ブラックな風刺が利いた、アメリカ副大統領の一代記。

目的のためなら法をもねじ曲げる、"影の大統領"の怪物的腕力。

『バイス』

巧妙な情報操作で世論を誘導し、始まったイラク戦争の泥沼化によって失墜するディック・チェイニー。2代目ブッシュが若造に見えるほど、普段は「大統領の死を待つお飾り」と言われる副大統領職に密かに権力を集中させた。その古ダヌキ的離れ業を、クリスチャン・ベールが20kg増量し、面構えや声色まで似せて体現する。エイミー・アダムス演じる妻の支えを得た酒浸り青年の汚名返上期、対テロ戦争の名目で全国民を令状なしの監視下に置く絶頂期、心臓を患ってなお不敵な退潮期。ブラックな風刺に満ちた一代記だ。

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＊「フィガロジャポン」2019年5月号より抜粋