父親産休を取らない高収入の30代男性たち。

Culture 2020.11.30

弁護士、建築家、金融コンサルタント……時間と労力を必要とする、責任の重い仕事に携わる男性たちほど、父親産休が取りにくいと考えているようだ。日本でもフランスでもその現状は同じなのかもしれない。

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父親産休が取れない高収入の30代。photo : Getty Images

フランスでは、2002年に父親出産休暇制度が導入され、子どもが誕生した時に休暇を取得する権利が男性にも認められた(詳細は囲みを参照)。以来この制度はフランス国民の間に徐々に普及し、現在では10人の新米パパのうち7人が産休を取得するまでになった。10月23日には、休暇の上限を28日間に延長し、うち7日間の取得を義務化するという改正案が、国民議会の第一読会で審議され、採択されたばかりだ。 だが、休暇期間が短かすぎるという声も聞かれるいっぽうで、産休を利用しない父親もいる。非取得組の代表は非正規雇用の男性たち(社会問題総合監査局の報告によると、期限付き雇用契約労働者の休暇取得率はわずか48%)だが、なかには上級管理職や専門職に就く高収入の男性も含まれている。

ホテルファンドのアソシエイトディレクター、37歳のバンジャマンの場合がまさにそう。彼は2歳から6歳の3人の子どもの父親だが、父親産休は取らなかった。「業界の状況や、職責上の地位を考えると、年間5週間の休暇のほかにさらに休暇を取るのは難しい」と彼は言う。「産休を利用して上司と別の時期に自分だけ休みを取っても、上司が働いている以上、結局自分も毎日働くことになっていたと思う」

フランスの父親産休制度
現在フランスでは、子どもの誕生から4か月の間、父親は、希望すれば最大11日間連続(多胎出産の場合は18日間)の産休を取ることができる。これと併せて雇用主が負担する3日間の出産有給休暇がある。ただしこの制度は2021年7月に改正される予定だ。今年9月23日にマクロン大統領が発表したように、父親産休は上限が現行の14日間の2倍の28日間に延長され、このうち、子どもの誕生直後の7日間の取得が義務化されることになる。

「“図々しい”気がした」

バンジャマンと同じく金融業界で働く、36歳のパリジャン、ポールも激務に追われる毎日を送る。デファンス地区のオフィスに通う彼は年間7週間の休暇が認められており、休暇はそれで「十分」と上司は考えているという。「1人目の子どもなら、数日休みを取るのは大切なことだと思う。何もかも初めてのことばかりだから。でも3人目となるとどうかな。僕の場合は、上の2人の子どもたちの放課後の面倒はナニーがしっかり見てくれていたし、生まれたばかりの子どもの世話は妻がひとりでする気になっていた。実際、うちの子は一日中寝てばかりだったから、親がふたりついている必要はなかった」

だからといってポールは雇用主を非難するつもりはない。「職場で禁止されているわけではないので、自宅勤務という選択肢もある。仕事ができてさえいれば、勤務時間でとやかく言われるようなことはない。だから14日間の産休を申請することもできたわけだけど、それはちょっと”図々しい”気がした」

ポールによると、単にフランスにはこうした習慣がないだけだと言う。「オーストラリアやカナダのように、部下がプライベートの暮らしを大事にすることを上司が奨励する国とは違う。フランスの場合、僕のような職場で産休を取る人がいたら浮くと思う。新しい世代ではメンタリティも変わるだろうから、彼らが仕事上の責任と家族に対する責任を両立させながらどんな働き方を提案してくれるか見守りたい」

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“壊滅的な影響”

パリの弁護士事務所の共同創業者でパートナー弁護士のシャルルには、5歳と7歳半のふたりの娘がいる。彼は長女が生まれた時だけ産休を取った。「下の娘が生まれた時は、すでに事務所を立ち上げた後でした。もし仕事を休んでいたら、1日53ユーロの手当てだけで生活しなければならなかった。正直なところ、事業にも壊滅的な影響が出ていたと思います」。実際、自由業は会社員ほど社会保障が充実していない。彼らにとって仕事を休むことは、茨の道を行くに等しい。進行中の案件が中断するだけでなく、結果的に収入がゼロになることを覚悟しなければならないのだ。

シャルルの場合、結論はすぐに出た。クライアントに事情を理解してもらうことの大変さと収入が減ることを思うと、産休は諦めた方が無難だった。「いずれにしても私の場合は、年末年始と夏季休暇というオーソドックスな休暇シーズン以外に休みを取ることは不可能です」。しかし、すべての弁護士がシャルルと同じ困難に直面しているわけではない。2014年以降、パリ弁護士会では、法律事務所に雇われている勤務弁護士(法律事務所の出資者のひとりであるパートナー弁護士と区別して使われる用語)を対象に、4週間の父親産休を取得する権利を認めており、その期間は給与も支払われる。それでも長期間仕事を休むことに対する反発はまだある。「4週間の産休は事務所にとって大きな負担です。私に言わせると、この父親産休制度を要求する勤務弁護士は自由業に向いていない。熱意の欠如や安定した生活を求める会社員気質などの表れです」とシャルルは苛立ちを隠さない。その彼もメンタリティが変わり始めていると認める。「制度が浸透し、あからさまに嫌な顔をするパートナー弁護士は少なくなっています。とはいえ父親産休を取得した場合、勤務弁護士としての経歴に何がしかの影響が残ることは否めませんが……」。経営者の立場からすると、「良識の範囲内であれば」父親産休に必ずしも反対というわけではない。「15日間なら問題ないでしょう」

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“機会を逃した”

ニース在住のマルコは、国際的な設計事務所に所属する建築家で、5歳半の娘の父親だ。マクロン大統領による父親産休制度改正の発表と、産休の倍増が国民議会で可決されたことを歓迎している。「父親産休が延長されれば、父親に責任感を促し、家事を手伝ったり、家族と一緒にいる時間が取れる」。そんなマルコも、自分の子どもが生まれた時は、毎日事務所に通勤したという。入社してたった10日しか経っていなかったのだ。「このことで目立つのは嫌だったし、元気一杯でやる気のあるやつと思われたかった」

現在44歳のマルコは、今は後悔していると語る。「せっかくの機会を逃してしまった。バカなことをした。子どもが生まれるなんて一生に1回か、せいぜい2、3回しかないこと。きちんと経験しないと!」。今後家族が増えるかどうかはわからないと話すマルコだが、父親産休の延長は「最初の第一歩、労使双方にとって有意義な改正だと思う」。確かに進歩ではある。だがヨーロッパの他の国々に比べると、フランスはまだ大きく遅れを取っている。たとえばノルウェーでは、子どもが生まれたら、夫婦合わせて給与が100%保証される出産休暇49週間か、80%保証される同59週間のどちらかを選ぶことができる。フランスにより事情が近いスペインでは、2021年以降、生物学上の母以外の親は、父親だけでなく、レズビアンカップルの場合のパートナーも、16週間(現在は8週間)の産休の取得が可能になる。

フランスでは、現在14日間の父親産休が2021年7月に2倍の28日間に延長される。この28日間のうち、子どもの誕生直後の7日間は父親産休の取得が義務となる。デファンス地区で働く金融コンサルタントのポールは、これまで個人の選択に任されていた父親産休の義務化を歓迎している。「母親の産休は義務、父親産休は権利だった。全然違うよ。それに、女性の出産休暇が義務でなかったら、すべての女性がこんなに長い産休を取るだろうか?」。もっともな疑問だ。

※一部の名前は仮名です。

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texte : Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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