パリの川村さんちの朝ごはん

春の気配を感じるタンポポに、セロリとオレンジのサラダ。

久しぶりにモンマルトルにあるShinya Painに行った。
稲垣信也さんが一人で切り盛りするパン屋さんだ。
パン作りから販売まで一人で全てをまかなうから、
営業時間は16時半から19時半の3時間。
木曜から日曜の、週に4日しか店は開いていない。
おまけに、私の家からはメトロを乗り継ぎ45〜50分ほどかかる。
それで、行けるタイミングがなかなか訪れない。
だから、同じ界隈で用事がある時には、ここぞとばかりにShinya Painに立ち寄り、
パンを買って帰る。

先週、その、“ここぞ”のタイミングがやってきた。
Shinya Painから徒歩15分ほどのところで取材したい店ができて、取材依頼に行った帰り、モンマルトルまで足を延ばすことにした。

数ヶ月ぶりで対面したShinya Painのパンは、やっぱり、信也さんのパンの表情をしていた。
今はバゲットではなく、天然酵母を加えて作り、切り売りする大きなパンを主力に扱うブーランジュリーが随分と増えたけれど、Shinya Painほどに朴訥とした姿のパンは、パリでは数少ない。

店に入り、陳列台に並ぶパンをひと通り見渡すと、いつも、数年前に信也さんに連れて行ってもらった、かつて彼が時を過ごしたノルマンディーの農家の、にわかにタイムスリップをしたような気になる素朴で力強いパンを思い出す。

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どうしようかなぁと思いながら今回は、Blé Barbu du Roussillon(バルビュ・デュ・ルシヨン麦)のパンと、Khorasan(コラサン) 麦のパン、それにスコーンとクッキーを買うことにした。
信也さんは、使用する古代麦の名前をそのまま商品名にしている。
古代麦とは、いわゆる在来種のことだ。
ある地域の気候風土に適った、その地域で栽培されていた(されている)もの。
例えば、バルビュ・デュ・ルシヨン麦の、“ルシヨン”はスペインに隣接する南フランスの地方名だ。コラサンはイランの東方を指すらしい。
「もともとは南でしか栽培出来ないものだったけれど、もしかしたらここの土質と気候条件ならいけるかもって〇〇麦を、(フランスの)北部で、栽培を試み始めた農家がいるよ」
なんて話も、信也さんから前に教えてもらった。

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「バルビュ・デュ・ルシヨンは、これくらいの厚さで。コラサンは、半分でも買える?」
「もちろん!」

リクエストした厚みに切られるパンを見ながら、しっとりとしたパン生地と香ばしい風味を口の中に思い出して、マーマレードを合わせて食べたいなぁと思った。

それが、パンを抱えて帰るうちに、スコーンはマーマレードで食べて、パンにはオレンジを合わせたい気分に替わった。
さて、どうやって食べようか。オレンジにシナモンやアニスを加えてデザートサラダっぽく仕立てるか、みずみずしい野菜とさっぱりしたサラダにするか……。
“セロリと一緒にしたら美味しそうだなぁ”
食べたことはないけれど、おいしそうな気がした。
それに少し苦味のある野菜を加えて……アンディーブでもいいし、ほかに何かあるかなぁ……。

家にあったアンディーブとセロリとオレンジで、ビネガーの種類を変え、朝ごはんに同じ具材のサラダを作り続け4日目の朝、マルシェに行き、春の気配とともに登場したタンポポの葉を見て、そうだ! これも合うかもしれない、と思って買うことにした。

タンポポの葉は、苦味とぬめりを少しずつ持ち合わせている。
初めて出合ったのは、20年前、パラスホテルの厨房で研修をした時だった。
そのレストランでは、フォアグラとアーティチョークとトリュフを具につめた太めのマカロニに、タンポポの葉を3枚ほど添えて出していた。
研修生の私は、形の整ったタンポポの葉を選ぶよう言われた。
外側の、緑が濃く出ている舌触りに粗さを感じる部分は使わず、内側の黄色くて葉の柔らかい部分だけを摘む(無用とされる大半の残りの部分は、バーとルームサービス用の料理に回された)。

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生産者さんから直接買うタンポポの葉は、荒々しい。
もちろん自分で食べるときは、全部をおいしくいただく。
私は今年、さっと炒めて、塩焼きそばにするのにはまっているのだけれど、今回はサラダに。

オレンジとの相性に、ブリヤ・サヴァラン(チーズ)が合うな! と思ってチーズ屋さんに行ったら、支払いの時になって、目の前に置かれていたゴルゴンゾーラの切り口がえらく食欲をそそるクリーミーさで、追加して買った。実際、スプーンですくって何口も止まらなくなるおいしさだった。

それを、添えてみた。
Shinya Painとの相性も抜群だった。

昨年の2月に始まりました「パリの川村さんちの朝ごはん」、今回で一旦終了となります。
これまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました!

●今日の朝ごはん

・セロリとオレンジのサラダ
(セロリ、オレンジ、タンポポの葉、アンディーブ、オリーブオイル、白ワインビネガー、フルール・ド・セル、コショウ)
・ゴルゴンゾーラ
・Shinya PainのBlé Barbu du RoussillonとKhorasan
・コーヒー

*アンディーブの代わりにカブでもおいしいだろうと思います。
*同じにはならないけれど、ぬめりを考えると、タンポポの葉の代わりにはウルイが良いかもしれません。
*4日も同じサラダを作り続けたのは、セロリの切り方が定まらなかったからでした。その話については、ポッドキャストにアップしました。

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*Shinya Painの様子とサラダの作り方は、YouTubeでお楽しみください。

川村明子

文筆家
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
朝の光とマルシェ、日々の街歩きに日曜のジョギングetc、日常生活の一場面を切り取り、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。近著は『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス刊)。


Instagram: @mlleakikonotepodcast「今日のおいしい」 、Twitter:@kawamurakikoも随時更新中。
YouTubeチャンネルを開設しました。

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