ロックダウンの最中に、本を書き上げた女性たち。

Culture 2020.07.09

不安から逃れる、自由な時間を活用する、読書熱の高まりに乗じる……。フランスにおける外出制限期間にデビュー作を書き上げた作家の卵たちの証言を集めた。

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突然起こった日常の喪失が、彼女たちを創作に向かわせた。photo : iStock

「不採用になるのが怖くて、ずっと躊躇していた」と語るのは28歳のマリオン・ドンゾ。小説家の卵にとって、外出制限はまさに起爆剤となった。彼女は4年前に着手した初作品(男系子孫が成年に達すると謎の死を遂げる王家の物語)をこの期間に書き上げた。5月末、家族や友人に励まされて、このファンタジー小説『L’ordre du Lys(百合騎士団)』の原稿をノンブル・セット出版社に送付。小説は年内に出版されることになった。マリオンの“子どもの頃の夢”がようやく実現する。

マリオンのように、外出制限期間に初めて小説を書き上げた女性は少なくない。なかには3月17日から5月11日のロックダウンの間に、初めて執筆を志した人も。この傾向は女性に限らない。5月12日に文芸ウェブマガジン「ActuaLitté(アクチュア・リテ)」で発表された、ハリス・インタラクティブが1166人を対象に実施した調査によると、10人に1人がこの期間に本を書き始めたという。出版社には自宅待機期間中に「大量の原稿」が届いたと、6月3日付の『ル・モンド』紙も報じている。

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失われた時を求めて。

ル・シェルシュ・ミディ出版社の郵便受けには、4月だけで250点もの原稿が届いた。そのうち8点が作家志望の女性によって執筆されたものだった、と広報担当のクレール・プーランは明かす。そのなかのひとりが38歳のギャランス・ソルヴェグ。企業で法務職を務める彼女は自宅待機期間中にデビュー作を書き上げた。『La nuit du cactus(さぼてんの夜)』と題された彼女の小説は、2001年にアルジェリアで起きたある事件に想を得た作品だ。「石油採掘場で働く女性たちがリンチや暴行を受けたり、強姦されたり、生き埋めにされた事件がありました。生き方が自由すぎる、売春まがいのことをしている、男の仕事を奪っているなどと糾弾された。ひとりで生活している女性もいました。よりよい生き方を求めてやってきたはずの彼女たちは、伝統の壁にぶつかってしまったのです」

ギャランスは数年前からこの作品に取り組んできた。2019年のマザリーヌ・ブック・デイで彼女の作品は審査員の注目を集め、コンクールのショートリストに残り、マザリーヌ出版社のディレクターであるアレクサンドリーヌ・デュアンから助言を受けることができた。外出制限で2週間の休暇を取るはめになったギャランスは、こうして手に入れた自由時間を原稿の推敲と、自身が運営する文学ブログ「revesdecriture.com」の改良に当て、完成した原稿を5つの出版社に送った。「もし出版社が見つからなかったら自費出版するつもり」と彼女は言う。

自費出版の道。

自費出版を選んだのは、43歳のオードレー・エルツだ。「小説を書いたのは昨年です。不当な理由で会社を解雇された後でした」と彼女は話す。「自分の身に起きたことを綴りました」という彼女の初めての小説『L'indépendance du pois chiche(ひよこ豆の独立)』は当初、複数の出版社で不採用になった。外出制限が始まり、元広告代理店社員の彼女は猛然と奮起した。「電気ショックが走ったみたいでした」と彼女は回想する。「映画館や劇場がすべて閉まっていた外出制限中は、みんながカルチャーに注目しました。私たちはどこにも出かけられなくなったけれど、カルチャーの方が家の中に戻ってきてくれたのです」

彼女は、クラウドファンディング「KissKissBankBank」で支援を募ることにした。「少しスピードアップさせたかった。この隔離期間を本の出版のために有効に活用したと思えるように」と彼女は話す。「自宅待機がきっかけで自分を解放できました。自分のなかにあった羞恥心を乗り越えられたんです。自由を奪われた瞬間から、努力が必要になった。こうした努力をすることで、自分の殻から完全に抜け出すことができました」。危機的な状況にある時に文章を書くことで、“カタルシス”効果が得られると作家の卵は強調する。

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自分の小さな宇宙を作った。

『Coeurs en fleurs(花咲く心)』(手書きの手紙にノスタルジーを感じる、ロメオという名の大学生を中心とする書簡小説)の著者である21歳のカミーユも同じ意見だ。法学部の学生であるカミーユは外出制限中に作品を書き上げた。小説の中には、登場人物たちが自宅待機生活を送る場面がある。「隔離されたいまの状況について語りたいという思いがあった」と彼女は回想する。「最初は登場人物に自宅隔離をさせるなんて考えてもいませんでした。でも彼らの中に自分の経験の断片を投入してみたい、自分が感じていることを彼らを通して書いてみたい、と思ったのです」。書くことで不安も紛れたとC.Mミュノーズ(カミーユのペンネーム)は言う。

「はっきり言えば、私は自分のために小さな宇宙を作ったのだと思います。不安を掻き立てるあらゆるものを回避するために、本の中でも書いたように、私自身の“時の止まった世界”を作ったんです」。彼女は外出制限中、毎日執筆していたという。「逃避することが必要でした。愛に満ちた世界を創造して、マイナスの波動から逃れ、幸せを求める人に幸福なひとときを贈りたいと思った」。本は自費出版サイト「Librinova」で自主制作した。電子書籍と紙の書籍ともに7月3日に出版されたばかりだ。

いっぽう、21歳のポーリーヌ・トレソル=フェリーヌは、初めて書いた小説『Une vie à tuer(忌々しい人生)』が9月に出版される予定だ。彼女はレ・プレス・リテレール出版とつい最近契約を交わしたばかり。

小説を書き始めたのは2年前だが、外出制限のおかげで「プロジェクトを仕上げる」ことができたと言う。それは、17歳で自殺した若者の精神の軌跡を追う物語。「小説を書き上げて、出版社を探すのにいい機会だと思いました。実際、ものすごく時間がかかりました」と、ニースで哲学と心理学を学ぶ大学生のポリーヌは声を上げる。

そういえば、かのジョージ・R・R・マーティンも、自宅待機期間中に、ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作小説「氷と炎の歌」シリーズ第6部の執筆に専念したそうだ。

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texte : Chloé Friedmann (madame.lefigaro.fr)

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