「服は魔法」。河合優実がディオール2026年秋冬コレクションで感じた役を纏うということ。
Fashion 2026.03.26
パリのチュイルリー庭園。柔らかな光が差し込むその場所で、ディオール 2026-27年秋冬コレクションが発表された。そのコレクションに日本からは俳優の河合優実が参加。彼女から見た今季のお気に入りのルックや彼女にとってのアールドヴィーヴル(暮らしの美学)を紐解いていく。
ディオールのウィメンズコレクションの舞台として恒例となったチュイルリー庭園。今回のショーでは、バッサン・オクトゴナルを囲むグリーンのベンチや、池に浮かぶ睡蓮など、モネやスーラを想起させる風景が広がりながらも、どこかシュルレアリスティックなイミテーションの庭園が立ち現れた。
そのショーに、日本からは俳優の河合優実が来場。当日はファーを効かせたデニムジャケットにワイドパンツを合わせたスタイルで登場した。フロントにあしらわれたリボンのディテールは、どこかクラシカルなニュアンスを感じさせながらも、肩の力を抜いたワイドパンツとの組み合わせによって、全体にリラックスした空気を生み出している。さらに、鮮やかな赤いリップが装いにシャープな印象を添え、スタイル全体を引き締めていた。
コレクションの舞台となったチュイルリー庭園は、16世紀にカトリーヌ・ド・メディシスが築き、18世紀にアンドレ・ル・ノートルが再設計した王家の庭園である。かつてこの場所を訪れるには、ふさわしい服装が求められていたが、現代ではパリジャンも観光客も思い思いの装いで行き交う空間となった。クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソンは、そんな公園での散策をひとつのパフォーマンスと捉え、人々がそれぞれの役を演じるために服を纏っていると考えた。その視点が、今回のコレクションの着想源となっている。
この「服を纏い、役を演じる」という発想は、俳優である河合優実の感覚とも深く重なる。「歴史を見渡しても、映画の登場人物が纏う服は、その時代におけるアイコンになってきたと思いますが、観客だけでなく役者自身にも非常に大きな影響を与えると思います。役にあった適切な服を選び、袖を通すことで、心が燃えるように勇気が湧いてきたり、退廃的な気分になったり、自信がなくなったり、リラックスできたりします。時には姿勢さえ変わりますし、ほとんど魔法だと言っていいくらいです。服は、着る人の生活や倫理や美意識が反映されるものだと思います」
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ルイ14世によって一般に開かれたチュイルリー公園。この記憶を背景に持つ今季のコレクションには、18世紀のムードが漂う。ムッシュ ディオールが影響を受けたこの時代のシルエットは、ジョナサン・アンダーソンによって「ジュノン」ドレスや「デルフト」ドレスは、ミニドレスやジャケットへと軽やかに再解釈されていた。また、クチュールメゾンらしい完成度の高いトータルルックとして提示される一方で、デニムやブーツといったカジュアルなアイテムと組み合わされることで、庭園を行き交う人々の多様な装いを思わせる、自由なスタイルが印象に残った。
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チュイルリー公園に出現したミニ庭園が舞台。 ディオール 2026-2027年 秋冬 コレクション。
そんな様々なアイテムが登場した中で、河合が特に心を惹かれたのはコートだったという。
「ときめきの詰まったドレスやジャケットに混じって、いくつかのコートも印象に残りました。どれもミニマルですがフォルムがうっとりするほど綺麗で、憧れました。合わせていた蓮の花がモチーフのパンプスもかわいすぎてショーの最中目が釘付けになりました」
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今回のコレクションが描いたのは、特別な舞台ではなく、日常の延長にある風景だ。公園を歩くこと、街を巡ること、そのひとつひとつが"役"だとすれば、旅もまた、自分を更新するための時間と言えるのかもしれない。
では、河合優実にとって旅とはどんなものなのだろうか。「私が旅に欠かせないものは土地の食べ物や、その時のその場所でしか出会えない古着・古本・古道具、そして移動中やホテルの中で仕事をするためのパソコンです」
そしてショーの舞台となったチュイルリー庭園もまた、誰にとっても開かれた日常の風景だ。「チュイルリー庭園で一日を過ごすとしたら、友達と一緒にパリのデパートでおいしいものを買ってピクニックがしたいです。天気のいい日は一人でも公園でぼーっとするのが好きなので、本やノートやパソコンがあれば、気ままに歩いたり座ったりしながら一日中過ごせると思います」
ディオールとフィガロがともに大切にしてきた価値観、「アールドヴィーヴル(暮らしの美学)」。河合が日常をより豊かにするために心がけていることは「知ること」だという。「知ること。心がけずとも好奇心は旺盛な方だと思うのですが、それでも世界には知らないことが多すぎるし、知ったら楽しいことも多い。そして知らなかったことを知ることで人に優しくできると思います。それが豊かさにつながると思っています」
チュイルリーの庭を歩く人々がそれぞれの役を纏うように、河合優実は「知ること」を通して、自分自身の在り方を更新し続けている。その積み重ねこそが、彼女にとってのアールドヴィーヴルなのかもしれない。
photography: Dior text: Miki Uno






