっくり返し、無罪判決を確定させているらしい。

「分からないことを分かっていないと、分からないことは分からない」 

毎話、決め台詞のように安堂は言う。確かにそうだ。私たちはいつの間に、知ったかぶりを自分に増やしているのだろうか。不明瞭さを感じたら、都度、解決していけばいいのに。それが決して格好悪くないのに......と、ドラマ観ながら、ブツブツと独り言がついて出る。これが楽しい。ああ、そうか。冒頭のストレスが浄化される感覚は、安堂から生まれるものだったのか。

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松山ケンイチの再現性の高さ

その安堂を演じる松山ケンイチの演技には目を見張る。私の周囲にも神経発達症と自称する人間が何人かいるけれど、「テミスの不確かな法廷」を観て、彼の再現率の高さが「ひと目で自分と同じ病だと分かる」と注目していた。たとえばケチャップ味にこだわり、同じメニュー(ドラマ内では喫茶店のナポリタン)をずっと食べ続ける行為。何か得意な分野が会話に巡ってくると、早口になって得意げに話し出す。周囲の人間とはなんとなく視線が合わない。ジャージが基本の私服や、独特の口調や表情......など、特徴は人によって変わるけれど、総じて正解らしい。神経発達症の表現について、私も完全な正解はわかっていないけれど、松山の演技がすごいことだけは理解ができた。

ちなみに松山はここ数年、法曹界にまつわる役を連続して演じている。2024年「虎に翼」(NHK総合)にて、裁判官・桂場等一郎役。2025年「クジャクのダンス、誰が見た?」(TBS系)で弁護士・松風義輝役と続き、2026年「テミスの不確かな法廷」。もう彼にとっては法律家はお手のものなのかもしれないが、いままでとはひと味違う安堂役がどう進んでいくのか楽しみでならない。

あくまで素人目線の意見ではあるけれど、法律家とは人を疑うのが仕事。でも安堂はその真逆で疑わないのが仕事。彼の打算のない行動を観ていると、絡み合った自分の感情のチューニングが合うような気がした。

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「テミスの不確かな法廷」
NHK総合 毎週火曜 22:00〜22:45(全8回)
https://www.nhk.jp/g/ts/32VWPKM6NX/

コラムニスト、ライター、編集者
平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。

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