ヴァン クリーフ&アーペルの希少なヘリテージコレクション。
Jewelry 2025.01.02
価値があるからこそ、一度購入した持ち主の手を離れて市場に戻る時計やジュエリーがある。作り手であるメゾンに買い戻された逸品は、新たな持ち主へ受け継がれる。高い技術と誇りを持つメゾンだけができる、アーカイブ販売の物語。
Van Cleef & Arpels
世界的な人気で稀少価値が上昇、"本物"はますます貴重に。
世界中に張り巡らされたネットワークを通じ、過去の名品を買い戻す事業に力を注いでいるのはヴァン クリーフ&アーペルも同じ。文化遺産として後世に残すために収集した作品を「パトリモニー コレクション」と呼び、再販売される作品は「ヘリテージ コレクション」と呼んでいる。メゾンのヘリテージ部門では、買い戻した作品とアーカイブの資料を念入りに照合し、正真正銘の本物であることを確認してから、アトリエの熟練した職人たちがクリーニングや修理にあたる。「でも、年月を経た作品が持つ趣や味わいをすべて消してしまうことはありません。時間を経たゆえの趣を除去することなく、オリジナルの美しさに修復するのです」と、ヘリテージ コレクション デピュティ ディレクターのナターシャ・ヴァシルチコフは言う。経年変化のニュアンスは作品に個性を与え、魅力を高めるとメゾンは考えているのだ。
「コレクターの方々が年代物のジュエリーに関心を持つようになったのは、ここ20年から30年のことです。それ以前は、過去の作品の多くが変形したり壊れたり、リフォームされているようなありさまでした」
市場に流通している過去の作品をチェックしていると、長い年月が過ぎるうちに元のジェムストーンを外して別のものに取り替えたジュエリーに出くわして驚くことがあるそう。そんな場合はオリジナルのデザイン画に忠実なリストアを試みるのだという。
「メゾンの歴史を記録したアーカイブのおかげで、私たちは真贋を見極め、最初にアトリエから出荷された時と同じ状態であることを保証し、鑑定書もお付けすることができるのです」
アンティークやヴィンテージの人気が高まっているいま、オークションやディーラーでも多くの年代物が取り扱われているが、メゾンのこうした事業は過去の品々を購入する人々の安心感にも繋がっているとナターシャは語る。では「ヘリテージ コレクション」ではいま、どんな時代の作品に人気が集まっているのだろうか?
「ヴァン クリーフ&アーペルをよくご存じのジュエリー愛好家の方々は、1906年に創業したメゾンの歴史のなかで最も革新的とされるアールデコやレトロの時代に強い関心を示されています。ファッションが好きな方は、イエローゴールドやオーナメンタルストーン(モザイクやカメオに使われる色鮮やかで不透明な宝石)を多用したボヘミアンスタイルを好まれるようですね。そして圧倒的な人気を誇るのは、アニマル クリップ。1950年代から60年代にかけて制作されたコレクションです」
愛らしい動物たちのクリップは、店頭に並べるとあっという間に売れてしまうほど。コンディションがよく、間違いなく本物のヴァン クリーフ&アーペルの過去の作品を見つけるのは年を追うごとに難しくなっている。サステナビリティへの世界的な関心の高まりもあり、「ヘリテージ コレクション」を巡る状況は今後ますます熱くなっていきそうだ。
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*「フィガロジャポン」2025年1月号より抜粋
text: Keiko Homma