不穏で刺激的な、マイク・ケリーの大回顧展。

Culture 2018.03.01

ポップアートの闇の帝王が、アメリカ社会に鳴らすアラート。

『マイク・ケリー展 DAY IS DONE 自由のための見世物小屋』

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『ファーム・ガール 課外活動 再構成 #9』2004-05年。地域コミュニティの独身交流会で農場の歌を披露する少女。微妙な空気が流れる。

アメリカのポップカルチャーを解体し、社会に沈殿する異物感を炙りだした重要なアーティスト、マイク・ケリーが命を絶って6年。ようやくまとまった回顧展がシリーズで始まった。初回の見どころは、未完の映像大作『Day is Done』だ。斜陽の工業都市デトロイトで育ったケリーの高校時代、地域の教育施設で行われていたキテレツな「課外活動」を記録したモノクロ写真をカラーの実写映像や写真で再現。三流俳優や素人がヴァンパイア、田舎者、不機嫌な悪魔やKISSの狂信的ファンなどに扮し、ハロウィンの仮装さながらの茶番劇を繰り広げる。シナリオやダンス、音楽などすべてのディレクションをケリー自身が手がけた本作は、いま観ても馬鹿げていて禍々しい。デリケートに壊れたその世界に、日頃お仕立ての「美」に馴れきった眼を浸せば、フラットに見せかけたアメリカの大衆文化に潜むマイノリティに対する差別、そして抑圧された精神が抱えるトラウマや暴力性が、毒気の利いた痛快な皮肉とともに浮かびあがる。

トランプ政権の発足から1年、不愉快なニュースが届くたびに、不都合な真実をその奥深くに隠蔽してきた社会の構造を憂う。ファストフードと偽善的に行われる学校儀式。そして、メディアの呪術で骨抜きにされた若者の教育の場にこそ病理の根源があることを、ケリーの死後になってあらためて白日の下に晒された作品ともいえる。ポップアートの闇を司るアーティストは遺作を通じて、大衆の思考停止という危機にノイジーなアラートを鳴らすのだ。

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『サタンの鼻の穴』「女々しいメタル/クローバーの蹄」シリーズより。1989年。マッチョなヘヴィメタルバンドの紋章と幸運のクローバーを合わせて男性性の脆さを冷やかす。

『マイク・ケリー展 DAY IS DONE 自由のための見世物小屋』
会期:開催中~3/31
ワタリウム美術館(東京・青山)
営)11時~19時(水曜は~21時)
休)月
一般¥1,000

●問い合わせ先:
tel:03-3402-3001
www.watarium.co.jp

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*『フィガロジャポン』2018年4月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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