現代アメリカの闇を描く、気鋭の脚本家が監督デビュー。

Culture 2018.09.06

切実に語るべきものを携え、冒頭から映画作家の覚悟が映る。

『ウインド・リバー』

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事件の謎の解明が、ネイティブアメリカンのたおやかな文化を不毛の地にさらす米国のマッチョな歴史と二重写しに。やるせなくも迫真性に満ちた秀作。

脚本家が監督デビューする時、比較されるのは過去の自作だ。テイラー・シェリダンの場合、アカデミー脚本賞だけでなく作品賞にもノミネートされた『最後の追跡』、いま、最も期待されるひとりと断言できるドゥニ・ヴィルヌーヴが監督した『ボーダーライン』がそれに当たる。なんと強大なライバルたち。『ウインド・リバー』も旧作と同様にアメリカの辺境を題材にしている。初監督というプレッシャーは大きかったはずだ。しかし、そんな心配はすぐに消えた。冒頭の夜の雪の中を走る少女を捉えたカットに、作り手の覚悟が映ったからだ。

彼女の死をきっかけに、新人FBI、ベテランハンターが事件を追うという展開は目新しいものではないが、舞台が先住民保留地区になることで、法よりも優先されるルールが支配する社会が明確となる。それはまるで西部劇の様相だ。けれど、恐るべきことに本作は実際に起きた事件からインスパイアされている。ジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンという『アベンジャーズ』で超人的な活躍をしてきたコンビも、ここでは自然と暴力に生身で立ち向かうしかない。

その決着が一瞬の銃撃戦で決まるのが、いい。銃の強さと知恵が生死の分かれ目となるのだ。スタイリッシュであると同時にリアリティが感じられるアクションは鑑賞後、すぐに「もう一度観たい」と思わせてくれるほどだった。そのためには残酷な物語と向き合わなければならないのだが。どうしても語らねばならないものと、こんな演出をしてみたいという欲望が見事に合致した、名脚本家が名監督でもあることを証明した稀有なデビュー作だ。

文/松江哲明 映画監督

1999年、『あんにょんキムチ』でデビュー、国内外で評価される。以降、『ライブテープ』(2009年)、『フラッシュバックメモリーズ 3D』(12年)ほか、ドキュメンタリーの枠を超えた力作揃い。
『ウインド・リバー』 
監督・脚本/テイラー・シェリダン
出演/ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーンサル
2017年、アメリカ映画 107分
配給/KADOKAWA
角川シネマ有楽町ほか全国にて公開中
http://wind-river.jp

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*「フィガロジャポン」2018年9月号より抜粋

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