BLACKPINKリサに続く! フォロワー数百万人越えの「タイの新世代」セレブとは?
Celebrity 2025.10.28

数百万人のファンがおり、SNSでの露出が極めて高いタイのスター俳優たちがファッションウィークを熱狂させ、ラグジュアリーブランドを魅了している。

騒がしくも華やかな夜が過ぎていく。2025年3月、パリ北駅の構内がフラッシュの閃光とファンの絶叫に包まれた。韓国のポップグループBLACKPINKのメンバーのひとり、タイ出身のリサが到着したのだ。リサがやってきたのは列車に乗るためではない。ルイ・ヴィトン2025-2026年秋冬コレクションがここで開催されたからだ。悪天候にもかかわらず、多くの若者がお気に入りのアイドルをひとめ見ようと押し寄せた。ショーには、エマ・ストーンやレア・セドゥといった世界的に有名なセレブも来ていたが、人々のお目当てはまぎれもなくリサだった。Instagramで1億人のフォロワーを持つ彼女は、セリーヌのアンバサダーを務めた後、1年前から新たにルイ・ヴィトンのアンバサダーを務めている。28歳の彼女は、歌手としても俳優としてもソロ活動で成功を収めており、たとえばドラマ「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート」シーズン3にも出演している。若い観客を熱狂させる存在を選ぶことはブランドにとってひとつの戦略だ。
いまや世界的に有名になったタイ出身のスター、リサは、K-POPスターたちがラグジュアリー界で地位を確立する上で決定的な役割を果たしたが、同時に母国の後進たちにも道を開いた。いまやタイ出身のスターたちは、ファッション界の勢力図において重要な地位を占めている。
「影響力の大きさを考えると、彼らは私たちの広報戦略に不可欠な存在です」と、ディオールの広報担当者は語る。どのブランドも同じ考えだ。たとえばアミパリスは何シーズンも前から多くのタイ人セレブをショーに招待している。Instagramでおおよそ1740万人のフォロワーを持つ俳優兼歌手のブライトもそのひとり。世界中の熱心なファンがスターの価値観や趣味を共有している。ヴァレンティノは直近のショーで女優のフリーン・サロチャを招待した。彼女のフォロワーはInstagramで450万人だ。グッチは女優ダビカ・ホーンをミューズにした。こちらはInstagramで1800万人のフォロワーを持つ。

タイの女優ダビカ・ホーン。photography: Claudio Lavenia/Getty Images Europe/Getty Images via AFP
彼らがちょっと登場しただけでファンは熱狂し、ラグジュアリー業界に大きな収益をもたらす。MIV(Media Impact Value)というツールはローンチメトリックス社が開発したもので、ファッション・ライフスタイル分野のデータ分析専門ツールだ。このツールにより、SNSやウェブ上でのセレブやインフルエンサーによる発言の金銭的価値を計算できる。具体的には、こうしたツールを使ってブランド側では各セレブのメディア露出の価値と経済効果を測定している。
実例を使って説明しよう。タイの俳優のアポ(ナタウィン・ワッタナキティパット)とマイル(パークプーム・ロムサイトーン)のコンビは、Instagramだけで計800万人ほどのフォロワーを持つ。ディオール2025年春夏コレクションでMIVがもっとも高かったのはアポで、その効果は1000万ドルを超えた。2025年3月のウィメンズ・ファッションウィークでシーズン通じて最高のMIVを出したのは同じくタイの女優コルナパット・セトラタナポンで、その価値は1630万ドルに達した。K-POPスターの時代に続き、いまやタイのアイコンたちがファッション界の覇者となりつつある。
LGBTQ+ドラマが生んだスターたち
新しいスターが急速に生まれた背景には特定のドラマジャンルの存在がある。それはBL(ボーイズラブ)、GL(ガールズラブ)と呼ばれるLGBTQ+版恋愛ドラマだ。これらのドラマはクィアの観客だけでなく、恋愛ストーリー好きの異性愛者にも人気だ。タイで2010年代に登場したこの手のドラマの構造は単純で、同性愛者の若者による禁断の恋が、多くの試練を経てハッピーエンドに至る。アポとマイルのコンビの人気が一躍高まった「キンポルシェ」や大人気ドラマ「I Told Sunset About You〜僕の愛を君の心で訳して〜」、続編の「I Promised You the Moon〜僕の愛を君の心で訳して〜」など、タイトルを見ただけでドラマの方向性は想像がつく。
「タイの初BL作品『Love Sick』は男子高校生同士の恋愛を描いたもので2014年に登場するとすぐに国中で人気となりました」と、オーストラリア・マッコーリー大学のトーマス・ボディネット博士は述べる。『Boys Love Media in Thailand: Celebrity, Fans, and Transnational Asian Queer Popular Culture(タイにおけるBLメディア:セレブ、ファン、国境を越えたアジアのクィアポップカルチャー)』(Bloomsbury刊)という著書もあるボディネット博士はこうしたドラマがどのように生まれたかを語ってくれた。「これらは最初、若者のテレビ離れ対策として制作され、その後ファンによってネットにアップされるようになりました。少しずつファンが字幕も付け、海外へ広まりました。2018年ごろになり、制作側も海外需要を認識するようになり、自らYouTubeで配信するようになりました。」
数々のBLドラマを制作してきたタイのテレビ番組制作会社兼タレントエージェントのGMMTVには今日、YouTubeで1960万人の登録者がいる。視聴数が爆発的に伸びたのは2020年、コロナ禍によるロックダウン中のことだ。「ドラマ『2gether』はコロナ禍でSNSを通じて爆発的な人気となりました。BL人気はまずアジア全域に広がり、続いて南米とアメリカ、ヨーロッパへと波及しました。これは10年前にK-POPがたどった道と同じです。現在では年間100本以上のBLが制作されています」とボディネット博士は現状を語る。
さらにGL(ガールズラブ)シリーズも広まった。BLの女の子版だ。2022年の「ギャップ・ザ・シリーズ」はタイ国内初のGL作品として大ヒット。YouTubeで8億回以上再生され、22歳の英・タイ混血女優レベッカ・パトリシア・アームストロング(通称ベッキー)をスターダムに押し上げた。彼女は現在シャネルのアンバサダーとなっている。

