シャネルのものづくりを支えるle19Mが東京に上陸! 展覧会「la Galerie du 19M Tokyo」見どころに迫る。

Fashion 2025.09.23

2021年、シャネルによってパリに設立されたle 19Mは、11のメゾンダール(アトリエ)と約700人の職人や専門家が所属する、パリのサヴォワールフェールを支える場所だ。東京でこの秋、le 19Mの職人たちのクラフトマンシップを体験できる展覧会が開催される。


比類なきクラフトマンシップでシャネルのものづくりを支えるサヴォワールフェール(伝統的な職人技)を持った11のメゾンダール(アトリエ)。le 19Mは、この継承すべき伝統的な職人技を持続可能なものにし、さらなる進化を後押しするためにシャネルがパリに設立した複合文化施設だ。その施設内に併設されたla Galerie du 19Mは、招聘するクリエイターとの対話を通じて、le 19Mの職人たちの技術を伝え、展示するオープンスペースだ。

この秋、le 19Mが誇る、精緻で卓越したサヴォワールフェールやクラフトの未来が体感できる『la Galerie du 19M Tokyo』が期間限定で六本木ヒルズに上陸する。今回、さまざまな角度からメティエダールに光を当てた内容で構成。まずは、le 19Mのメゾンダールによる唯一無二の技術を紹介するインスタレーション『le Festival(フェスティバル)』。建築家の田根剛が率いるATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architectsが手がけた会場構成や華やかなインスタレーションを通してメゾンダールの高い独自技術を紹介し、le 19Mのクリエイティブな熱気を体験できる仕掛けに。ゲストたちがものづくりの原材料から道具、サンプルに始まり、徐々に完成間近な名品へと展開していくプロセスを楽しめる没入型インスタレーションとなっている。

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そして、『la Galerie du 19M Tokyo』では、ふたつの展覧会も開催される。そのひとつが約30人の日本とフランスのアーティスト、職人、アトリエ、工房の作品を集めたエキシビション『Beyond Our Horizons(ビヨンド アワー ホライズンズ)』。日本の伝統的な職人たちとle 19Mのメゾンダールがコラボレーションした作品も展示される。土風炉・焼物師の永樂善五郎や染織家の石垣昭子、京提灯の老舗・小嶋商店などとともに、時を超えて受け継がれてきた技術と実験的なアプローチが交錯して生まれた作品たちは、想像を超えたクラフトの未来を表現している。

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京都を拠点にする土風炉・焼物師18代目永樂善五郎とアトリエ モンテックスが組み完成したのは、茶碗に穴を開けて刺繍を施した斬新な作品。京都を訪れたモンテックスのアーティスティック ディレクター、アスカ ヤマシタと永樂の対話からクラフトの未来が生まれた。© le 19M - Charlotte Robin

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モンテックスとルサージュのコラボレーションも実現。© le 19M - Charlotte Robin

もうひとつの展覧会『Lesage 刺繍とテキスタイル、100年の物語』は、刺繍とツイードのメゾンであるルサージュの100周年を記念したもの。パリのオートクチュールの歴史を彩る大物デザイナーたちの刺繍を請け負っていたミショネ刺繍工房を引き継ぎ、1924年にアルベールとマリー=ルイーズ・ルサージュ夫妻が設立したルサージュ。1983年からはシャネルとの大規模なコラボレーションを開始し、2002年にメゾンのメティエダールに加わった。サンプル総数75000点に及ぶ世界最大の刺繍芸術コレクションを保有するルサージュによる初の国際的な展覧会となる今回。日本人デザイナーと組んだ初期の作品や若き才能のサポート、ルサージュが築いてきた日本のクリエイターたちとの密接な関係から生まれた刺繍など、100年を彩る印象的な作品たちを東京で見られる貴重な機会だ。

LESAGE
ルサージュ

メゾンダールの中でも、その名前が広く知られているのが1924年創業の刺繍のアトリエ、ルサージュ。シャネルのクリエイションに欠かせない芸術的な刺繍を専門とし、シャネルだけでなく複数のクチュールメゾンの刺繍も担当。その後テキスタイル部門も開設し、オーガンザなど多彩な素材を用いて、シャネルのオリジナルツイードも作っている。

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右上奥:1998年からはシャネルのツイードも手がけている。 上:ルサージュのツイードは糸だけなく、紙などのバリエーション豊かな素材を織り込む。それらは機械を止めて手で糸を入れていく、極めて昔ながらの製法で作られている。 中上奥:道具が並ぶアトリエの風景。 中上:アトリエでは、トレーシングペーパーに再現された図案をなぞりながらモーター付きの針を備えた穴開け機を使って穴を開けていく。 左上奥:特殊なかぎ針を用いて、ビーズやスパンコールを縫い付けていくリュネビル刺繍は1810年頃から始まった伝統的な技法。 左上:刺繍デザインの一工程。

2021年、パリの北東19区に設立されたle 19M。その名称に含まれる数字は、所在地であるパリ19区を示すと同時にガブリエル・シャネルの誕生日の19でもある。そして、アルファベットのMは「Mode(モード)」「Mains(手)」「Maison(メゾン)」「Manufactures(手仕事)」「Metiers d'Art(メティエダール)」の頭文字に由来する。ファッションとインテリアにおけるメティエダールの継承を目的としたクリエイションの場であり、シャネルが1980年代に始めた、職人たちのサヴォワールフェールの保存を目的とした取り組みの集大成だ。高齢化する職人たち、そして合理化が進む生産工程、さらに後継者不足と、職人技を取り巻く現状は厳しい。そこでシャネルは、le 19Mを組織化することでフランスの大事な資産であるメティエダールを守り、継承し、さらに進化させる舵取りを担う。もっともle 19Mの職人たちは、シャネルの専属ではない。ほかのブランドからの仕事も請け負うことで、持続可能な職人技の未来を紡いでいるのだ。現在、靴のマサロや帽子のメゾン ミッシェル、プリーツのロニオンなど、11のメゾンダールがle 19Mに工房を構え、約700人の職人とエキスパートが働いている。

