パリの川村さんちの朝ごはん

トーストと一緒に、アンディーブとマッシュルームのサラダ。

1月は、外食をせずに過ぎた。
体調が思うようではなく、うれしい誘いも立て続けにキャンセルして、気づけば2月目前。
あれ? 今までは冬眠だったのか?! と自問したくなる感じで、体がムズムズし始め、穴ぐらから外を覗きたい熊のような気分になった(実際のところ熊がそんな気分なのかは分からないが)。

それで、早速ランチに出かけた。
定期的に訪れたい大好きな1軒、シェ・マルセルに。
久々の外食でウキウキして、まっさらな気持ちで、その日のおすすめが書かれた黒板メニューを眺めた。
メインは、仔鴨のエシャロットソースか、仔牛の骨つき背肉キノコクリームのどちらかにしようかなぁと迷いつつ、いずれにしろお肉にするなら前菜は何か野菜がいいな、と思ったのだけれど、野菜じゃないひと皿で惹かれるものがあった。
脳みそのムニエル。
店主に「仔羊?」と聞いたら、「仔牛」という。脳みそという言葉にはギョッとするかもしれない。でも、見た目は白子ととても似ている。白子の呼び名が功を奏して、すぐに警戒心が芽生えずに済むのではないだろうか。実際、日本で白子の一品を前にして、「魚の何?」と聞かれ「精巣」と答えたら、即座に顔をしかめ「無理だ……」と手をつけなかったフランス人男性が周りに数人いるから、ギョッとする度合いでは似たようなものじゃないかと思う。
舌で受ける印象を考えたら、白子の天ぷらが好きな人は、きっと、脳みそのムニエルも好きなのではないかなぁ。

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最終的に、今日はどっぷりフレンチを楽しもう! と、前菜は仔牛脳みそのムニエルに、メインは仔牛のキノコクリームを取ることにした。
友人は、ニシンのマリネと、仔羊のあばら肉のメインに決めたらしい。
それらを注文して、改めて、やっぱり少しサラダを食べたい! と思った。

それで、カウンターに戻り、オーダーを打ち込んでいる店主の背中に向かって言った。
「ピエール! このランチセットにある、アンディーブのサラダ。単品で頼むことできる?」
「Non,non,non,non,non……そんなの無理に決まってるだろう」
煙たそうな顔を作って手のひらを振り、断るそぶりを見せてから、笑顔で応じてくれた。

出てきたアンディーブのサラダは、角切りのハムと小口切りの青ネギと合わせ、典型的なヴィネグレットソースで和えてあった。この店のヴィネグレットは、マスタードが効いている。

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アンディーブが旬の間は、マルシェで見かければ欠かさずに買って、頻繁に食卓に上る。私にとっては、冬に、最も生で食すことの多い野菜の一つだ。
そんなわけでとても身近な素材ながら、自分の味付けではない、いつもと趣の異なるヴィネグレットで味わったら、これもっと食べたい! と食べたそばから思った。
それも、カリカリに焼いたトーストの上にたっぷりのっけて、バリバリっと頬張りたい! そんなイメージまで湧いた。

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翌朝さっそくマルシェでアンディーブを買ってきて、次の朝、ごはんに作ることにした。

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いつも野菜を買う生産者さんの隣のスタンドは、シャルキュトリー(豚肉加工品専門店)だ。
“あのマスタードが効いたヴィネグレットには、ハムは断然厚切りなんだよな”とシェ・マルセルでの味を思い出しながら、「5mmくらいの厚さに」とお願いして、切ってもらった。

それに、マッシュルームも加えることにした。
というのも、アンディーブのサラダに使われていたヴィネグレットは、シェ・マルセルのレギュラーメニューにあるマッシュルームのサラダのそれと、おそらく同じものだったと思う。そのマッシュルームサラダも大好物なのだ。

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ところで、ヴィネグレット(vinaigrette)とは、油+酢+塩+コショウがベースのソースを言う。そう、ドレッシングのこと。フランス語で酢はヴィネーグル(vinaigre)で、語尾変化したものがドレッシング。だから、きっと酢は大事なんじゃないかと思う。それ以前に、酢の酸味が好きで、我が家の台所にはだいたい10種ほどの酢がある(いま数えたら12種あった)。

サラダもよく食べるから、オイルも数種揃えている。私は、冬には、オリーブオイルよりもクルミ油を使うことの方が多い。理由は単純に、冬の素材を思い浮かべた時に、具として加えることをイメージしたら、オリーブの実よりもクルミの方がしっくりくるから。ヘーゼルナッツも合うけれど、クルミ油よりもずっと値が張るので、手の届きやすいクルミ油を常備している。

クルミ油は風味が強いから、もう少し柔らかな風味のピーナッツオイルと大抵合わせて使う。ただ、いつもストックしている作り手さんのピーナッツオイルをちょっと前に買いに行ったら品切れで、家にある分は使い切ってしまっていたから、この朝は、ヒマワリ油を代わりに加えることにした。

パンをうっかり焼き過ぎちゃったな、と思ったのが、全然そんなことはなかった。油っ気のないクルトンのような感じで、上にサラダをこんもり盛ってもペタッとならず、思い描いていたバリバリ感が楽しめた。

冬の瑞々しさを朝から存分に味わえて、清々しいごはんになりました。

●今日の朝ごはん
・アンディーブとマッシュルームのサラダ
(クルミ油、ヒマワリ油、シードル酢、マスタード、フルール・ド・セル、黒コショウ)
・リンゴ
・Brut de Painsのパン、meule
・コーヒー

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パリの川村さんちの朝ごはん一覧

川村明子

文筆家
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
朝の光とマルシェ、日々の街歩きに日曜のジョギングetc、日常生活の一場面を切り取り、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。近著は『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス刊)。


Instagram: @mlleakikonotepodcast「今日のおいしい」 、Twitter:@kawamurakikoも随時更新中。
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