YouTubeで8億回以上視聴された人気ドラマ「ギャップ・ザ・シリーズ」の女優のレベッカ・パトリシア・アームストロング。photography: Swan Gallet/WWD via Getty Images
BLドラマは韓国や台湾にも存在するが、タイで制作されたものが一番人気だ。それはドラマの作りが丁寧なうえ、出演俳優はK-POPの歌手同様、何年もの訓練を受けているからだ。俳優たちは歌手やモデルもできるように訓練される。だからファッションの世界との親和性も高いのかもしれない。ソウル在住のジャーナリストで『K-Pop Culture(K-POPカルチャー)』(Hors Collection刊)の著者、オフェリ・シュルクフはタイのシステムをこう解説する。
「タイの制作会社は韓国のやり方をそっくり真似しました。俳優たちはBLに出られるようになるまで"サマーキャンプ"のような場所でずっと集団生活を送り、レッスンを受けます。みんなお互いを知っています。ペアを組まされ、人気が出ると多くのプロジェクトにペアで参加し、公の場にも一緒に登場します。実際にカップルとなって一緒に暮らし始めるケースもあり、そうなるとファンもヒートアップします。単に仲が良い友だちの関係にとどまる場合もありますが」。なお、ふたりが恋愛関係にあることを表現するのにこの世界では「shipping」という言葉が使われるそうだ。

「ギャップ・ザ・シリーズ」でベッキーの相手役を務めた女優兼モデル兼歌手のフリーン・サロチャはInstagramで450万人のフォロワーを持ち、タイ初のヴァレンティノのアンバサダーとなった。photography: Daniele Venturelli/Getty Images for Valentino
深く静かに広がる人気
セネガル出身の哲学者でフランスの高等師範学校卒業後、現在はニューヨークのコロンビア大学教授となったスレイマン・バシール・ディアニュが指摘するように、世界的にアイデンティティ回帰やユニバーサリズム批判が進むなかで、BLドラマやGLドラマが中国やアメリカといった国々でも人気があるのは実に驚くべきことだ。ボディネット博士はその人気を次のように分析する。
「Netflixさえもがこの手のドラマを作り始めていることは、こうしたストーリーが保守的な市場でも受ける普遍的な内容だという証拠です。テーマは"愛"であり、それは誰でも共感するものです。しかもLGBTQIA+コミュニティを語るドラマが少ないという点も補ってくれます。タイを"ゲイの楽園"と見るのは単純すぎます。実態はもっと複雑です。しかしながら同国には活気あるゲイ文化があり、これが世界のニーズにマッチして大人気を得ました。大きく育ったBLドラマ産業をタイの保守層も支持しています」
もう一つの成功要因はファンの存在だ。組織力も行動力もあるファン層はSNS上で活発に交流している。特にファッションウィークの時期には、好きな俳優がどのショーに現れるかを特定しようと、ショーの開催場所の情報を交換する。制作側もファンを大切にし、マーケティング戦略の一環としてファンミーティングが世界各地で開催される。ある大手イタリア高級ブランドの広報担当者はファンの行動力に非常に感心している。「ファンはSNSでスタッフのスタイリスト、メイク担当、ボディガードまでフォローし、お気に入りの俳優の行き先を追いかけます。情報を突き合わせて推理し、スターが現れそうなショップやショー会場の前で何時間も待つんです。驚くほどの熱意です」
ラグジュアリー業界が注目
韓国政府が国を挙げてK-POPの世界進出を推進したのに対し、タイ政府はBLやGLの人気拡大に直接関与していない。しかしながらそれが強力な"ソフトパワー"ツールになりえることはすぐに理解した。10年間の軍事政権から民政への移行が行われ、2023年の初の民主選挙の結果、首相となったセター・タウィーシンは、"ソフトパワー"を国家戦略として位置付け、予算をつけた。現在は複数の政府機関によって戦略が引き継がれ、韓国の事例を手本に、「努力は成功をもたらす」という理念を掲げている。タイの国自体をラグジュアリー業界が注目しており、各ブランドが相次いで店舗をオープンさせている。ディオールは昨年、バンコクのプルンチット地区にゴールドの壁と300のフェイク窓を備えたコンセプトブティック、「ディオールゴールドハウス」をオープンさせた。
さらに、人気米ドラマ「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート」シーズン3の舞台もタイ。620万人が熱心に視聴している。タイ・マニアはまだ始まったばかりのようだ。
From madameFIGARO.fr
text: Elvire Emptaz (madame.lefigaro.fr)





