フィガロが選ぶ、今月の5冊 母国、母語とは? 故郷を失った女性が辿る越境の物語。
Culture 2018.08.11
誰もが移民になりうる時代、越境する作家の新たな代表作。
『地球にちりばめられて』
多和田葉子著 講談社刊 ¥1,836
旧東ドイツ、旧ユーゴスラビア、旧ソ連……そのテレビ番組には「自分の国を失った人たち」が出演していた。留学中に故郷の島国が消滅したHirukoがヨーロッパ大陸で生き抜くため、新たな言語「パンスカ」を作り出したと語る冒頭から一気に惹きこまれる。誰もが移民になりうる時代、国によるアイデンティティを失っても、言語によって越境し、未来を切り拓くことは可能なのか。Hirukoは自分と同じ母語を話す者を探して、言語学を研究する青年クヌートと旅をする。ドイツ在住で、日本語とドイツ語の両方で作品を描いてきた著者の新たな代表作。
【関連記事】
ジェーン・スーが父について語る、傑作エッセイ。
胎児の視点から語られる『ハムレット』とは?
*「フィガロジャポン」2018年8月号より抜粋
réalisation : HARUMI TAKI