LEMARIÉ
ルマリエ

1880年創業のルマリエの歴史は、羽根細工から始まる。1960年代にはシャネルを象徴するカメリアが誕生。ルマリエはいまでもひとつひとつのパーツを手作業で組み合わせ、カメリアを制作。毎年約2万5千個のカメリアがここで作られている。そのほか、シャネルのものづくりに欠かせないクチュール縫製や生地装飾、はめこみ細工などの技術も卓越したものを持っている。

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上奥:ルマリエが制作したさまざまな素材のカメリアたち。 上右:手仕事でフェザーを生地に縫い付けていく。 上中:カメリアの花びらには丸みを持たせ自然な立体感を演出。手仕事で花びらを張り合わせ、シャネルのカメリアが完成。 上左:形を整え、ブルーに染められたフェザーを1本ずつ位置や向きをデザインに合わせて調整しながら手作業で並べていく。

GOOSSENS
ゴッサンス

金細工と彫刻の高い技術を持った創業者のロベール・ゴッサンスは、パリ・カンボン通り31番地にあるガブリエル・シャネルのアパルトマンの家具もデザインした。1954年にシャネルのためにアクセサリーを制作してから、現在にいたるまで、メゾンの金細工を一手に引き受けるスペシャリストだ。さらにシャンデリアやテーブルなども手がけている。

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上奥:鋳造後の工程は手作業で行われる。 上右:コスチュームジュエリーのような美しいパーツ。 上中:職人はロストワックス法で型を作る。鋳型にワックスを流し込んで形を作り、その周りを石膏で覆い固め、加熱して中のワックスを溶かし出す。その空洞に溶かした金属を流し込むとワックス原形と同じ形をした鋳物が出来上がる。 上左:真鍮で立体的で滑らかなフォルムを表現。

今回、東京でのイベントでle 19Mの各メゾンダールが誇る専門技術を間近で堪能できる。たとえば、ガブリエル・シャネルがメゾンのモチーフに選んだカメリアを唯一、作ることができるのがルマリエ。1880年に創業した羽根細工や花細工、そしてクチュール縫製、テキスタイル加工のアトリエとして存在感を発揮している。1950年に創業した金細工のゴッサンスは、1954年にロベール・ゴッサンスがガブリエル・シャネルのためにビザンチン様式のアクセサリーを制作してからの縁。以来、ブロンズやロッククリスタルなど、貴金属以外の素材を使ったアクセサリーを手がけている。2011年にle 19Mに仲間入りしたのはアトリエ モンテックス。ルサージュが装飾的な刺繍を得意とするなら、モンテックスはよりコンテンポラリーでオリジナリティあふれる刺繍を提案する。『Beyond Our Horizons』展では、土風炉・焼物師の永樂善五郎とアトリエ モンテックスのアーティスティック ディレクター、アスカ ヤマシタがコラボレーションし、新しい可能性を示唆する。

ATELIER MONTEX
アトリエ モンテックス

伝統と現代のクリエイションを融合させた刺繍が得意なアトリエ モンテックスは、1949年にパリで生まれた。モダンで洗練されたモチーフをニードルワーク技術やリュネビル刺繍のクロシェのフック、1世紀以上前から伝わるコーネリーミシンを駆使して、熟練の職人たちの手作業で制作されている。

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上奥:職人の手刺繍で生み出された立体的な作品。 上右:針刺繍は手作業で。ひと針ひと針布地に糸やビーズ、スパンコールなどの装飾を施すことで、布地が芸術作品へと昇華される。 上中:繊細な生地に針を刺し、絵柄を描く。 上左:リュネビルフックを用いて、手仕事で刺繍を施していく。

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パリで開催された『Lesage 刺繍とテキスタイル、100年の物語』。美しい刺繍やツイードの特別なピースが並んだ。

メゾンダールの卓越した技術や、これからの将来を対話と実体験を通して深掘りすることができる『la Galerie du 19M Tokyo』。会場では、ルサージュの職人による刺繍入門やアップサイクル素材を使ったチャームづくりなどのワークショップも開催予定。さらにエディトリアル コミッティ(日本とフランスのクラフトマンシップ、その背景にある文化や思想への深い理解を持ち、『Beyond Our Horizons』展全体のコンセプト策定や作家のセレクトにおいて、日本とフランスの文化的架け橋となった5名のクリエイター陣)のメンバーや職人、アーティストが語り合う、トークイベントも。伝統が継承され、未来へと形を変えながら進んでいく、その現場に立ち会える機会になりそうだ。

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エディトリアル コミッティのメンバー5人が語る、la Galerie du 19M Tokyo』の見どころとは。

『la Galerie du 19M Tokyo』
9/30(火)~10/20(月)
東京シティビュー&森アーツセンターギャラリー
開)10:00~17:30最終入場(月~木、日)、10:00~18:30最終入場(金、土、祝前日)
無休
入場無料 ※事前予約制
https://macg.roppongihills.com/jp/
問い合わせ先:
シャネル カスタマーケア センター
0120-525-519(フリーダイヤル)
https://www.chanel.com/

text: Tomoko Kawakami

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