ヴァシュロン・コンスタンタンのアーカイブ販売「レ・コレクショナー」
Jewelry 2025.01.03
価値があるからこそ、一度購入した持ち主の手を離れて市場に戻る時計やジュエリーがある。作り手であるメゾンに買い戻された逸品は、新たな持ち主へ受け継がれる。高い技術と誇りを持つメゾンだけができる、アーカイブ販売の物語。
Vacheron Constantin
メゾンの技を敬愛する顧客の要望からスタート。
1755年、ジュネーヴに創業したヴァシュロン・コンスタンタン。まもなく270年を迎える歴史の中で、メゾンに培われてきたのが職人技の伝統で ある。先の9月、イタリア・ヴェネツィアで開催された職人の祭典『ホモ・ファーベル 2024』でもヴァシュロン・コンスタンタンはルーヴル美術館と共同出展し、工房に伝わる修復技術を披露した。同メゾンは創業以来制作されたすべての時計のメンテナンスを可能としており、ルーヴル美術館とのコラボレーションも1754年にフランス王ルイ15世に献呈された『天地創造』の修復をヴァシュロン・コンスタンタンが手がけたことから始まったという。それだけ修復技術は伝統的なマニュファクチュールにとって欠かせない財産と言える存在なのだ。
そんなヴァシュロン・コンスタンタンは現在、自社のアーカイブを収集し、修理、そして再販するという取り組みを行っている。それが、ヴィンテージタイムピースのコレクション「レ・コレクショナー」だ。このプロジェクトは2008年に始まったが、現在はコレクションとして成立し、オンラインブティックでも閲覧できる。対象となるのは、主に20世紀に制作された懐中時計と腕時計。オークションとは異なり、グランドコンプリケーションや大規模な修復が必要となるピースはここでは扱わない。ただし、写真のように現代の創作へと繋がる布石とも言えるようなタイムピースが集められている。メゾンの「ヘリテージ部門」はこれらのタイムピースを独自のネットワークで収集し、ケースとムーブメントのシリアル番号、そして鑑定の記録を照合し、トレーサビリティを明確化する。それも創業からの販売・製造台帳、図録などを保管してきたメゾンだからこそなしえる技と言えるだろう。そうして選ばれた時計は、制作年代に応じて3つの修復部門に送られる。基本的な修復は、"当時の状態"を保つということ。時代ごとに異なる部品のストックや、時には必要に応じて昔の機械を用いて部品を作り直すこともある。メゾンの熟練時計師たちの力が失いかけた命を新たに蘇らせるのだ。
一方で修復とは異なるが、現在のクリエイティブにおける根幹となるのが、草創期から受け継がれてきたカスタムメイドのハイジュエリーウォッチの歴史である。1812年製の最古のジュエリーピースに始まり、1600点以上となるアーカイブから選りすぐりのジュエリーウォッチを集め、メゾンは世界的な巡回展『ヘリテージ ハイジュエリー』を行っている。そうした貴重なアーカイブが現在の作品に多大なる影響を及ぼしているが、写真の扇形のシークレットウォッチもそのひとつ。過去のアーカイブを復活させる「レ・コレクショナー」、そして眠っていた名品にあらためて焦点を当てるハイジュエリーのアーカイブピース。これらの時計は過去から未来へと受け継ぐべき遺産として、ヴァシュロン・コンスタンタンの核となる"継承"の物語を語り続けるのである。
text: Aki Nogami