ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクら、テクノロジー界の大物たちは現代の王様のような存在だ。いったい彼らはどこまでやるのだろうか?

Celebrity 2025.08.13

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フランス国立科学研究センター(CNRS)の社会学者オリヴィエ・アレクサンドルが上梓した話題の書は、シリコンバレーの大物たちがますます権力を握る状況を取り上げたもの。成功譚がディストピアに変わるのはどの時点だろうか。

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第60回大統領就任式に出席するマーク・ザッカーバーグ(Meta Platforms Inc CEO)、ローレン・サンチェス、ジェフ・ベゾス(Amazon.com Inc 創業者)、サンダー・ピチャイ(Alphabet Inc CEO)、イーロン・マスク(Tesla Inc CEO)。(ワシントンDC、2025年1月20日)photography: Bloomberg / Bloomberg via Getty Images

ー 一般人からするとマーク・ザッカーバーグやイーロン・マスクのようなテックの巨人たちは、単純ながら革命的なアイデアで成功しました。もう一つの共通点は、既成概念を"破壊した"彼らがまさに物語(ストーリーテリング)の主人公であることです。

テック業界における真のスターはシステムそのものであるとは言え、テック起業家の成功譚は役にたつフィクションです。マーク・ザッカーバーグ(Meta)、イーロン・マスク(SpaceXとX)、サム・アルトマン(OpenAI)はセレブとなりました。少し昔に遡ってみましょう。1980年代、それまで軍や大学、大企業で使われていたコンピューターが一般に普及するようになりました。このターニングポイントにおいて推進力となったのはいわゆる"クリエイティブ・クラス"、ブルデューが"新プチブルジョワ"と呼んだ層であり、具体的には広告、広報、ジャーナリズム、研究、起業などの分野の人々でした。こうして、ハリウッドが大作映画を量産するのと同じように、テック業界は製品をせっせと開発し始めました。製品やサービスの発表会も規模が拡大します。このような新しいトレンドを担った企業のひとつがAppleでした。スティーブ・ジョブズはコードの書き方も知らずして、テック界の王者として君臨するようになりました。Appleは複雑なことを魔法のように解決し、変化を革命に変え、起業家は既存秩序に対抗する存在となったのです。1984年、ニューヨークのIBM本社前で中指を立て、ファックサインをするスティーブ・ジョブズの写真を思い出してみてください。

ー Facebook、Apple、Microsoft、OpenAI、Amazon等、なぜ私たちはこうした企業を特定の顔と結びつけるのでしょうか?

テック界の起業家は、かつて王が国家を体現したように、体現者として肉体を超えた存在となりました。スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスはずっとAppleやAmazonの経営トップだったわけではありません。多くのテック企業には共同創業者がおり、共同創業者はしばしばプロの経営者に取って代わられました。Googleでも比較的早い段階でエリック・シュミットが創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの後釜となりました。それでも企業イメージは特定の名前と結びついたままです。一般消費財の大企業では、あまりそういう現象は見られませんが、テック業界では製品、チーム、組織構造、規制などあらゆるものが常に変化し続けます。そのため、なんらかの"体現者"が必要とされ、その役割を果たすのがCEOなのです。

ー アメリカのテック界の大富豪たちは、上流中産階級の家庭出身であることも魅力のひとつです。

テック業界の億万長者の多くは、上位の社会職業階層や知識階層の出身です。親と同じようにエンジニア、医師、研究者になっていたかもしれない人々が、世界史上最大級の富を築いたのです。これほど急速な成功が可能な産業、国、時代は他にほとんどありません。このことが、テック業界の魅力を維持するのに役立っています。批判はあっても、この業界は依然として"努力すれば成功する"イメージを保っているのです。

ー テックの巨人たちはよく、天才的な起業家、開拓者、"アメリカの英雄"として描かれます。このような神話が生まれるのは、どのような文化的基盤に依拠しているのでしょう。

この起源神話は、アメリカの政治文化と深く結びついています。建国の父たちの中には、新しい技術に熱中する起業家、地主、発明家が多くいました。一例を挙げればトマス・ジェファーソン、ジェームズ・マディソン、ベンジャミン・フランクリンらです。たとえばイーロン・マスクはトマス・ジェファーソンに一目置いています。ジェファーソンは米国大統領となり、同時に起業家、科学者、哲学者、自由の擁護者であり、さらに言えば600人以上の奴隷所有者でもありました。

アメリカ独立宣言にはテック起業家たちが重視する理念──言論の自由、信教の自由、起業の自由──が記されています。ただし、こうした自由の裏には不平等が存在します。テック界の経営者は、アメリカの一般的な起業家とは異なる特殊な存在です。彼らは非常に高学歴で科学や情報工学の出身であり、科学技術に対して肯定的な経験や見方を持ち、しかも早い段階から最新技術にアクセスしてきた人たちなのです。1960年代末から1970年代初頭生まれの起業家たちは、パソコン、ビデオゲーム、インターネット、SNS、アプリ、AIといったパーソナルコンピューティングのあらゆる革新の波を経験してきました。さらに付け加えるならほぼ全員が男性です。

ー 著書の中で、あなたはテックを"未来の宗教"と表現しています。それはどういう意味でしょうか。テック企業の経営者はを"新しい教祖"なのでしょうか。

彼らは高度に技術化された環境で育ち、アメリカの一般人口よりも無神論者である割合が高いです。新しい技術こそが歴史を動かす原動力だと考え、未来を見据えて考え、発言しています。彼らの関心は、5年後、20年後、50年後、500年後に物事がどうなっているかに向けられているのです。イーロン・マスクに至っては280万年後(地球が爆発するとマスクが推定する年)にまで想像を広げている。彼が見据えているのはこの世の終焉なのです。

ー テックが世界を支配するとどのような政治的問題が起きるのでしょうか。

私たちはテクノロジー製品やサービスを利用することである意味、自分たちの未来に対する権利の一部を彼らに委ねてしまっています。なぜなら、それらを開発する企業のトップが勝手に私たちの代わりにいろいろな選択をしているからです。私たちはこの状況に満足しているのでしょうか。自分や子どもの未来を選挙で選ばれておらず、政治的責任を持たず、時には民主主義すら軽んじる人々に決められてもよいのでしょうか。20世紀の教訓を忘れてはなりません。テックに限界があるとしたら、それを設けるのは私たち自身なのです。

オリヴィエ・アレクサンドルは、フランス国立科学研究センター(CNRS)のインターネット社会研究センターの副所長の職にある。

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text: Séverine Pierron (madame.lefigaro.fr)

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