「職人というよりアーティスト」。フェンディが紡ぐ、イタリアの伝統。
Fashion 2025.12.08
メゾンのサヴォワールフェールを支える優れた職人たち。ブランドの歴史や伝統を理解し、見事な工芸品へと昇華する美しいテクニックがここに。
フェンディが繋ぐ、イタリアの伝統の技。
職人の手がバッグに唯一無二の物語を刻む。土地の記憶を伝え、伝統の技を紡ぎ、情熱と愛を語る。フェンディが2020年から進める「Hand in Hand(ハンド・イン・ハンド)」はそんな"手"への讃歌、伝統の技を明日へと運ぶプロジェクトだ。土台となるのは創業家3代目のシルヴィア・フェンディがデザインした「バゲット」。フェンディの職人の手を象徴するこのアイコンバッグに各地の伝統工芸を継承する職人の手を重ね合わせ、お互いの技を調和させてスペシャルな工芸品を生み出す。このプロジェクトのリーダーでもあるシルヴィア・フェンディはこう語る。
「私たちは人について語りたかったのです。何世紀にもわたって手仕事を守り、伝統的な技法を現代に生かすために奮闘している職人に敬意を捧げ、支援したいと思いました。私にとって彼らは職人というよりアーティストなのです」

手でカットしたタイルをひとつずつはめ込む。
第1弾はフェンディの故郷であるイタリアから始まった。シルヴィア・フェンディも言うようにこの国には地域の歴史や文化と結びついた手仕事を守る工房が数多く存在する。そうした各地の伝統工芸を徹底的に調べ、全20州から州を代表する最高の"手"を選び出した。家族経営の工房、現代の名工と呼ばれる職人、村の人々が集う協同組合やワークショップなど形はさまざま。象嵌細工、金銀細工、手織り、レース編み、モザイクなど手法も多岐にわたる。選ばれた20の"手"はその技のすべてをバゲットに注ぎ込んだ。

ヴェネツィア伝統の花のブロケード地に赤のジャスパーのバックルを配して。

孔雀の羽の軸をレザーに縫い込む南チロルの装飾刺繍。
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シチリアのプラティミーロ・フィオレンツァはユネスコが提唱する"無形文化遺産"を体現する珊瑚アートの名匠で、日本でいえば「人間国宝」にあたる。彼は12世紀からこの地域に伝わる技法で、バゲットに赤い珊瑚のレリーフを描き上げた。サルデーニャから選出されたのは、伝統的な手織り「ピビオーネス」を継承するウラッサイ村の女性協同組合「ス マルムーリ」。「ピビオーネス」というのはブドウを意味するこの地方の方言だが、その言葉どおり立体のドットが並ぶストライプ模様のグラフィカルなバゲットを完成させた。中世から続く、極細の銀線で模様を作り出す装飾技法、「フィリグリー」をいまに伝える工房「エッフェーエーレ」はリグーリアの代表。繊細で緻密な手仕事でバゲットを金属のレースワークに再解釈した。こうして生まれた20エディションのバゲットは単なるプロダクトではない。職人の手に宿る時間の堆積が結晶したひとつのアートピースなのだ。その手に敬意を表して、バゲットの内側には「FENDI Hand in Hand」というロゴの刻印とともに、彼らの名前が記されている。

トラーパニ伝統の珊瑚工芸は赤い珊瑚のパーツを使用。

「ピビオーネス」には手動の織り機が使用される。

「ジウディッタ・ブロゼッティ」工房に並ぶ19世紀のアンティーク織り機。

極細の銀線を巻いたり曲げたりして模様を作る「フィリグリー」。

トランク専門メーカーならではのこだわりが内側にも。
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プロジェクトの初披露は2020-21年秋冬コレクション。フィレンツェのレザー工房「ペローニ」の全工程ハンドメイドのバゲットがランウェイに登場。翌21年11月には、ローマのフェンディ本社「イタリア文明宮」で全20エディションのバッグを紹介する『Hand in Hand』展が開催された。同展は23年に東京に巡回、栃木県で創業約80年を誇る「にしかた染織工房」の4代目、西形彩による綴れ織りのバゲットが新たに加わるなど、日本の伝統工芸とのコラボレーションへと繋がった。
創業100周年を迎えたフェンディにとって、このプロジェクトはメゾンの精神の表現であり、未来への道でもある。「目指しているのは職人に光を当てること。私たちが大切にしているクラフトマンシップをこれからも伝えていきたいのです。どの職人にも共通するのは手仕事の技を守ろうとする真摯な姿勢。クリエイションの背後にある彼らのアイデンティティを共有すべき時代に私たちはいるのです」とシルヴィア・フェンディは強調する。"手と手を取り合って"人の営みを写し、世界のどこかで技と向き合う職人たちを称える「ハンド・イン・ハンド」のバゲット。今回紹介する第1弾に続いて、20州から新たなる20の"手"が参加した第2弾が発表されるなど、プロジェクトは続いている。
すべてが目まぐるしく移り変わる時代のなかで、時間をかけて手をかけて作られたものは普遍の価値を問いかける。技術の継承にとどまらず、多様な文化への敬意や人が紡ぐ時間の尊さを教えてくれる。未来を見つめながら、過去の手に耳を澄ますーーその眼差しの先はどこまでも明るい。

最年少で栃木県の伝統工芸士に認定された西形彩が手がけた伝統的な綴れ織りのバゲット。¥2,769,800(参考価格)/フェンディ(フェンディ ジャパン)
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「イタリア全20州の職人技で魅せる、フェンディのアイコンバッグ「バケット」。」
*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋
photography: ©Fendi text: Kaori Tsukamoto







