英国王室メンバーが極限のサバイバル訓練を受ける隠された場所、キリングハウスの秘密。

Celebrity 2025.11.11

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襲撃、爆発、そして人質になったときの模擬訓練等々。イギリス軍の特殊空挺部隊(SAS/Special Air Service)の秘密基地、「キリング・ハウス」は1980年代から兵士や王族を訓練してきた。その目的はただひとつ。とにかく「生き延びる」こと。

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アイルランド近衛連隊のロバートソン兵舎を訪問したキャサリン皇太子妃(イギリス、2023年11月8日)photography: Radburn Chris/PA Photos/ABACA

名称からしてスパイ映画そのものといった感じだが、「キリング・ハウス」は実在の施設だ。ロンドンから西へ214キロ、田園風景が広がるヘレフォードにあるスターリング・ラインズ兵舎の一角にひっそりと建っている。ここはSAS(特殊空挺部隊)の司令部であり、危険な任務を命じられた特殊部隊の訓練場所であり、一部の王族が想定外の事態発生時に生き延びる術を学ぶ場所でもある。

「メトロ」紙「ヴィンテージ・ニュース」紙などによればこの建物の写真は一切公開されていないものの、ベージュの壁にどこにでもありそうな窓の、ごく普通の住宅のような外観なのだそう。しかし内部はカメラとマイクが張り巡らされた可動式の迷路となっている。SASのコマンド部隊はここで、実弾を使った人質救出や突入の模擬訓練を、爆音と煙と叫び声が飛び交う中で何度も繰り返す。壁は銃弾に耐えられるよう補強され、各部屋は飛行機、学校、住居など設定に応じてその都度、柔軟に組み替えられる。

一部の壁には「弾丸を吸収する特殊なゴム素材が張られており、排煙換気装置も備えられている。各部屋は常時撮影録音され、建物のあちこちに金属製の標的が配置されている」そうだ。

ウィリアム皇太子とハリー王子の訓練

この施設の教官はここを「生き延びるための学び舎」と呼ぶようだ。訓練生はここで何週間も極度のストレス状態に置かれ、閉ざされた環境で瞬時に的確な判断を下し、発砲し、行動に移すことを体に叩き込まれる。1980年、ロンドンのイラン大使館人質事件を解決した「ニムロッド作戦」の実行隊員もここで訓練を受けた。人質救出の模様はテレビ中継され、SASは伝説入りした。以来、王室メンバーもここで生存・脱出訓練を受けるようになったという。

これまでに訓練を受けた王族にはダイアナ妃、国王チャールズ3世、息子のウィリアム皇太子とハリー王子も含まれる。ハリー王子は2023年刊行の回想録『スペア』の中で、子どもの頃、兄や母と一緒に人質になった想定で、恐ろしい軍事訓練に参加したことを明かしている。それによると暗闇の中で突入部隊がドアを破って閃光弾を投げ込んだとき、恐ろしさに震え上がったそうだ。目的は命の危険に直面したとき、どう反応するかを学ばせるためだった。

2017年にはオーストラリアの「News.com」をはじめとする複数メディアが、当時ハリー王子の婚約者としてロンドン滞在中のメーガン夫人が、誘拐対策の一環として同様の訓練を受けたことを報じた。ウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃も同様の模擬訓練に参加している。「彼」、「彼女」と記載された黒いジャンプスーツを着て人質役を演じ、実弾を使うSAS隊員が救出する内容だったそうだ。

ダイアナ妃の髪が燃えた事件

2021年の「デイリー・メール」紙の記事によれば、1983年にチャールズ3世と当時の妻ダイアナ妃もキリング・ハウスでの実地演習に参加した。その際、一歩間違えば惨事になりかねない事態が発生した。証言者によれば「SASは人質がいる建物への突入を想定し、はしごを搭載した3台のレンジローバーを用意した。兵士たちは車両から素早く降り、はしごを登って特殊な手榴弾を投げ込み、人質を救出しテロリストを制圧することになっていた。冒険好きなダイアナ妃は大喜びで、レンジローバーの運転を自ら買って出た」そうだ。だが事態は思わぬ方向へ進んだ。「妃は車を建物めがけて全速力で走らせた。だが横の窓を完全に閉めていなかった。閃光弾が炸裂すると、破片が飛びこんできて妃の髪に火がついた。同行していた将校がすぐに火の粉を払うと妃の髪を叩いて火を消した。チャールズ3世とおつきの者たちは笑い転げていた」

この訓練の前、チャールズ3世はSASの兵士たちに宛てて、ユーモアを交えたメッセージを書いたそうだ。「もしこのデモンストレーションが失敗しても、私ことプリンス・オブ・ウェールズはSASを責めません」と書かれた手書きのメモは、現在もヘレフォードのスターリング・ラインズ兵舎の壁に額装されて掲げられているとデイリー・メール紙は伝えている。なお、2022年に逝去したエリザベス女王も、生前にこうしたハイリスク訓練を受けていたそうだ。

今日でもこの施設はアメリカ、フランス、オーストラリアなど友好国の特殊部隊を受け入れ、イギリス王室メンバーが受けたような人質救出などの訓練を行っている。デイリーメール紙の取材を受けた元SAS教官は、この訓練の目的をいみじくもこう言っている。

「必要なのは射撃の技術ではありません。生き延びる術です」

From madameFIGARO.fr

text: Léa Mabilon (madame.lefigaro.fr)

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